あたしと『異世界』(side由梨)
時系列ばらばらでごめんなさい。
そういえば言い忘れてたけど、宮廷魔術師さんの名前はアーロンさん。あたしは某海賊漫画を思い出したけど、理久は『モーセの兄弟と同じ名前だ』って言った。『モーセって、海を割る人だっけ?』って聞いてみたら、『海賊漫画でアーロンっているのか?』と聞き返された。
「海賊といえば麦わら帽子かハリウッド映画でしょ」
「海賊といえばピッピにフック船長に大航海時代の英雄だろ」
「……そーだね。理久って妙に常識に欠けてるもんね」
「モーセが海を割った人間としか思っていない由梨に常識知らずといわれてもな」
だめだ。いつものことだけど、あたしの常識と理久の常識は違いすぎる。
そのアーロンさんだけど、あたしたちを自分のお師匠様に預けてからもしょっちゅう連絡をくれる。この間手紙がきて、今日あたり顔を出してくれるらしい。アーロンさんが来る日はちょっとだけ夕飯を豪華にする。やっぱりお客様はちゃんとおもてなししないといけないしね。理久は未だにアーロンさんのことが好きじゃないみたいで、この日だけは夕食が豪華になるのが納得いかないみたい。
今日のメインはポテトグラタン。そうだ。グラタンといえば、この家のオーブンを初めて見た時はびっくりしたっけ。見た目は石窯オーブンなんだけど、薪がいらないの。
錬金術では火は大切な物で、工房にある大きな釜の下にはいつも炎がある。その炎をオーブンに流し込めるように仕掛けを作ってあるんだって。仕掛けを動かすにはそれなりの魔力が必要で、魔力が少ない理久は動かせない。どこへ行っても要領が悪いのは理久らしいというかなんというか。
オーブンだけじゃなくて、この家の道具はほとんどが魔力で動かす物だから、家事はあたしの担当になった。
ま、昼間は猫になっちゃうだけでも家事の戦力にはできないんだけどね。
「お、いいにおいだな」
「あ、じいさま! 今日はグラタンにしますね」
「おお、ご馳走じゃの。馬鹿弟子も喜ぶじゃろう」
じいさまがひょっこり顔を出した。じいさまはあたしたちの保護者兼先生でアーロンさんの師匠で、実はここじゃない世界から来た『元勇者様』らしい。役目を果たしたあと、権力争いに巻き込まれかけたから暴れるだけ暴れて逃げ出したんだって。
理久といいじいさまといい、異世界から来た人の扱い悪くない? ヒトゴトだけど『祈りの神子』って人と猫が心配。いじめられてなければいいけど。
この世界の錬金術は【初期のア○リエシリーズ+現代科学+民間療法レベルの薬学】みたいなトンデモ錬金術です。