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EP 11

ルナハンの商店街。

いつもなら閑散としているゴルド商会支店の前に、この日は長蛇の列が出来ていた。

香ばしく、そして鼻腔をくすぐる甘い匂いが、通り一体を支配している。

「さぁさぁ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ゴルド商会が自信を持ってお届けする、奇跡の新食材やで!」

店頭で声を張り上げているのは、支店長のニャングルだ。

彼は湯気の立つ屋台の前で、派手な手振りを交えて演説していた。

「その名も……『太陽芋たいよういも』や!!」

ニャングルが割った芋の中身を見せる。

黄金色に輝くその断面は、まさに太陽の輝き。

「痩せた土地でも育ち、栄養満点! 何より、砂糖菓子みてぇに甘い! 一つ銅貨2枚! さぁ、騙されたと思って食うてみなはれ!」

「へぇ、太陽芋? ただの芋だろ?」

「甘いって、野菜が甘いわけ……」

半信半疑の客が一人、購入して一口かじる。

「はふっ、はふっ……んぐっ!?」

客の目が飛び出した。

「あ、甘いっ!! なんだこれ!? 蜂蜜をかけたのか!?」

その叫び声が、群衆の導火線に火をつけた。

甘味はこの世界では贅沢品だ。それが、野菜として、しかも安価に手に入る。

「俺にもくれ!」「私にも!」「子供に食べさせるんだ!」

「10個くれ! いや、箱でくれ!!」

飛ぶように売れる。

用意した在庫は瞬く間に蒸発した。

その夜、ゴルド商会の金庫室。

「ひぃ、ふぅ、みぃ……あかん、笑いが止まりまへんわ」

ニャングルは、山積みになった硬貨の山を前に、恍惚の表情を浮かべていた。

たった一日で、一ヶ月分の売り上げを叩き出したのだ。

「原価はタダみたいなもんやのに、この利益率……。しかも、食べた客がリピーターになって、また友人を連れてくる」

ニャングルは、窓の外の闇に向かって、恐る恐る手を合わせた。

「リアン様……あんた、ほんまに『錬金術師』やで。金を創る魔法使いや」

あの日、5歳児が持ち込んだ一本の焼き芋。

それが今、ニャングルを、そしてゴルド商会を黄金の道へと導いていた。

『太陽芋』の評判は、風よりも速く駆け巡った。

「ルナハンに、飢えを救う奇跡の芋があるらしい」

「宝石のように甘く、食べれば力が湧いてくるそうだ」

「なんでも、商人が庭で偶然見つけた『神の贈り物』らしいぞ」

噂は尾ひれをつけ、行商人や旅人の口を通して、瞬く間に近隣の村々へ、そして帝都ルナミスへと広がっていった。

帝国全土が先の戦争による物資不足と、将来の飢饉への不安を抱えている時期だ。

『太陽芋』という希望の光に、人々が飛びつくのは必然だった。

ルナハンの街を見下ろす丘の上。

リアンは一人、焼き芋をかじりながら、賑わうゴルド商会を眺めていた。

「……計画通り(プラン通り)だ」

ねっとりとした甘さが口に広がる。

「これでルナハン周辺の食料事情は安定する。次は、この種芋を帝国全土へ、そして……いつかは『ガルーダ獣人国』へも流してやる」

リアンはニヤリと笑った。

「敵に塩を送るんじゃない。『芋』を送るんだ。腹が満たされれば、剣を握る手も緩むだろうさ」

5歳児の仕掛けた「美味しい罠」は、世界を平和という名の「満腹」で侵食し始めていた。

読んでいただきありがとうございます。

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