EP 14
吹雪く針葉樹の森。
視界不良の雪中戦において、リアンの『弓丸』は枝から枝へと飛び移り、高所からの狙撃を繰り返していた。
「……落ちろ!」
ヒュンッ!!
死角からの矢が、クラウスの『聖竜騎士ジークフリート』の頭部を狙う。
だが。
「そんな物ッ!!」
ガキンッ!!
ジークフリートは振り返りもせず、愛槍『グラム』を旋回させ、飛来した矢を叩き落とした。
反応速度が異常だ。
「糞っ! 反応速度がニュータイプかよ!」
リアンが悪態をつく。
通常の反射神経ではない。殺気や風切り音を完全に読んでいる。
「小賢しい真似を……。そこに居るな?」
ズンッ!!
ジークフリートが真横の大木を薙ぎ払う。
ドォォン! と木が倒れ、隠れていた弓丸が空中に放り出された。
「ちっ!」
弓丸は空中で身を捻り、隣の木へと着地。
着地と同時に、隠し持っていた『投げナイフ』を三連射する。
「無駄だ!」
カァン! カァン! カァン!
ジークフリートは左腕の『竜鱗の盾』を掲げ、全てのナイフを完璧に弾いた。
傷一つ付かない。絶望的な防御力。
「見切ったぞ、リアン。貴様の手札は、遠距離からのチマチマした削りだけだ」
クラウスの声が、勝利を確信した者の響きを帯びる。
「ならば、隠れる場所を無くせばいい」
ジークフリートの槍が青い光を帯びる。
「ハァッ!!」
ズバババババッ!!
乱舞。
ジークフリートは踊るように槍を振るい、周囲の木々を次々と切り裂いていく。
足場が、隠れ場所が、物理的に消滅していく。
「くっ! ……この!」
弓丸は倒れる木を足場にジャンプし、必死に弓を引く。
だが、空中にいる状態での射撃など、地上のクラウスにとっては止まった的も同然だ。
盾で弾かれ、槍で牽制され、徐々に追い詰められていく。
「この木々を斬り捨てれば、貴様は地に落ちる!」
ドォォォン……!
ついに、最後の巨木が切り倒された。
隠れる場所を失った弓丸は、雪の積もった地面へと着地せざるを得なかった。
「畜生!」
着地の硬直を狙って、ジークフリートが迫る。
リアンは咄嗟に操作した。
「持ってけ!」
弓丸は、近接戦用の『ショートソード』を抜き放ち――それを敵に向かって投げ捨てた。
ガィィン!
ジークフリートは槍の柄でそれを軽く受け流す。
ショートソードは雪の中に突き刺さり、リアンの手元から武器が消えた。
「ハッハッハ! ショートソードを投げ付けるとは、錯乱したか?」
クラウスが笑う。
相手は弓兵。接近され、護身用の剣も失った。
これは「詰み(チェックメイト)」だ。
「もう武器も無くなったな。……大人しく降伏すると良い。丸腰の相手を甚振るのは、アルヴィン家の流儀ではない」
「……これまで、か」
リアンがコントローラーを持つ手をだらりと下げた(フリをした)。
弓丸がガクリと膝をつく。
ジークフリートは槍を下げ、ゆっくりと、勝者の余裕を持って歩み寄る。
「賢明な判断だ。だが、貴様の戦術眼は悪くなかったぞ。誇っていい」
「…………」
リアンの瞳孔が開く。
心の中で、冷徹なカウントダウンが始まっていた。
(……もう少し。もう少しだ。……槍の射程に入る直前。お前が『勝った』と完全に油断して、ブースターの出力を落とす、その瞬間――)
距離が縮まる。
あと3メートル。
あと2メートル。
(今だッ!!)
「……喰らえ!!」
リアンの指が神速で動いた。
降伏したはずの弓丸が、隠し持っていた「最後の矢」をつがえ、引き絞った。
狙いはクラウスではない。
彼らの背後にそびえ立つ、雪の降り積もった『山の斜面』だ。
ヒュンッ!! ドスッ!!
矢が雪の層に突き刺さる。
物理的なダメージは皆無。だが、その衝撃は「引き金」となった。
不安定に積もっていた雪のバランスが崩壊する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りのような重低音。
「な……何をした!?」
クラウスが空を見上げる。
そこには、白い津波――『雪崩』が迫っていた。
「馬鹿なッ!?」
自然災害すら利用するのか。
クラウスが戦慄し、即座に回避行動を取ろうとした。
「逃がすかよ!!」
ドォンッ!!
動揺したジークフリートの足元に、弓丸が捨て身のタックルを食らわせた。
両足にしがみつき、ブースターによる離脱を封じる。
「貴様!? 心中する気か!?」
「負けるのは……死ぬ程、嫌なんでねぇぇッ!!」
リアンが吠える。
勝てないなら、負けない道を選ぶ。
泥をすすり、雪に埋もれてでも、相手を引きずり下ろす。
ズドオオオオオオオオオッ!!
圧倒的な質量の雪が、二体のマグナギアを飲み込んだ。
青い輝きも、黒い機体も、全てが白銀の世界に消滅する。
一瞬の静寂。
そして、会場中が息を呑む中、審判の声が震えながら響いた。
「く、クラッシュ(反応消失)……! 両者、機能停止……!!」
審判はゴクリと唾を飲み込み、宣言した。
「け、決勝戦の結果は……ドロー(引き分け)!!」
雪崩の跡には、何も残っていない。
ただ、勝利への執念とプライドがぶつかり合った痕跡だけが、白く輝いていた。




