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EP 4

翌朝。

運命の決戦の朝が訪れた。

ルナミス騎士団の野営地は、張り詰めた緊張感に包まれていた。

兵士たちは無言で剣を磨き、馬に鞍を置く。死を覚悟した者の静寂だ。

「総員、配置につけ! 敵は『狼の喉元』を抜けてくるぞ!」

ゼノン騎士団長が声を張り上げる。

アークスも愛用の剣を帯び、最前線に立っていた。

(必ず帰る。リアン、マーサ、待っていてくれ……)

その時だった。

一台の偵察馬が、泥を巻き上げながら猛スピードで駆け込んで来た。

「ほ、報告ぅ!! きゅ、急報です!!」

偵察兵の顔は、恐怖ではなく、極度の混乱に歪んでいた。

「ガルーダ獣人前線基地が……機能しておりません!!」

「……なんだと!?」

ゼノンが目を剥く。

機能していない? 敵は数千の精鋭だぞ?

「敵の罠か? 誘い込みか?」

「いえ、違います! ……それが、その……」

偵察兵は言い淀み、信じられない光景を口にした。

「敵基地から黒煙が上がっており、武器庫と食料庫は全焼! さらに、獣人兵達は大混乱に陥っております! 彼らは武器を捨て、腹を抱えて、そこら中でうずくまっております!!」

「……は?」

ゼノンも、アークスも、周囲の騎士たちも唖然とした。

戦闘種族と恐れられるガルーダの兵士たちが、腹を抱えてうずくまっている?

「さらに、指揮官の姿が見当たりません! 指揮系統が完全に崩壊しております!」

「何と言うことか……」

ゼノンは呆然と敵陣の方角を見た。

空には確かに、昨夜の火災の名残である黒煙が漂っている。

神風か? それとも疫病か?

理由は分からないが、一つだけ確かなことがある。

「ゼノン団長!!」

アークスが一歩前に出た。彼の目は、この奇跡的な勝機を逃すべきではないと訴えていた。

「理由は不明ですが、これは好機です! 敵は指揮官を失い、飢え、そして疫病(下痢)に苦しんでいる! 立て直される前に、今こそ攻め入る時かと!」

「……う、うむ! そうだな! アークスの申す通りだ!」

ゼノンは剣を抜き放ち、高らかに天を指した。

「全軍、突撃チャージ!! 敵は混乱している! 一気に蹂躙せよ!!」

ウオオオオオオオオッ!!

ルナミス騎士団の鬨の声が轟く。

彼らは雪崩のように谷を駆け抜け、ガルーダの前線基地へと殺到した。

一方、ガルーダ獣人軍側は、地獄の様相を呈していた。

「ぐぅぅぅ……! は、腹が……腹が捻じ切れるぅぅ!」

「トイレ! トイレは何処だ!?」

「埋まってる! 森へ行けぇぇ!」

「水だ! 水をくれ!」

「馬鹿野郎! その井戸水が原因かもしれんのだぞ!」

超強力な家畜用下剤の効果は絶大だった。

屈強なライオンや虎の獣人たちが、脂汗を流して内股で悶絶している。

そこへ、追い打ちをかけるようにルナミス騎士団の蹄の音が迫る。

「て、敵襲ーーッ!! 人間の騎士団だ!!」

「迎撃せよ! 武器を持て!!」

「武器がない!? 昨日の火事で燃えたんだ!!」

「指揮官殿は!? 指示をくれ!!」

「いねぇよ! 夜逃げしたんだよ畜生!!」

戦う前から勝負はついていた。

武器もなく、指揮官もなく、そして括約筋の限界を迎えた兵士たちに、戦意など残っているはずがない。

「逃げろおおお!!」

「漏れるぅぅぅ!!」

獣人兵たちは、ある者は尻を押さえ、ある者は四つん這いになりながら、我先にと逃走を開始した。

かつてないほど情けない敗走劇。

「深追いは無用! 基地を制圧し、拠点を確保せよ!」

アークスたちは、ほとんど剣を振るうこともなく、無血で敵前線基地を制圧した。

その様子を、遥か上空の森の木陰から見下ろしている影があった。

「……やれやれ。締まらない戦争だな」

リアンは双眼鏡を下ろし、野菜ジュースを啜った。

「ま、父さんが無傷ならそれでいい。……任務完了だ」

リアンは『センチネル』や『竜丸』を回収すると、誰にも気づかれないよう、森の奥へと姿を消した。

後に「ルナミスの奇跡」と呼ばれるこの戦いの裏に、一人の5歳児と、大量の下剤とネット通販があったことを知る者は、誰もいない。

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