EP 12
闘技場の熱気は最高潮に達していた。
だが、その熱気は数分後、戦慄へと変わることになる。
「第三試合! ルナハン代表、愛らしいエルフの少女、ルナ選手! 対! 重火器使いのボブ選手!」
「わぁ〜い! こんちこりぃ〜ん★ ルナだよっ!」
ルナは観客席に向かってアイドル顔負けのウィンクとピースを飛ばした。
その背後には、キラキラとした謎のエフェクト(幻覚)が舞っている。
「けっ! なんだよ、チビじゃないか!」
対戦相手のボブは、無骨なドワーフ型のマグナギアをセットした。背中には不釣り合いなほど巨大な『魔導カノン』を背負っている。
「俺のドワーフ型『鉄槌』に負けるか! 木っ端微塵にしてやるぜ!」
「審判、フィールド生成! テーマは……『森』!」
会場に鬱蒼とした木々が生え、小川が流れるフィールドが完成する。
控室でモニターを見ていたリアンは、その瞬間、頭を抱えた。
(……終わった。よりによって、世界樹の加護を持つエルフに『森』フィールドだと? それはもう、ホームグラウンドとかいう次元じゃねぇ。彼女の『体内』で戦うようなもんだぞ)
「レディー……ゴー!!」
「先手必勝だ! 食らえ!」
ボブのドワーフ型が、開幕と同時に魔導カノンを発射した。
模擬弾とはいえ、直撃すればただでは済まない衝撃波がルナの『メイジちゃん』へと迫る。
「きゃあああ!?」
ルナが悲鳴を上げ、顔を覆った。
その「恐怖」が、引き金だった。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
フィールドの空気が一変した。
風が止み、鳥のさえずりが消え、重苦しい殺気が森全体を支配する。
『……ルナ様ヲ、イジメルナ』
地面の底から響くような、怨嗟の声。
ズドォォォン!!
ドワーフ型の放った砲弾が、突如として動き出した「巨木」の腕によって弾き返された。
「……へ?」
ボブが間の抜けた声を上げる。
フィールドのオブジェクトであるはずの木が、根を引き抜き、樹人となって立ちふさがっていたのだ。
「な、なんだアレ!? オブジェクトが動いた!?」
『死、アルノミ』
次の瞬間。
ドワーフ型の足元の地面が割れ、無数の木の根や、鋭利な棘を持つ蔦が噴き出した。
バキボキッ!
「あがっ!? うわぁぁぁ!」
ドワーフ型は一瞬にして拘束され、空中に吊り上げられる。
そこへ、美しい花を咲かせた巨大な『食虫植物型魔獣』が、口をパカリと開けて待ち構えていた。
バクンッ! グシャアアア!!
ドワーフ型は頭から丸呑みにされ、不快な咀嚼音が会場に響き渡った。
「な、なんだよそれぇぇ!! は、反則だろそんなの!!」
ボブが泣き叫ぶ。
だが、森の怒りは収まらない。
『ルナ様ヲイジメル、愚カナ人間共ヨ……。コノ場所ハ、既ニ我等ガ領土』
森の浸食はフィールドを越えた。
観客席に向かって、巨大な蔦が触手のように伸び始める。
『死、アルノミ……肥料トナレ……』
「ぎゃああああああ!!」
「逃げろおおおお!! 食われるぞおおお!!」
「パニック映画だぁぁぁ!!」
観客が総立ちになり、出口へと殺到する。
マグナギア大会は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
もはや試合ではない。災害だ。
「……ったく! やっぱりこうなるかよ!!」
混乱の中、一人だけ逆走してくる影があった。
リアンだ。
彼は手にしたハリセン(どこで調達したのか)を構え、フィールドへ飛び込んだ。
「おおいっ! ルナあああ!! 止めろこの馬鹿野郎!!」
「え? え?」
「バイオハザードを起こす気か! ここは帝都だぞ!」
リアンは全速力でルナに駆け寄り、その脳天に渾身のツッコミを入れた。
スパーーーーンッ!!
「あ痛っ!?」
乾いた音が響く。
ルナが涙目で頭をさすった瞬間、森の殺気が霧散した。
「ご、ごめん……ごめんね? 植物さん達、もう大丈夫だから! 大人しくしてね?」
ルナが申し訳無さそうに木々を撫でると、暴れまわっていた蔦や樹人は、
『……御意』
と言いたげに小さくなり、ただのオブジェクトに戻っていった。
静寂が戻る。
残されたのは、半壊した会場と、腰を抜かしたボブと、食虫植物に消化されかけたドワーフ型の残骸だけ。
「……」
審判は震える手でマイクを握った。
「し、勝者は……なし……」
審判はルナの方を見て、青ざめた顔で宣告した。
「ルナ選手は、危険物持ち込み……いえ、『環境破壊および大量殺戮未遂』により失格! そして、今後マグナギア大会への出入りを永久に禁止(出禁)とします!!」
「ええ〜!? 私、勝ってないのにぃ!?」
「当たり前だ!」
リアンは溜息をつき、首根っこを掴んでルナを引きずっていった。
こうして、「森のフィールド」は大会の禁止カードとなり、ルナは伝説の「出禁アイドル」として帝都の歴史に名を刻むことになったのである。




