待ち伏せ
「白兎の涙」を呼んでいただいてありがとうございます。お気に入り登録件数を見て、いつも光栄な気持ちでいっぱいです。これからもがんばっていきますのでよろしくお願いします。
ところで、今回も刹那は強引です。ゴーイングマイウェイな刹那ですが、今後とも生暖かい目で見守ってやってください。
心配そうな顔の母に見送られ、いつもと変わらない様子で華夜は家を出た。今日は、速水家で刹那たちと再会した日から週が明けた月曜日の朝だ。
あの日刹那たちと別れた後、家族の待つ和室に戻った華夜を持っていたのは、複雑そうな顔をした家族と楽しそうな表情の直政だった。婚約のことについて話そうとした華夜よりも先に家族は口々に言った。刹那のことが好きなら家のことは気にしなくていい、と。中条菖の婚約者だったことが気になるが本家が収めてくれる4そうなので心配しなくてもいい、と言われた。そして、最後に家族のことを心配して刹那とのことの言えなかったのに気付いてあげられずにすまなかった、と。どうやら、直政は華夜と刹那が想い合っていたが、婚約の事を気にして言い出せなかったと家族に話したようだった。家族に隠し事をするのは気が引けたが、本当のことを離したら大反対されることは分かっていたので誤解は解かなかった。刹那たちの思惑通りに行っている事が気に入らなかったが、目を瞑っていることにした。
だが、表面上は平気な顔をしていたが、もしかしたら、学校で刹那たちが接触してくるかもしれないと華夜は緊張していた。今すぐにでも家に引き返しそうになるのを我慢しながら、やっとのことで学校の門が見えるところまでたどり着いた。そして、華夜は学校の門の前に立っている人物に目を見張った。
(…なんで?どうしてそんなとこにいるの?!休み時間に教室に来るかもしれないとは思ったけど、登校時間に、しかも門の前にいるなんて想定外だよっ!!)
華夜は不測の事態に混乱してパニックになり、かなり挙動不審な動きをしていた。そんな華夜を同じ学校の生徒たちは不審人物を見るように通り過ぎて行った。。そんな周りの様子に気づかず、華夜は混乱した頭を何とか落ちつけようとしていた。
(……落ち着いて、私。あの人が私に会うためにあそこにいるなんてきっと気のせいだよ!きっと何か別の用事があるんだよ。ちょっと婚約の件で自意識過剰になってるのかも?普通に通り過ぎちゃえばいいんだよ)
そう考えた華夜は人の波に紛れるようにして門を通り過ぎようとしたが、そう簡単に事は運んでくれなかった。華夜は急に右腕を引っ張られ、驚いて反応が遅れた数秒のうちに人の波を抜けていた。そして、未だに右腕を掴んでいる相手を見上げると先ほど、門の前に立っていた刹那だった。
(……イヤーッ!!やっぱり私を待ってたの?!なんか眉間にしわ寄ってるんですけどっ?!なんで、私、何かしたっ?!あ、隠れて通り過ぎようとしたか。…でもそれだけで?確かに一昨日婚約したばっかりだし、告白っぽいことも言われたようなそうでもないような感じだけど、でも私なんてのどこにでもいそうな普通の女だし、高崎先輩なら選り取り見取りなのに、そもそもなんで私だったの?もう、意味わかんないよっ!でも、と、とりあえずは挨拶、だよね?)
