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『錬金術士』の舞台裏

あるいは『理久のお仕事編』

『総括すると、マレビトも魔物も究極的には同じものだ。異質の力を以て不可思議を祓う。そしてマレビトの異質さは力だけにとどまらない。彼のものたちは』――――



 炎の揺らめきが不安定になる。どうやら随分長い時間が経ったらしい。由梨はグイッと大きく伸びをしてから立ち上がった。理久から読んでおけと渡された歴史書(和訳済み)を読んでいたら、思ったより没頭してしまったらしい。窓から空を見れば、月が西に傾いていた。

「そろそろ寝よ。美容に悪いし」

 理久は徹夜で――――というか、体質の関係から夜型になってしまった――――調合すると言っていた。大掛かりな調合なら由梨と共にやる必要があるが、今回は複雑ではあるもののあまり魔力は必要ないはずだ。

「おやすみー。」

 誰に言うでもなく呟いてベッドにもぐりこんだ。






 理久が持つ魔力は見習い以下、もっと言えば一般人としても低いレベルだ。そのため、調合の時には外付けの魔力が必要になる。理久はこれを冗談混じりに『電池』と呼んでいる。勿論、由梨にしか通じていない。ちなみに魔力が切れても充填可能で、充填は由梨がやっている。

「げ、電池がもう切れそう。由梨に充電たのまないと」

 さて、その『電池』だがまさか本当に電池の姿をしているわけではない。理久の場合は両腕に四つずつのバングルとタイピンと眼鏡、それにグラスチェーンだ。普通、魔力を充填させるアイテムとしては指輪やピアスが一般的だが『指輪は作業の邪魔。ピアスは穴を開けたくない』と理久がわがままを言った結果だ。形状も魔力の流れ方に関わる為、調合をするときの理久は呆れるほどの重装備だ。




「うっし、電池装着完了。さーてと」

 バングルを全てはめて、ようやく準備完了だ。材料はそろっている。魔力も外付けながら、ある。あとは理論を使って調合すればいい。ナイフで指に傷をつけ、流れる血で古代語を書き連ねる。素材から取り出すべき特性、望む変容、精霊への請願、代償……そういったものを羊皮紙に書き込んでいけば調合に必要な魔法陣のでき上がりだ。

 錬金術の釜から液体を取り出し魔法陣をなぞると血で書かれた紋様が淡く輝きだす。



《告げる。我は理を知る者、真理の僕。森羅万象を司る精霊よ、我が声に応え来たれ》




 呪文を唱えだすと『電池』が小さく振動を始めた。呪文に反応して魔力が魔法陣に流れ込む。血で魔法陣を書いたのは、自分自身を魔法陣の一部として魔力の流れを促す為だ。

術者は魔力の流れを制御する。理久は制御こそ優秀だが、魔力に問題が多い。由梨は魔力は高いものの活かしきれていない。だからこうして分業して調合を行う。『錬金術士のユーリ』の舞台裏だ。




 呪文で魔力の流れを操り、材料同士の反発をねじ伏せる。チリチリと肌が焼け付くような錯覚。それが治まれば調合は終わりだ。最後に羊皮紙を焼き捨てる。血で魔法陣を書いたとばれると由梨がうるさい。証拠を残さなければいくらでも言い逃れできる。

「はい終了っと。あー眠い」

 長い時間集中すると、疲れは一気に襲ってくる。ひとつ欠伸が口から漏れて――――意識が途切れた。






 空が明るくなり始めたのを感じて目が覚めた。隣のベッドに寝ているはずの相棒(つかいま)はまだ工房から戻っていないようだ。夜が明けると猫になる体質なので、夜が明ける前にはベッドに戻るのが常のはずなのだが。

「そこまで時間がかかる調合じゃなかったはずだけどなあ……?」

 ベッドから降りてガウンを羽織り、工房へと向かう。調合には独特のにおいがつき物なので、工房と寝室は建物からして別になっている。あくび交じりに工房の扉を開けた。

「理久ー、だいじょー……あ。」

 工房には誰もいなかった。床には服と魔力をこめた『電池(アクセサリ)』が散乱している。服の胸に当たる部分がこんもりと膨らんでおり、探ってみると黒猫がすやすやと眠っていた。どうやら調合を終えてそのまま電池が切れたように眠ってしまったらしい。


「お疲れ様」


 起こさないように黒猫(あいぼう)をそっと抱き上げる。さあ、一日の始まりだ。

そろそろ由梨を活躍させたいので、次回はたぶん由梨がメインです。一応、由梨が主人公のつもりです。

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