第六章 5歳児の勇者
深夜、シンフォニア家の子供部屋。
カーテンを閉め切った暗闇の中で、青白いホログラムの光だけが、リアン(5歳)の冷徹な顔を照らしていた。
「さて……」
リアンの指先が虚空を叩く。
『ネット通販』のカートに放り込まれたのは、安価なプラスチック製の『玩具のリボルバー(火薬キャップ式)』×10丁。
駄菓子屋で売っているような、チープな代物だ。
「購入」
シュンッ。
枕元に現れた段ボールを乱暴に開ける。
待機していた『センチネル』『弓丸』『騎士丸』たちが、手慣れた動作でリボルバーを分解し、シリンダーの強度補強(魔法的加工)と、実包の装填を開始した。
カチャリ、カチャリ……。
玩具の銃に、殺傷能力のある『.38スペシャル弾』が込められていく狂気の光景。
「使い捨てだな……」
リアンは冷ややかに呟いた。
所詮はプラスチック。実弾の圧力には耐えられない。数発撃てば暴発してゴミになる。
だが、それでいい。証拠も残らない「使い捨ての凶器」だ。
「次は、兵隊だ」
リアンは再び画面をスクロールさせ、建築模型用の『1/50スケール 人形セット(未塗装)』を大量購入した。
身長わずか3センチほどの、無数の白い樹脂人形が床にばら撒かれる。
「針を持て……『ミニ丸』」
リアンの魔力が人形たちに宿る。
わらわらと動き出した数百体のミニ丸たちは、裁縫セットから抜き出した「待ち針」を槍のように構えた。
「でかけりゃ良いってもんじゃないぜ」
戦場では、巨大なゴーレムやドラゴンばかりが脅威ではない。
蚊や蜂のように小さく、気付かぬうちに死を運ぶ存在こそが恐ろしいのだ。
「塗りたくれ」
ミニ丸たちは、針の先端を小瓶に浸していく。
中身は、以前購入した『超強力麻酔薬(象でも3秒で寝るレベル)』だ。
「長期戦だな……。ルナハン騎士団が遠出になるとなると、俺も近い距離にいなければサポートできない」
リアンは腕を組み、重い決断を下した。
父アークスを守るためには、家を空ける必要がある。だが、5歳児が「行ってきます」と言って戦場へ行けるわけがない。
「そうだ。……俺は『誘拐』された事にしよう」
とんでもない言い訳を思いつく。
「母さんやオニヒメは死ぬほど心配するだろうが……これしかない。俺が自発的に行ったとバレれば連れ戻されるが、行方不明なら『捜索』に時間が割かれる。その隙に戦場へ行く」
鬼のような発想だが、父の命には代えられない。
翌朝。
ルナハンの街外れ、騎士団の集合場所。
重装備に身を包んだアークスが、涙を堪えて家族との別れを惜しんでいた。
「行ってくる。マーサ、家のことは頼んだぞ」
「えぇ……。必ず、必ず生きて帰ってきてくださいね」
「リアン。父さんは、お前を守るために戦ってくるからな」
アークスがしゃがみ込み、リアンを抱きしめる。
「父さん……」
リアンは悲しそうな顔で抱きつき返した。
その瞬間。
リアンの小さな手が、アークスのリュックの底に、コインサイズの『超小型発信機(GPS&盗聴機能付き)』を滑り込ませた。
(……セット完了)
「うん。行ってらっしゃい、父さん」
リアンは涙目(演技)で手を振った。
アークスは決意の表情で頷き、隊列へと加わっていった。
数時間後。
リアンは「森へ遊びに行く」と言って家を出た。
そして、街外れの森の入口に、自分の靴を片方と、争ったような跡をわざとらしく残した。
「よし。これで『森で何者かに連れ去られた』という現場検証ができる」
リアンは罪悪感を心の奥底へ封じ込めた。
あとで母さんに殺されるかもしれないが、それは父さんを生きて帰した後の話だ。
「出てこい、『竜丸』!」
リアンは魔法ポーチを開いた。
輸送機型マグナギア『竜丸』が、以前よりも大型化(パーツ増設)して出現する。
「行くぞ。父さんの背中を追う」
リアンは竜丸の背中に跨った。
5歳児の体重なら、今の竜丸なら十分に空輸できる。
バサァァッ!!
竜丸が静かに浮上し、木々の高さを超えていく。
眼下には、遠くへ続く街道と、小さく見える騎士団の隊列。
そして、その背中には武装した『弓丸』『騎士丸』『センチネル』、そして無数の『ミニ丸』部隊が入ったリュックが背負われている。
「待ってろよ、ガルーダ獣人国……。5歳児(俺)を敵に回したことを後悔させてやる」
空飛ぶ幼き武器商人は、戦乱の地へとその舵を切った。




