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EP 13

ゴルド商会ルナハン支店、その奥にあるVIP専用の応接室。

最高級の絨毯が敷かれ、甘い『太陽芋』の羊羹とお茶が振る舞われる中、支店長のニャングルは、上客である貴族の男と向かい合っていた。

「毎度おおきに……。男爵様には、いつも贔屓にして頂いて」

ニャングルは商売人らしい揉み手で頭を下げるが、その表情はどこか晴れない。

演技の幕が上がった。

「どうしたのかね? ニャングルさん。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの『太陽芋』で大儲け、出世間違いなしだというのに。まるでこの世の終わりのような顔をしているじゃないか」

貴族が不思議そうに尋ねる。

ニャングルはわざとらしく大きな溜息をついた。

「へい……。実はお恥ずかしい話、最近悩み事が出来ましてな。……商売の成功を妬む『獣』に、悩まされているんですわ」

「ふむ? 獣とな?」

「……実は、クルーガちゅう近衛騎士はんのことですわ」

ニャングルは声を潜め、周囲を警戒するそぶりを見せた。

「あの男が、ワテの店の若い女店員に……その、言い寄っとるんですわ。いや、言い寄るだけならまだしも、仕事中やというのに尻は触るわ、乳は揉むわ……」

「な、何と!?」

貴族が持っていた扇子を落としそうになる。

堅物で知られるあのクルーガが?

「ワテも必死に止めましたんや。『お店でそういうことは困ります!』と。ですが、奴はこう言いました。『俺は近衛騎士だぞ! 文句があるなら帝都まで来い!』と、権力を振りかざして……」

「そんな事が……!? 騎士の風上にも置けぬ!」

「その女店員はショックで泣き崩れ……結局、店を辞めて田舎に帰ってしまいましたわ。将来有望な、ええ子やったのに……」

ニャングルはハンカチを取り出し、嘘泣きを始めた。

目薬も仕込んでいないが、そこはプロの商人。心の汗(悪意)を目から流すなど造作もない。

「ゆ、許せん! 騎士ともあろう者が、市井の娘を辱めるとは!」

貴族の正義感(と、若く優秀な騎士への潜在的な嫉妬心)に火がついた。

ニャングルは畳み掛ける。

「それからワテ、心配になって個人的にクルーガのことを調べたんですわ。そしたら……出るわ出るわ。裏では酒や博打に呆けて、借金まみれ。そのストレス発散に、弱い立場の女を誑かす最低の獣ですわ」

もちろん、全て真っ赤な嘘である。

クルーガは酒も嗜む程度、博打などせず、休日には図書館で調べ物をするような真面目な男だ。だが、嘘は大きいほど、そして具体的であるほど人は信じる。

「でも、ワテは一介の商人でして……。相手は泣く子も黙る近衛騎士様。何も出来ない事が悔しくって、悔しくって……!」

ニャングルが机をバンと叩く(ふりをする)。

「分かった。……ニャングルさん、もう良い。泣くのはおよしなさい」

貴族は立ち上がり、義憤に燃えた瞳で言った。

「そのような不届き者を野放しにしておくのは、帝国の恥だ。私は中央にも顔が利く。……後は、私に任せなさい」

「だ、男爵様ぁ……! おお、なんて慈悲深い! ありがとうございます、ありがとうでおまっせ!」

ニャングルは深々と頭を下げ、床に額を擦り付けた。

数分後。

貴族が帰った応接室で、ニャングルは冷めた紅茶を啜り、ニヤリと笑った。

「……チョロいもんでんなぁ」

彼は窓の外、騎士団の詰め所がある方向を見やった。

「さて、クルーガはん。明日あたりから、上官や同僚の視線が冷たくなりまっせ? 『火のない所に煙は立たぬ』言いますけど……ワテが油を注げば、煙どころか大火事ですわ」

5歳児リアンの命を受けた「大人の解決法」。

それは剣よりも鋭く、魔法よりも残酷に、真面目な騎士の社会的地位を切り裂こうとしていた。

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