第二十四章:ツチノコ探し
「起立。れいっ。」
「「「ありがとうございましたー」」」
やっと6限目の授業が終わり、教室はキャッキャと楽しそうに話しながら帰り支度する生徒や、帰っていく生徒でごったがえしている。
そんな楽しい放課後にも関わらず、確実に浮いている人が1人…
「はじめちゃんはじめちゃん!早くツチノコ探しに行こうよー!オレ、もぅ我慢できないぃー!」
あの、牛乳と混ぜるだけで美味しくできてしまう朝ご飯の定番(?)のCMに出てくるゴリラの真似をしながら、虫捕りアミを振り回しているシュバーレさん。
それを聞きつけてか、ぼくのもとにやってくる男子生徒が2人…って速っ!なぜに走るの?!
「うおぉ!俺も我慢できないぃぃぃ!」
「俺もだぁぁぁぁ!」
「なにをだぁー!」
うわっ!しまった!勢いでぼくまで叫んでしまった…あぁ…恥ずかしい…クラスの女子がクスクスこっち見て笑ってるよー…
「なにをだとぅ?ふっ…知れたことを!俺はいつだってはじめに着いて行くからな!覚悟しろ!はじめ万歳!はじめ萌えー!はじめ萌えー!またこんど、このメイド服着てくれー!」
そう叫びながら、メイド服をヒラヒラと鞄から取り出し、涙目で土下座している男子生徒………前田。
「おぉ!俺も見てぇ!春崎、俺からも頼むよ!見してくれ。絶対似合うよ!かわいいよ!春崎万歳!」
「えっ?!ちょっと亮平…キャラおかしくない!?ちょっと!なに、そのエロい笑顔は!…ぼく…いやだよ!着ないよ!ぼくは着ないからね!」
そうだ!着るもんか!ぼくの心は漢なんだぞ!
「じゃあ、せめてこれを!せめてこれを着けてくれー!」
無駄に叫びながら、亮平が前田の鞄から取り出したものは…
「これを着けて、亮にゃん♪だぁ〜いすき♪または、亮たまぁ〜お腹空いたにゃあ〜♪って言ってくれ!それだけで俺は満足だ!」
取り出したものはネコ耳カチューシャぁ!!?
ちょ、ちょっと!亮平が、亮平が壊れたよ!いやだよ!ぼく、こんな亮平いやだよぉー!!
「た、谷口…君…?」
「えっ!高橋さん!?ダメッ!今は亮平に近付いちゃダメだよ!もう、いろんな意味で危ないよ!」
突然現れた高橋さんは、ぼくの警告を無視して、じりじりと亮平に近付いて行く。
「そ、それ、かわいいね。私、着けてみたいな…」
うわっ!高橋さんまで?!今日はいったいどうしたの!?実はそんな趣味が…
「いいよ。ほら、貸したげる。」
「わぁーい!ありがとー。…えへへっ似合うかな?」
カチューシャを着けてクルクルと回る高橋さん。
高橋さんってもしかしてかなり天然?
「グット!」
「よ〜し!次は、はじめちゃんの番よ!覚悟ぉ!」
「いやだよ!ぼく、着けないよ!」
「そんなこと言わないで〜。谷口君と前田君も手伝って〜」
「「ハッ!!」」
威勢のいい返事とともに、ぼくの両腕を抑えるバカと化した亮平と、もともとバカな前田。
「うわぁ!卑怯だよ!うぅ〜離してぇー!いやっ!ネコ耳はやだー!…うそっ?!くぅ〜…動けないぃぃ!えっ?い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」
…カパッ
高橋さんの手によってぼくの頭に着けられたネコ耳カチューシャ。
あっ…ちょっと泣きそう…もう、この際こいつら(高橋さんを除く)を殴り飛ばし、ケチョンケチョンにしてやりたい気分だ。
「似合う似合う!かわいい!かわいいよはじめちゃん。かわいい!」
ぼくを見て、ひたすらかわいいを連呼する高橋さん。
「想像通りだ。はじめ!お前、本当にありがとう!いいものを見してもらったよ!あぁ…マジでかわいいぜ!はじめ万歳!!」
「う、うるさいバカッ!!」
カチューシャを着けたぼくを、やたらと褒めてきた前田。
なんというか…ウザかったので、一度やってみたかった飛び後ろ回し蹴りをしたぼく。蹴った瞬間、フワリとひるがえるスカートはどうしたものか…
「ぐはっ…ピ、ピンクだと!…我が生涯に…一片の悔い無し!!」
「い、いいじゃん!なに色でも!ぼく、好きで履いてるんじゃないんだよ?!あっ!ちょっとそこの男子!見ない!見ちゃダメッ!」
教室の中にいた男子生徒の視線がぼくに集まっている。
うぅ…いやだな…なにこれ?ぼくは男なの!お・と・こ!!凝視するな!
