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EP 6

森の奥深く、木の上の拠点にて。

リアン(5歳)は目を閉じ、遠隔操作のリンクに没入していた。

『よし……。今日もルナハン騎士団に被害は無し。順調だ』

影の護衛任務も板についてきた。

父アークスたちの部隊は安全なルートを進んでいる。

リアンがリンクを切って休息に入ろうとした、その時だった。

『……ん?』

上空を旋回させていた『竜丸』のカメラが、街道から外れた山間にある小さな寒村を捉えた。

『煙が見える……。夕食の煙じゃない。あれは、建材が燃える黒煙だ。……異常だぞ!』

嫌な予感が背筋を走る。

リアンは即座に竜丸を急降下させた。

「きゃあああ!!」

「やめてええ!! お助けをぉぉ!!」

高度を下げるにつれて、マイクが拾う悲鳴と怒号が鮮明になる。

眼下に広がる光景は、地獄だった。

燃え盛る家屋。逃げ惑う女子供。そして、それを笑いながら追い回す武装した獣人兵たち。

『これは……略奪だ!』

騎士団との正規戦で負け続きの獣人兵たちが、鬱憤晴らしと物資調達のために、非武装の村を襲っているのだ。

「おい! 証拠を消しとけよ! 人間共に見つかったら面倒だ!」

「へい! 一匹残らず殺しておきます!」

獣人兵のリーダー格が指示を飛ばす。

略奪だけではない。虐殺だ。

『ふざけんなよ……ッ!』

リアンの意識が沸騰した。

父を守るための戦争だった。だが、目の前の惨劇を見過ごせるほど、彼はまだ冷徹にはなりきれていない。

『降りろ! センチネル!』

竜丸が屋根スレスレを飛び、コンテナを開放する。

センチネル、弓丸、騎士丸が飛び降りる。

センチネルは『魔法ポーチ』から、ネット通販で買った『玩具リボルバー(.38スペシャル実弾仕様)』を取り出した。

『支えろ!』

弓丸と騎士丸が、センチネルの両脇を固め、反動を殺す体勢を取る。

プラスチックの玩具に、殺傷能力のある実弾。強度がもたない。

パンッ! パンッ!

乾いた破裂音が響く。

銃口から火を吹いた弾丸は、松明を持っていた獣人の頭部を正確に貫いた。

「がっ……!?」

「なんだ!? 誰だ!?」

仲間が突然倒れ、獣人たちが動揺する。

『黙れ!』

リアンに慈悲はない。

一発撃つごとに、リボルバーのシリンダーが熱で歪む。

弓丸が、壊れかけたリボルバーを奪い捨て、新しいリボルバーをセンチネルの手に押し付ける。

使い捨てのリロード。

『ヒット!』

パンッ! パンッ!

「ぐああっ!」

次々と獣人兵が倒れる。

「屋根だ! 屋根から何か撃ってるぞ! 隠れろ!」

獣人たちが荷車の影や家屋の裏に隠れる。

「何か分からねぇが……証拠は消さねぇとなぁ!」

追い詰められた獣人が、狂気の目を村人たちに向けた。

自分たちが助からないと悟り、最期に任務(虐殺)を遂行しようとしたのだ。

「死ねぇぇ!!」

獣人が剣を振り上げる。その先には、震える親子。

『やめろッ!!』

センチネルがトリガーを引く。

だが。

バキッ!

鈍い音がした。

限界を超えて連射した玩具リボルバーが、肝心な瞬間に暴発し、砕け散ったのだ。

プラスチックの破片が舞う。

『あ……』

その一瞬の隙が、命取りだった。

ドスッ!

「あ……が……」

獣人の剣が、母親を斬り捨てた。続いて子供も。

「へっ、へへ……やったぜ……」

「逃げろおお!! ここはヤベェ!!」

生き残った獣人兵たちは、散り散りになって森へと逃げ込んだ。

『糞! 糞ッ!! 糞ぉおおおおお!!』

センチネルが地面を叩く。

リアンの絶叫が、リンクを通じて虚しく響く。

獣人兵が去った村には、静寂だけが残された。

パチパチと燃える火の音だけが聞こえる。

『…………』

センチネルたちは地上に降りた。

助けようとした親子は、もう動かない。

他にも、多くの村人が変わり果てた姿で倒れている。

『……喰丸。食え』

リアンは、感情を押し殺して指示を出した。

召喚されたワーム型の喰丸が、射殺された獣人兵の死体を飲み込んでいく。

ここに「正体不明の勢力リアン」が介入した痕跡を残すわけにはいかない。

『……』

喰丸が敵を処理した後、センチネルは黙って地面を指差した。

喰丸は大きな穴を掘り始めた。

『せめて……埋葬しないとな』

センチネル、弓丸、騎士丸。

小さなおもちゃの兵隊たちが、自分たちよりも遥かに大きな村人たちの遺体を、一人が一肢ずつ持ち上げ、穴へと運ぶ。

重い。物理的な重さ以上に、命の重さが、5歳のリアンにのしかかる。

土をかけ、即席の墓標を立てる。

手を合わせるセンチネルの姿は、ひどく小さく見えた。

『負けた……』

森の拠点。

本体であるリアンの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

『守れなかった……』

どんなに賢くても、どんなに良い道具を持っていても、戦争の理不尽さは全てを奪っていく。

「ルナハン騎士団の快進撃」という輝かしいニュースの裏側で、幼き勇者は初めての敗北と、消えない傷を心に刻んだのだった。

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