EP 6
「いてて……。全身の筋肉が悲鳴を上げている……」
ルナハンの公園のベンチ。
リアン(4歳)は、まるで老人のように腰をさすりながら座っていた。
連日のスパルタ教育により、身体は限界を迎えていた。
そこで今朝、リアンは涙ながらに両親とオニヒメに訴えたのだ。
『オーバーワークは良くないって、新聞配達のおじちゃんが言ってたの! 成長期に無理すると、背が伸びなくなるんだって!』と。
「背が伸びなくなる」という言葉が効いたのか、アークスが真っ青になって「今日は休みにしよう!」と叫び、奇跡の休日を勝ち取ったのである。
「ふぅ……。平和だ」
目の前の広場では、子供たちが円形のバトルフィールドを囲んで熱狂していた。
リアンが発明し、ニャングル商会が販売する『マグナギア』の対戦会だ。
「いけー! 俺のナイトギア!」
「負けるか! オーガパワーで粉砕だ!」
プラスチックと金属で出来た小さなゴーレムたちが、子供たちの魔力操作によってぶつかり合う。
(おぉ、やってるやってる。俺のデザインがこうして流行っているのを見ると、楽しくなるな)
リアンはポケットの中の『弓丸』を撫でた。
(俺も弓丸で乱入して、1流の格の違いを見せつけてやろうかな……。いや、今は身体を休めるのが先決か)
そんなことを考えていた、その時だった。
「リアン君〜!!」
「げっ」
聞き覚えのある、そして逃れられない声。
振り返ると、銀髪のエルフ美少女、ルナが手を振って駆け寄ってくるところだった。
「久しぶり! 今までどうしてたの? ずっとお家から出てこないんだもん」
「おぅ、ルナ……。ちょっと『ブラック社員も真っ青デスマーチ』を体験してたんだがな」
リアンは死んだ魚のような目で答えた。
「ぶらっく……? 黒いお洋服?」
ルナは首をかしげたが、すぐに興味を切り替えて、背中に隠していた「それ」を取り出した。
「それより見て見て、リアン君! ママにお願いして、森の職人さんに作って貰ったの! 『メイジちゃん』!」
ルナが誇らしげに掲げたのは、魔法使いの帽子を被った可愛らしいマグナギアだった。
だが、リアンはその機体を見た瞬間、戦慄した。
「こ、これは……」
(素体こそマグナギアの規格だが……。このボディの材質、プラスチックじゃねぇ。『世界樹の若木』の削り出しだ! 杖の先端についてる宝石も、国宝級の魔石じゃねーか!)
神々しいほどのオーラを放つ玩具。
とんでもないオーバーテクノロジーと、最高級素材の無駄遣い。
(玩具の人形にチート素材を投入するか? 娘が欲しがったからって、ヤンデレ世界樹の執念を感じる……。やべぇよ、あの植物)
「ねぇねぇ! 私、これでマグナギア戦をしたいの!」
ルナが目を輝かせる。
「え? あぁ……。あそこの皿に、参加費の銅貨1枚(約100円)を入れれば誰でも参加できるぞ」
「うーん……。でも、私だけじゃ怖いもん! 初めてだし……。リアン君も一緒に行こっ!」
ルナがリアンの手をぐいぐい引っ張る。
「おい、やめろ。俺は筋肉痛で疲れてんの。今日は見学。休ませてくれ」
「え〜! もう! リアン君のケチ! 酷い!」
ルナは頬を膨らませて手を離すと、プンプンしながら一人でバトルフィールドの方へ歩いていった。
「……ふぅ。やれやれ」
リアンはベンチに深く腰掛け直した。
だが、その視線は自然とルナの方を追っていた。
「私、参加しまーす!」
「お! 女の子だ! しかも見たことない機体だぞ」
ルナが意気揚々と『メイジちゃん』をフィールドに置く。
対戦相手は、ガキ大将っぽい男の子。使うのはパワー重視の『オーガ型』だ。
「へっ! 見た目が綺麗なだけの機体か? 成り金なんかに負けるかよ!」
「レディーファイト!」
試合開始の合図。
男の子は慣れた手付きで魔力を送り込む。
オーガ型がドシドシと前進し、金棒を振り上げた。
対するルナは――。
「えっと、えっと……。いけ! メイジちゃん! ……あれ? 動かない?」
メイジちゃんは、その場でオロオロと回転したり、明後日の方向に杖を向けたりしている。
機体のポテンシャルは最強だが、パイロット(ルナ)の操作技術が壊滅的だった。
「隙ありぃ!」
ガシャーン!
オーガ型の金棒が、メイジちゃんの頭を直撃した。
世界樹の素材なので傷一つ付かないが、衝撃で派手に吹き飛ばされ、フィールドの外へ転がり落ちた。
「リングアウト! 俺の勝ち!」
「あ……」
ルナが呆然と立ち尽くす。
周囲の子供たちが「なんだ、よえー」「高いだけのオモチャじゃん」と笑う。
「う……うわあああん! メイジちゃんがぁぁ!」
ルナはその場に座り込んで泣き出してしまった。
大粒の涙がポロポロとこぼれる。
「……」
リアンはベンチで天を仰いだ。
(やれやれ……。そうだろうなぁ。ハードウェアが良くても、ソフトウェア(技術)が伴わなきゃ勝てない。それが対戦ホビーだ)
無視することもできた。
今日は休みだ。筋肉痛だ。
だが、自分の作ったゲームで、友達(一応)が泣かされているのを見るのは、寝覚めが悪い。
「……ったく」
リアンは痛む足に鞭打って立ち上がった。
ポケットから『弓丸』を取り出す。
「おい、泣くなルナ」
泣いているルナの頭に、ポンと手が置かれた。
「り、リアン君……?」
「負けたまま帰るのは、シンフォニア家の流儀じゃねぇ。……今度は、俺と組んで戦うぞ」
リアンはニッと笑い、自分の『弓丸』をフィールドに置いた。
漆黒の機体が、静かな威圧感を放つ。
「タッグマッチだ。俺が前衛でお前を守る。お前は後ろから魔法を撃て。……指示は俺が出す」
「……うん! 本当? やったああ!」
ルナが涙を拭い、パァッと笑顔を咲かせた。
世界最強の素材を持つ「初心者」と、世界最高の技術を持つ「開発者(4歳児)」の、最凶タッグが結成された瞬間だった。
「さぁ、第2ラウンドだ。……かかってこいよ、ボウズ」
リアンの目が、ゲーマーのそれに変わった。
筋肉痛のことなど忘れ、彼はコントローラー(魔力線)を指先で躍らせ始めた。