そして、気持ち悪い笑顔を浮かべ、その場に倒れる前田。
さようなら…そして、二度と起きあがないで…
「くおぉー!春崎ぃー!亮たまって、亮たまって言ってくれー!」
「言わないっ!」
だめだ…前田を倒したと思ったら、次は亮平!?…今日の亮平はやっぱりおかしいよ…こうなったら…
「えいっ!」
「く、くすべらっちゃ!!」
亮平のお腹にぼくの全体重をかけた正拳突きが炸裂!
意図的に出したであろう、奇妙な叫び声を出して前田と同じように、ドサッと倒れる亮平。
次起きるときは、もとの亮平に戻ってるといいな…
「こら!お前らドサッと倒れるな!今からツチノコ探し行くんだぞ!」
どこからかヤカンを取り出し、亮平と前田の顔に水をかけるシュバーレさん。
なんだか古くない?気のせい?
「あぁ〜あ。いい夢見えるかと思ったのによー。シュバーレ、お前どうしてくれんだよ?」
「あ、悪かった。でもな!ツチノコ探しに行く=はじめちゃんとドキドキイベントが発生するかもしれねぇだろ!?オレはこっちのほうがいいと思うけどなー」
「「おぉ!それは素晴らしい!」」
水を浴びて目覚めたバカ2人(もう亮平はダメみたいだ)は、目をキラキラさせてぼくを見てくる。
なにこの純粋な子供の目は?そんな目で見られると…なんというか…ねぇ?
「そ、そんなこと言ってないで、ね!早くツチノコ探し行こっ!」
「そうだ!早くツチノコ探し行こうぜ!はじめちゃんとのうれし恥ずかしびっくりドキドキイベントを期待して!」
なにさ!うれし恥ずかしびっくりドキドキイベントってなにさ!?
そんなイベント、絶対に発生さしてなるものか!
「あ、そういえば麗香ちゃんは?高広は?」
「あ、麗香さん(手芸部)と高ちゃん(野球部)は部活があるから行けないって言ってたよ。」
「あ〜…そりゃ残念!せっかくのツチノコに会うチャンスなのに…まぁいいや!紗香ちゃんも来るかい?」
「えっ?あ、うん。私も行きたい。」
「オッケー!じゃあ、行こーか!」
「はい!」
元気よく返事をして、シュバーレさんに着いて行く高橋さん。
「おい、はじめ!」
「なに?」
パシャッ!
ぼくが振り返ると同時に、勢いよくシャッターをきった前田。
…カメラ、持ってきてたんだ…
「うおぉぉぉ!なんて自然体!そしてネコ耳!はじめ!俺はおま…ぐふぉ!」
「バカッ!こんなもの!」
とりあえず前田のお腹を殴り、いまさらだけど、カチューシャを急いで取るぼく。
「こんなもの……」
…カパッ
…前田の頭にネコ耳装着!
「ぷっ…全然似合わないや」
なんだろ?なんか楽しいや
「さ、亮平。行こっ」
「お、おう!」
「シュバーレさーん。待ってくださいよー」
ぼくは亮平とシュバーレさんの後を追った。