「…お、おはようございます、高崎先輩。先輩はここで誰か待ってるんですか?」
びくびくしながら刹那に挨拶した華夜は腕を引っ張られた時点でほぼ確信した推察を否定するために問いかけたが、ますます刹那の眉間のしわは深くなっていく。それを見た華夜はじりじりと後ずさっていた。それを見ていた刹那は、ますます腕を強く掴んで口を開いた。
「お前のほかに誰がいる?なぜ俺から隠れようとした?門の前に立っているのは気づいていたはずだ」
「せ、先輩が別の誰かを待っていると思っていましたので邪魔してはいけないと。まさか、私だとは思いもしませんでしたから。…すみませんでした」
ぺこり、と頭を下げると華夜の言葉を完璧に信じたわけではなさそうだったが、仕方ないとでも言うように刹那はため息を付いた。華夜が刹那を4顔を見上げると深く刻まれていた眉間のしわはなくなっていた。それを確認すると、華夜はほっ、と一息ついて、刹那に尋ねた。
「私を待っていたって何か用事でもあったんですか?」
「用事と言えば用事だな。昨日のお前の態度を見て、未来の夫に対する態度ではなかったから改めさせるために待っていた」
「あ、改めさせるって……」
「別に心配ない。こんな公衆の面前では大したことはできない。ちょっとした仕置きだ」
「ちょっ、仕置きって、……っ、やっ」
急に掴まれたままだった右腕を、ぐいっと引っ張られ華夜はそのまま刹那の抱きつくように倒れこんでしまった。慌てて左手を突っ張って離れようとしたが、右腕を掴んでいる方とは逆の腕を腰にしっかり回されているので、ほとんど状態は変わらなかった。それでも何とか離れようとしたが体力を消耗する一方で、どうあっても刹那の腕から抜け出せないと分かると華夜は諦めて大人しくなった。
「そうだ。最初からそうやっておとなしくしていろ。そうすれば少しは優しくしてやる。わかったな?」
「…そんなの嫌、です。そういう人がいいのなら、今すぐに私との婚約を解消してください」
「はははっ、やっぱりお前はほかの女とは違うな。今までの女だとすぐに頷いて媚を売ってきていたが、嫌だと言われたのは初めてだ。…面白い」
刹那はにやり、と不敵に笑った。その笑いを間近で見た華夜は背筋に悪寒が走り、まるで自分が肉食動物に狙われる草食動物になった気分だった。華夜が引きつった表情浮かべているのを見て、刹那はますます意地の悪い笑顔になって言った。
「男は逃げられれば逃げられるほど相手を追いたくなる性分だ。どうせ抵抗するなら力一杯抵抗して俺を楽しませてみろ」
(ムリ、ムリ、ムリーーーッ!!こんなのどう相手すればいいっていうのーっ!!出来ることなら婚約解消して欲しいのになんか段々と窮地に追い込まれているような気がするのは気のせいなのかな?!)
刹那の言葉で抵抗らしい抵抗もできずに華夜が固まっていると、いつの間にか華夜の顔から僅か数センチ離れたところに刹那の顔が迫っていた。慌てて彼の頭に手をやり、何とか公衆の面前での羞恥プレイを逃れようとつい先ほど躊躇っていた抵抗を再開した。
「…ぃやっ、ちょっ、と、高、崎、先輩、やめて、くだ、さいっ!」
「言ったはずだ。抵抗は男を煽るだけだと、俺も例外ではない。それとも誘っているのか?」
「そっ、そんなわけ、ないですっ!!いい加、減、に、して、くだ、さいっ!!」
なんとか逃れようとする華夜の必死の抵抗も空しくついに唇を奪われそうになり、とっさにぎゅっと目を瞑ると聞き覚えのある声がした。
「おはよう、2人とも。こんなところで何してんの?」
恐る恐る目を開けると、そこには制服を着て鞄を片手に持った速水明と荻野康之が立っていた。
「明、お前、タイミング悪過ぎ。もう少しで奪えそうだったんだけどな」
刹那はものすごく不満そうな顔をして、明を睨みつけていた。
「ごめん、ごめん。でもそのくらいにしとかないともっと注目浴びることになると思うけど」
「俺は別に構わないが?」
「でも彼女の方は構うみたいだよ?」
明の言葉で辺りを見渡した刹那の方は注目されていることに慣れているのか平気そうな顔をしていたが、華夜の方は今までこんな経験したことがなかったので野次馬の多さに驚いた。そして、それは好奇や羨望から嫉妬や蔑みなどといった悪意のあるものも含まれていて、思わずまだ抱きしめられている状態のままだった刹那の服の裾を掴んでいた。刹那は華夜の行動に軽く目を見張っていたが、次の瞬間には元の表情に戻っていた。
「とりあえず、ここは人目が多すぎる。場所を変えた方がいい」
「そうだね」
「あぁ」
康之の言葉に刹那たちは頷いて場所を変えるために歩きだした。もちろん華夜の腕は刹那がしっかりと掴んで引いていた。
「ちょ、ちょっと…」
華夜の意見は聞かず、戸惑いの視線を向けるが三人は気づいているのかいないのか、刹那たちは人の波を抜け出して校舎に向かって歩いて行った、華夜も半ば引き摺られるように三人の後に続いた。
いかがでしたでしょうか?刹那と華夜のラブラブ話も書いていきたいな、と思ってはいるのですが、なかなか話が進まずすみません。精進しますので、よろしくお願いします。




