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EP 3

闇夜に紛れ、ガルーダ獣人国の前線基地上空に、音もなく滑空する影があった。

大型輸送機型マグナギア『竜丸』だ。

基地の屋根瓦に、猫が降り立つよりも静かに着地する。

『……よし。行くぞ』

遠く離れた森の中でリンクするリアンの意思を受け、指揮官機『センチネル』が赤外線アイを光らせた。

コンテナが開き、『弓丸』と『騎士丸』が、腰のウィンチから細いワイヤーを降ろす。

まるで特殊部隊のラペリング降下のように、小さなおもちゃの兵隊たちが闇へと溶け込んでいった。

『まずは……兵站だ』

戦争の要は補給にある。腹が減っては戦はできず、武器がなくてはただの喧嘩だ。

センチネルの指示で、二機は食料庫と武器庫の通気口から侵入した。

彼らが取り出したのは、リアンがネット通販で「BBQ用」として大量購入した『高火力ライターオイル』の缶だ。

乾燥した小麦粉の袋、木箱に入った矢、油の染み込んだ松明。

燃えやすい箇所を選び、ドボドボとオイルをぶちまけていく。

『次だ』

休む間もなく、次は井戸へ。

水源の確保は野営の基本だが、そこが弱点にもなる。

ポチャン、ポチャン……。

弓丸と騎士丸が投げ込んだのは、無味無臭、遅効性の『超強力下剤(家畜用)』だ。

これで消火活動で水を浴びても、喉を潤そうとしても、彼らの戦力は削がれる。

『次』

そして、リアンの意識は最も冷酷なフェーズへと移行した。

基地の中央、最も立派な天幕。指揮官の寝所だ。

見張りの目をかいくぐり、テントの隙間から侵入する。

中では、巨躯のライオン型獣人が、豪快ないびきをかいて眠っていた。

歴戦の猛者だろう。正面から戦えば、父アークスでも苦戦するかもしれない相手だ。

『……やれ』

弓丸がポーチを開くと、中から真っ白な『ミニ丸』たちがワラワラと這い出した。

3センチの人形たちは、まるで軍隊アリのように指揮官の太い首筋へと登っていく。

そして、麻酔薬を塗った針を、一斉に突き立てた。

「う……ん……」

指揮官が呻き、首を振る。だが、象をも眠らせる麻酔は即座に効き目を現し、彼の意識を深い泥沼へと沈めた。

完全に脱力したことを確認すると、騎士丸がその小さな『魔剣(カッターナイフの刃を加工した特注品)』を抜き放った。

躊躇はない。

騎士丸は、無防備な頸動脈の上を、正確に、深く斬り裂いた。

鮮血が飛ぶ。獣人の身体が痙攣し、やがて動かなくなった。

『よし。死んだな……。喰丸』

リアンは証拠隠滅のコマンドを入力した。

魔法ポーチが怪しく光り、召喚獣――ワーム型の『喰丸』がヌルリと現れた。

ピンク色の肉塊のようなそのボディは、小さいながらも底なしの食欲を持つ。

『食え。喰丸』

喰丸が大きな口を開ける。

その口は物理法則を無視して広がり、指揮官の遺体を頭から丸呑みにしていった。

骨を砕く音も、咀嚼音も、全てはその体内に吸収される。

数秒後。そこには血痕一つ残っていなかった。

『よし、撤収だ』

完璧な仕事(暗殺)を終え、センチネルたちは屋根の上、竜丸の元へと戻った。

全員の収容を確認すると、竜丸が離陸する。

そして上空から、弓丸が最後の仕上げを行った。

ヒュッ!!

放たれたのは、小さな火矢。

それが、ライターオイルまみれの食料庫と武器庫に突き刺さる。

ドォォォォン!!

揮発性の高いオイルが一瞬で爆発的な炎を生んだ。

乾燥した食料と木製の武器庫は、最高の焚き付けとなり、紅蓮の炎が夜空を焦がした。

「か、火災だ!! 食料庫と武器庫が燃えているぞ!?」

「水だ! 井戸から水を汲め!!」

「し、指揮官殿おおお!! 指示を! 指示をお願いします!!」

基地は大パニックに陥った。

兵士たちが指揮官の天幕へなだれ込む。

だが、そこは空っぽだった。

「指揮官殿は? 何処に?」

「居ない!? まさか、敵前逃亡か!?」

「馬鹿な!? あの御方が!?」

「でも、荷物も体もないぞ!?」

燃え盛る食料と武器。

汚染された水(明日判明する)。

そして、謎の失踪を遂げた指揮官。

指揮系統と補給を同時に失った軍隊は、もはや烏合の衆でしかない。

遠く離れた森の中で、リアンは冷めた目でその炎を見つめていた。

(……これで、明日の父さんの生存率は上がったな)

5歳児による、あまりにも鮮やかで残酷なサボタージュ。

それが、ルナミス騎士団の勝利を決定づける「見えざる一撃」となったのだった。

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