第十八章:ベースボール!前編
「ストライーク!バッターアウト!!」
す、すごい!
高ちゃんこんなに球速かったっけ…?
今、一人目の打者に対して、高ちゃんはストレートだけで三振を取った。
しかも全部ど真ん中!なのに一人目の打者はボールに当てることすらできずにベンチへと帰っていく…
「すまない…こんなはずじゃ…」
「気にするな!まだ始まったばっかりじゃないか!あいつらに俺達の力見せ付けてやろうぜ!」
「おう!」
なんかすごい青春してるなぁ。
『二番。セカンド。キュルス。』
…キュルス?珍しい名前だなぁ。
ネクストバッターサークルにいたキュルスさんは何故か笑顔で僕の方を見ると、手を振ってきた…なに?いったいキュルスさんはなにを求めているの?僕の場所に打つぞってこと?
そしてキュルスさんは笑顔のままバットを持ち、打席に立った。
亮平がサインを出し、高ちゃんが頷く。
高ちゃんがゆっくりとボールを握り、流れるような動きで振り上げた腕を振り下ろす。
シュッ!ギュルルルル…
高ちゃんから放たれたボールは、亮平のミットめがけて、ものすごい速さで進んでいく…
ブンッ!!
もらった!と言わんばかりにフルスイングをしたキュルスさん。
そして、キュルスさんの思いとは逆に、亮平の構えたミットに吸い込まれていくボール。
ズバーン!!
「ストライーク!」
審判の人が叫ぶ。
いったい高ちゃんの球なんキロ出てんの?
このストレートなら、プロ野球選手にひけをとらないんじゃないかな?
僕がそんなことを考えている内に、高ちゃんは2球目を投げ終えていた。
危ない危ない。ちゃんとボールに集中しないと!
高ちゃんは亮平のサインを見て、3球目を投げる。
シュッ!ギュルルルル…
ズバーン!
「ストライ〜ク!バッターアウッ!」
三球目もストレートで、コースは真ん中高め…キュルスさんは動くことすらできず、笑顔で立ち尽くしている……あ、目があった…
そして何回か頷くと、ベンチへと帰っていった。
『三番。サード。タキムラ。』
……
………
…………
「ストライーク!バッターアウッ!チェンジ!!」
すごい!三者連続三振!
へっ!どうだ!参ったか!って台詞が似合いそうな笑顔を浮かべる高ちゃん。
そしてベンチに帰ると、笑顔で僕に話しかけてきた。
「はじめ。今俺の肩、ビンビンだぜ?」
高ちゃん…いつからそんなキャラに…?
僕が知ってる高ちゃんはこんなじゃないはずだよ…もっとクールなイメージしかないのに…
「はじめ。今俺の肩、ビンビンだぜ?」
何故にリピートですか?
高ちゃん…いつからそんなキャラに…?
僕が知ってる高ちゃんはこんなじゃないはずだよ!もう一度言うけど、クールなイメージしかないよ!
「おっし!ナイスピッチングだな高広!…だが、そんなんじゃ俺の華麗な守備が見せられないだろ?どうにかしろよ!」
「知らん。」
「存分に知れぇぇい!」
いきなり叫びだす前田。
華麗な守備って、誰に見せるつもりなんだろ?
今、天界野球場イーストダイヤモンド☆には敵チームのみなさんと、僕たちしか居ないのに…
だが、そんな事は気にせずに高ちゃんに文句をいい続ける前田。
「高広!おまえなぁ!俺の守備をどれだけの人が見たがってるのか知ってんのか!」
「いや、知らん。」
「俺も知らんわ!でもな!でもだぞ!はじめを含む女の子達が俺の華麗な守備を見たら、俺に惚れるかもしれんだろが!さっせ!そこんとこさっせ!」
「誰が惚れるかバカッ!!消えてしまえ!前田なんて僕の前から消えてしまえぇぇぇ!」
いきなりなんて事を言うんだ前田のやつ…たぶんさっきの言葉で、僕の体内温度が2度くらい上がったよ!なんで僕が前田に惚れなきゃいけないの?絶対無理だよ!てゆーか、嫌っ!!
