EP 16
マグナギア大会での熱狂から数ヶ月。
季節は巡り、帝都ルナミスは重苦しい雨雲に覆われていた。その鉛色の空は、これから訪れる戦乱の予兆のようでもあった。
ルナミス帝国城、謁見の間。
張り詰めた静寂の中、近衛騎士団長ゼルガルの太い声が響いた。
「誠か? ゼルガルよ」
玉座に深々と腰掛けたアウラ皇帝が、不機嫌そうに眉根を寄せた。
「ハッ! 間違いございません」
ゼルガルは片膝をつき、報告書を掲げた。
「我がルナミス帝国と、ガルーダ獣人国との間に位置する緩衝地帯、『ポポロ街』……。そこを経由して入ってくるはずの鉄や魔鉱石の流通が、ここ数週間で激減……いえ、ほぼ無くなっております」
「むぅ……」
アウラは顎をさすった。
鉄と魔鉱石。それは農具にもなるが、何より「武器」の主原料だ。それが国家間の緩衝地帯で消えている。意味するところは一つしかない。
「ドワーフ族……『ドンガン地下帝国』の反応はどうだ?」
地下に広大なネットワークを持ち、金さえ積めば悪魔にでも武器を売ると言われる『死の商人』たち。
「……最悪の反応です。奴ら死の商人共が、ガルーダ獣人国へ活発に出入りしているとの情報が、隠密より届いております」
「小賢しい奴等よ……」
アウラの瞳に、冷たい怒りの炎が灯った。
「武器を買い込み、資源を止め……ルナミス帝国と事を構えるつもりか」
「は。どうやらガルーダ領内では日照り続きで、作物が育たないとか。飢饉による食料不足が深刻化しているようです」
ゼルガルが補足するが、アウラは鼻で笑い飛ばした。
「ふざけるな」
玉座の肘掛けを、アウラが強く叩く。
「獣人共が、腹が減ったからと、我が国の穀倉地帯へ強盗に入る気か? 資源を独占し、武器を揃え、生きるために奪う……。所詮は理性のない野蛮な獣よのぅ」
帝国の支配者としての傲慢さ。だが、それは圧倒的な国力に裏打ちされた自信でもあった。
「全くです。陛下」
ゼルガルもまた、好戦的な笑みを浮かべた。
「ルナミス帝国に刃を向けることがどういう結果を招くか……。躾のなっていない獣には、体に教え込んでやらねばなりますまい」
「うむ。慈悲は無用だ」
アウラが立ち上がり、マントを翻した。
「至急、全領地に伝令を飛ばせ! 辺境伯、騎士団、全ての戦力を動員体制へ移行させよ!」
「ハハーッ!! 戦仕度を致しまする!!」
ゼルガルの怒号のような返事が広間に轟いた。
雷鳴が轟き、帝都の空を裂く。
この日、ルナミス帝国全土に『動員令』が発令された。
平和な田舎町ルナハンで修行に明け暮れるリアンと、その父アークスにも、時代のうねりは容赦なく襲いかかろうとしていた。




