EP 10
熱狂の渦巻く、全帝国マグナギア闘技場。
すり鉢状の観客席は満員御礼。地鳴りのような歓声が、フィールドに立つ二人の子供に降り注いでいた。
「第一試合! 予選Aブロック……ルナハン代表、リアン選手! 対! 帝都代表、グリム選手!」
審判の絶叫と共に、スポットライトが交差する。
「へっへっへ! 田舎もんが震えてるぜ!」
対戦相手のグリムは、自身の愛機『剛斧の戦士』を誇らしげに掲げた。パワー重視の重量級機体だ。
「俺の戦士に勝てるもんか! 一撃でスクラップにしてやる!」
「はいはい。……さっさと始めようぜ」
リアン(4歳)はあくびを噛み殺しながら、愛機『弓丸』をスタート位置にセットした。
彼にとって、これは熱いバトルではない。金貨100枚をもぎ取るための「作業」だ。
「フィールド抽選……決定! ステージは『酒場』です!」
審判の宣言と共に、フィールドの床が変形する。
隆起した地面は木の床になり、遮蔽物としてミニチュアのテーブルや椅子、カウンターが出現。さらに、棚にはオブジェとしての酒瓶や樽が並ぶ。
入り組んだ室内戦のステージだ。
(……酒場か。前世で散々通った場所だな。酔っ払いの喧嘩なら、俺の十八番だ)
リアンはニヤリと笑った。
「レディー……ファイト!!」
「行くぜ! やっつけろ! 剛斧、ぶん回しだ!」
グリムが魔力を込める。
戦士型マグナギアが雄叫び(SE)を上げ、巨大な斧を振り回しながら突進してきた。
机や椅子を吹き飛ばす、豪快な正面突破だ。
「……単調だな」
リアンは冷静に指先を動かした。
弓丸はバックステップで斧の一撃を回避すると、ひらりとテーブルの上に飛び乗った。
「逃げるな卑怯者! 机の上なんてマナー違反だぞ!」
「戦場にマナーなんてあるかよ」
リアンが指を弾く。
弓丸のバックパックが『カシャッ』と展開した。
「喰らえ」
バッ!!
射出されたのは矢ではない。鉛の錘がついた『捕獲網』だ。
「な、何!?」
グリムが叫ぶ。
頭上から降ってきた網は、斧を振り上げた体勢の戦士型に絡みつき、その自由を奪った。
「うわぁっ!? 動けない!?」
「隙だらけだ」
弓丸はテーブルの上から、動揺してバランスを崩した戦士型の足元へ、素早いローキックを見舞った。
ガクッ。
網で上半身を拘束され、足を払われた戦士型は、無様にバランスを崩し――。
ドガラガッシャーン!!
テーブルの下、硬い床へと落下した。
「あぁっ! 俺の戦士が!」
グリムが悲鳴を上げるが、リアンの攻撃は終わらない。
弓丸はテーブルの上に設置されていた、オブジェの『巨大な酒瓶(ガラス製)』に手をかけた。
「……仕上げだ」
ゴロゴロ……。
弓丸が酒瓶を転がし、落下の軌道を計算する。真下には、網に絡まって藻掻く戦士型。
「や、やめてくれぇ!」
グリムが察して叫ぶ。
だが、賞金稼ぎリアンに慈悲はない。
「お休み(グッナイ)」
弓丸は無慈悲に、酒瓶を蹴り落とした。
ガシャアアアアアン!!
派手な破砕音が会場に響き渡る。
戦士型マグナギアは、巨大な酒瓶の直撃を受け、破片と「網」に埋もれて沈黙した。
一瞬の静寂。そして――。
「ク、クラッシュ(機能停止)!! 勝者、リアン選手ぅぅぅ!!」
「うおおおおお!! なんだ今の戦い方!?」
「網!? 酒瓶!? エゲツねぇ!!」
観客席がどよめきと歓声で揺れる。
正々堂々としたロボットバトルを見に来たつもりが、見せられたのは「泥泥の酒場の喧嘩」だったからだ。
「……ふん。環境利用は基本だろ」
リアンは涼しい顔で弓丸を回収した。
泣き崩れるグリムを尻目に、彼は悠々と退場する。
金貨100枚への第一歩は、実に彼らしい「ダーティー・ウィン」で飾られたのだった。