「はじめ!俺に惚れろ!俺はいつだって…
カキーン!!
その瞬間、ボールを打った音が響いた。
僕は急いで打球に目をやると、打球はやや低めではあるが、ボールがバットの芯をくったようで、勢いよく左中間をまっぷ断つ!打ったランナーは我もの顔で一塁を踏み、そのまま二塁へと向かう。
バッターは…ショウゴさん?!
うそっ!なんか予想外なまでにすごい足速いんですけど!ショウゴさんっていったい何者?流石、野球経験者はすごいね!敵チームから来てもらったのに、
「俺、こっちのチームッスから!え?仲間だった?知らん知らん!」
みたいな勢いで走ってる…ように見える。
「うっし!続けよみんな!…はじめ姐さん!俺、やりました!やりましたよ!」
「えっ!いや…う、うん!」
『二番。ショート。谷本。』
「よし!私がショウゴ君を帰してやる。はじめ。お前も続け。」
「う、うん!…えっ?てことは、僕が三番なの?!」
「うむ。」
美佐さんは、僕の質問に答えると打席に立った。
見た感じ普通のスタンダードフォームで構える美佐さん…えっ?!何で左打席?美佐さんグローブは普通に右利き用だったから右打者だと思ってたよ。
そんな僕の考えとは裏腹に、美佐さんは慣れた感じで、ピッチャーが球を投げるのを今か今かと待っている。
美佐さんの思いが届いたのか、ピッチャーがゆっくりと振りかぶり…そして投げた。
シュ!シュルルル…
バスン!
「ボ、ボール!」
ボールが完璧に見えていたのか美佐さんは、
「ふっ、当然だ。君はもう少しコントロールを鍛えた方がいい。」
みたいな感じで次の球を待っている。
ピッチャーはボールだったことに不満なのか分からないけど、ちょっとご機嫌ななめに見える。
でも、
「そんな事は言ってられねぇ!なんたって俺はピッチャーだからな!次は空振りだ!」
とか思っているのか、1球目よりも、よりいっそう大きく振りかぶり、その振り上げた腕からボールを放つ。
シュ!シュルルル…
カーン!
「ファール!」
美佐さんは軽く流すかのように外角低めのスローカーブをカットする。
ピッチャーの人は狙い通りだったのか、ニヤリと笑うと、一息置いてから再びボールを投げる。
シュ!シュルルル…
さっきのスローカーブは見せ球だったのか、相手ピッチャーは懇親のストレートと言ってもいいほどの速いストレートを投げた。
カキーン!
「ふぉぁ?!なぁにぃぃ!!?」
相手ピッチャーの懇親のストレートを上手く流し打ちした美佐さん。
相手ピッチャーは自分の懇親のストレートを打たれた事にびっくりしたのか……うん。叫んだ。しかもなんかアホっぽく。そして、打球は勢いよくそのままサードの頭上を越え、ファール線ギリギリのとこで落ちる。
走って一塁へ向かう美佐さん。
すかさずレフトが走ってきてボールを拾い、ファーストに投げる。
パシッ!
「セーフ!!」
レフトの見事な送球を、ファーストの人が捕ると同時に、叫ぶ審判の人。
当然だ。と言うように、美佐さんは僕の方を向くと、ニッコリと微笑んだ。
「はじめ姐様〜!!」
いつの間にか帰ってきていたショウゴさんが僕に向かって走って来る。
えっ?何故に様なの?さんじゃなかったっけ…?
「これで1点でございますだー!俺は…俺はやりましたぞー!」
僕のところに着くと、叫ぶショウゴさん。
「うん!ショウゴさん足速いんだね!びっくりしたよ!」
「ははぁー!ありがたき幸せ!」
『三番。セカンド。はじめ。』
「ショウゴさんごめんね!僕、打順来たから…」
「はい!頑張ってください!自分!全身全霊を込めて、応援しておりますだ!」
「あ、ありがと。」
そして僕はバットを持って、打席に立った。