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EP 10

嵐を呼ぶ転入生

『王立ルナミス学園』の講堂。

シャンデリアが輝く広大なホールに、数百人の新入生が整列していた。

壇上では、長い白髭を蓄えた学園長が、ありがたくも眠たい祝辞を述べている。

(……長い。校長の話が長いのは異世界転生しても変わらないのか)

リアンは直立不動の姿勢を保ちながら、意識を半分飛ばしていた。

隣では、ライバル宣言をしたクラウスが、微動だにせず真剣な眼差しで学園長を見つめている。さすがは侯爵家の嫡男、姿勢もメンタルも鋼鉄製だ。

「――以上で、祝辞を終わります」

ようやく話が終わった。

拍手が起こり、リアンも機械的に手を叩く。

これで解散か、と思ったその時だった。

「さて。最後に、本年度の『特待生』を紹介します」

学園長が再びマイク(魔道具)を握り、少し緊張した面持ちで告げた。

「我が国と、長きにわたり国交を閉ざしていた『エルフの国』より……友好の架け橋として、特別留学生をお招きしております」

ざわっ……。

静寂だった講堂が、どよめきに包まれた。

エルフ? あの伝説の種族が? ここに?

「……嫌な予感がする」

リアンの背筋に悪寒が走る。

まさか。いや、ありえない。エルフは人間を嫌っているはずだ。

だが、壇上の扉がゆっくりと開き、その「まさか」が姿を現した。

「みんな〜! こんにちは〜!★」

弾けるような笑顔。

背中に揺れる透明な羽のような魔力光。

そして、少し改造された(スカート丈が短い)制服を着こなす、銀髪の美少女。

「ル、ルナ……!?」

リアンは思わず声を漏らした。

そこに立っていたのは、数日前、涙の別れ(?)をしたはずの幼馴染――エルフの姫、ルナだった。

「わたくし、ルナ・シルフィードと申します! この学園で、人間のお友達をいーっぱい作りに来ました! よろしくねっ!★」

ルナはアイドル顔負けのウィンクを飛ばした。

その愛らしさと、エルフ特有の神秘的なオーラに、男子生徒たちは一瞬で撃ち抜かれた。

「か、可愛い……!」

「本物のエルフだ……!」

「天使か!?」

会場のテンションが爆上がりする中、ルナはキョロキョロと客席を見回した。

そして――リアンと目が合った。

「あーーっ!! みーつけた!!」

ルナは壇上から飛び降りた。

物理的に。

「ちょ、ルナ様!? 階段を!」

教師たちの制止も聞かず、風の魔法でふわりと着地すると、一直線にリアンの元へダッシュしてきた。

「リアーーン!! 会いたかったよぉぉぉ!!」

「ぐえっ!?」

タックル気味のハグ。

周囲の視線が、再びリアンに集中する。

「な、なんだアイツ!? エルフの姫様と知り合いなのか!?」

「男爵家の息子じゃなかったのか!?」

「許せん! 爆発しろ!」

(……終わった。ステルス作戦、完全崩壊)

リアンは白目を剥いた。

これでもう、「平凡なモブ」として生きることは不可能だ。

「むぅ……?」

その騒ぎに、隣にいたクラウスが眉をひそめた。

「おいリアン。……その、破廉恥な格好をした少女は誰だ? まさか、君の知り合いか?」

クラウスはルナを指差した。

ルナはリアンから離れ、クラウスを見上げた。

「ん? なにこのキラキラした人?」

ルナは首を傾げた。

「僕はクラウス・アルヴィン。……君、校則違反だぞ。壇上から飛び降りるなど、淑女の振る舞いとは……」

クラウスが説教を始めようとした時、ルナがニカっと笑った。

「ルナだよ! ルナと仲良くしてね★」

ルナはクラウスの手を握り、上目遣いで微笑んだ。

至近距離での、ハイエルフ直伝の「魅了チャーム」クラスの笑顔。

「な……っ!?」

クラウスの言葉が止まった。

彼の顔が、耳まで真っ赤に染まっていく。

「な、ななな、なんだ君は!? い、いきなり手を……!?」

クラウスは女性免疫がゼロだった。

高貴な家柄ゆえ、女性とは一定の距離を保って接してきた彼にとって、ルナのような「距離感ゼロ」のタイプは天敵エイリアンだったのだ。

「えへへ、手ぇあったかいね!」

「ひぃっ!?」

クラウスは悲鳴を上げ、バッ! と手を振りほどいた。

「し、失礼するッ!!」

「あ、逃げた」

クラウスは脱兎のごとく、人の波をかき分けて逃走していった。

その背中は、いつもの冷静沈着な侯爵令息とは程遠い、パニック状態そのものだった。

「……あーあ」

残されたリアンは、深いため息をついた。

右には、トラブルメーカーのエルフ娘。

左には、逃亡したライバル(ポンコツ疑惑)。

そして周囲には、好奇と嫉妬の視線を向ける数百人の生徒たち。

「……前言撤回」

リアンは天を仰いだ。

「平凡な学園生活? ……無理だ。今日から毎日が『戦争』になりそうだ」

学園の鐘が高らかに鳴り響く。

幼き男爵リアン・シンフォニア(6歳)。

彼の、胃痛と波乱に満ちたスクールライフが、今ここに幕を開けたのだった。

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