EP 7
ルナハンの公園。
そこは今、子供たちの遊び場から、鉄火場(賭博場)へと空気が変わろうとしていた。
「よぉ。……レートを上げようぜ」
リアン(4歳)は、不敵な笑みを浮かべてポケットを探った。
チャリン、チャリン。
皿の上に投げ込まれたのは、子供の小遣いにしては大金である、銅貨5枚(約500円)。
「な、何!?」
対戦相手のガキ大将が目を丸くする。
普通の参加費は銅貨1枚だ。いきなり5倍のレイズ。
「ビビったか? なら降りてもいいんだぜ?」
「ま、負けてたまるかよ! 俺のゴーレムは最強なんだ!」
挑発に乗った少年も、震える手で財布からなけなしの銅貨5枚を皿に叩きつけた。
これでポット(勝利金)は銅貨10枚。
「セット!」
少年は重量級の『ゴーレム型マグナギア』をフィールドに置く。
対するリアンは高機動型の『弓丸』を、ルナは世界樹製チート機体『メイジちゃん』を配置した。
「レディー……ファイト!」
「いけぇ! 踏み潰せ!」
少年の魔力操作を受け、ゴーレム型がドシドシと突進する。
その装甲は厚く、パワーは圧倒的だ。
「そんなちっこいの、一撃でバラバラにしてやる!」
「……へっ」
リアンは鼻で笑った。
正面からぶつかる? 誰がそんな馬鹿正直な戦いをするか。
「弓丸、誘導だ」
リアンが指先を動かす。
弓丸はゴーレムの攻撃を紙一重で回避すると、フィールドの端、砂場のエリアへとバックステップを踏んだ。
「逃げる気か! 待てぇ!」
血気盛んなゴーレム型は、そのまま弓丸を追いかけて砂場へと足を踏み入れた。
その瞬間。
ズブッ……。
「あ?」
重厚なゴーレムの足が、サラサラの砂に沈んだ。
重量級ゆえの欠点。不整地では自重で身動きが取れなくなる。
「動けねぇ!? なんでだ!?」
「へへっ……。そんな鈍重な機体で砂場に入るとはな。戦場の地形効果も計算できないのか?」
リアンはニヤリと笑った。昨夜のオニヒメの兵法講義が役に立った。
「き、汚いぞ!」
「汚いじゃない……『賢い』んだよ」
リアンが指を弾く。
弓丸はその場で高速回転し、足元の砂を巻き上げた。
ババババッ!
砂煙がゴーレムの関節や視界に詰まり、完全に機能不全に陥らせる。
「よし、これでチェックメイトだ。……ルナ、トドメは任せた」
「うん! リアン君すご〜い★ 私も負けないから!」
ルナが張り切って前に出た。
彼女の愛機『メイジちゃん』が、その手に持つ『世界樹の切れ端の杖』を高々と掲げる。
「いっけええ! メイジちゃん! 必殺魔法だよ!」
本来、マグナギアは内蔵されたギミックが動くだけの玩具だ。
しかし、ルナの膨大な魔力と、世界樹という最高級の触媒(杖)が共鳴した時、それは「玩具」の枠を超越した。
ゴオオオオオオオッ!!
メイジちゃんの周囲に、魔法陣が展開される。
そこから現れたのは、玩具の火花ではない。
本物の、灼熱の、紅蓮の炎。
「……は?」
リアンの目が点になった。
炎は8つの塊となり、それぞれが鎌首をもたげた『火炎龍』へと変化していく。
「お、おい……? 待てルナ、それはマグナギアの出力じゃ……」
「いっけえええ!! ドラゴンちゃん!!」
ルナの無邪気な号令と共に、8体の火炎龍が咆哮を上げた。
『グオオオオオオオオッ!!』
熱波が公園を襲う。
砂場のゴーレムになど目もくれず、ドラゴンたちはフィールド全体を飲み込んだ。
「ぎゃあああああ!!」
「熱いぃぃぃ!?」
ゴーレムは一瞬で溶解し、蒸発し、消し炭すら残さず消滅した。
それだけではない。
勢い余った火炎龍は、公園の滑り台を溶かし、植え込みを焼き払い、ベンチをキャンプファイヤーに変えた。
「逃げろおおおお!!」
「火事だああああ!!」
子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
平和な公園は、一瞬にして地獄絵図と化した。
「ルナあああああ!? やりすぎだ馬鹿野郎おおおお!!」
リアンが絶叫する。
だが、当のルナは、燃え盛る公園を背景に、コツンと自分の頭を叩いた。
「テヘ★ ちょっと張り切りすぎちゃった!」
「テヘ、じゃねぇよ!!」
遠くから、ルナハン騎士団のサイレンと、鐘の音が聞こえてくる。
補導される。いや、放火犯として捕まる。
リアンは瞬時に判断した。
ガシッ!
リアンは燃え残った皿の上から、自分の賭けた銅貨と、相手の銅貨、合わせて10枚を鷲掴みにした。
「回収! 撤収だ!!」
「あ、待ってよぉリアン君!」
リアンは銅貨を握りしめ、ルナの手を引いて煙の向こうへと逃走した。
勝負には勝った(相手は消滅した)。金も手に入れた。
あとは逃げ切るだけだ。
数十分後。
急行したアークスやクルーガ達によって、公園の火災は鎮火された。
現場検証をしていたクルーガは、完全に溶解したプラスチックの塊と、微かに残る「世界樹の魔力」の残滓を感じ取り、深く溜息をついたという。
「……また、あの家の『お嬢さん』ですか」
こうして、「ルナハン公園・謎の火炎龍事件」は、迷宮入り……という名の黙認処理がなされたのだった。




