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第五章 4歳児の勇者

爽やかな朝の陽射しが、シンフォニア家の庭に降り注ぐ。

空気は冷たく澄んでいるが、そこには熱気が渦巻いていた。

「よおし、リアン! 俺に打ち込んでこい! 遠慮はいらん!」

アークスが自身の腰ほどもある模擬用の木剣を構え、声を張り上げる。

対するリアン(4歳)の手には、子供用に削り出された小さな木剣。

ずっしりとした樫の木の重みが、掌に食い込む。

「うん! ……やあああ!」

リアンは気合一閃、地面を蹴った。

4歳児とは思えない踏み込み。小さな体が矢のように飛び出し、アークスの胴を狙って木剣を振り抜く。

ガギンッ!

乾いた音が庭に響いた。

アークスは片手で軽く木剣を受け止める。衝撃など微塵もないはずだが、その顔はくしゃくしゃに歪んでいた。

「くぅぅ……! 初めて息子から剣を打ち込まれる……。感動だな……」

目尻に涙を浮かべる親バカ全開の父。

だが、すぐに表情を引き締め、指導者の顔に戻った。

「よし! 悪くない踏み込みだ! だが、まだ線が細い! まずは基礎体力だ。素振り100回!」

「うん!」

リアンは位置に戻り、素振りを開始した。

ブンッ、ブンッ。

ただ闇雲に振るのではない。前世の知識を活かし、足腰の連動と、体幹を意識して振る。

「よしよし、筋が良いぞリアン! 流石は俺の息子だ!」

アークスは満足げに頷くと、素振りを続けるリアンに語りかけ始めた。

「いいか、リアン。よく聞け」

アークスの声色が、一段深く沈んだ。

「俺が教える剣術は、王都の騎士様や貴族様がパレードの為に使う、綺麗なお飾りの剣術じゃない」

アークスの脳裏に、かつての戦場の記憶が過ぎる。

「どんな泥沼の戦場でも勝ち抜き、泥水をすすってでも最後迄生き残り……大切な人を守るための『活人剣かつじんけん』だ。格好悪くてもいい。勝てばいいんだ」

リアンの手が止まりかけたが、すぐに振り続ける。

(……泥をすすってでも生き残る、か。いい言葉だ)

リアンは心の中で深く同意した。

綺麗事では家族は守れない。だからこそ、自分は裏で毒も闇討ちも使う。父の教えは、リアンのスタンスそのものだった。

「うん、分かったよ。父さん」

「うむ。良い返事だ」

アークスは木剣を地面に置くと、腰に差していた真剣の柄に手をかけた。

「だが、リアンはまだ背も低い。持てる剣も小さいだろう。力で押されれば不利になる」

アークスは標的用の太い竹の前に立った。

「だが……力や体格差を覆すことわりはある」

アークスが腰を低く落とす。

独特の沈み込み。全身のバネを圧縮するように溜める。

「よく見ておけ」

ザッ!

瞬きすら許されない速度だった。

電光石火の踏み込み。縮地しゅくちのように間合いをゼロにする。

そして、鞘の中で加速された刃が、銀色の軌跡を描いて走った。

キィンッ……!

空気を裂く高い音と共に、アークスは既に剣を鞘に納め終わっていた。

「納刀」の音だけが遅れて聞こえる。

ズ……。

目の前の太い竹が、斜めに滑り落ちた。

切断面は鏡のように滑らかだ。

「す、凄い……」

リアンは目を輝かせた。

(居合術だ……! しかも、踏み込みの運動エネルギーを抜刀の回転力に乗せている。無駄がない)

「どうだ? 『閃光せんこう』って言ってな。父さんの技の一つだ」

アークスはニカッと笑った。

「この技があれば、背丈の大きさなんて関係ない。相手が剣を抜く前に、あるいは振り下ろす前に、懐に入って斬る。速さこそが最強の武器になる」

「凄いよ、父さん! 教えて! 僕もやりたい!」

リアンは木剣を構え、興奮気味にねだった。

この速度があれば、リボルバーを抜く隙がない近接戦闘でも生き残れる。

「ははは! 分かった分かった。教えてやる」

アークスはリアンの頭をガシガシと撫でた。

「だが、その前に……まずは基本からだ! 下半身が安定しなきゃ、この速度には耐えられんぞ! ほら、素振り100回再開!」

「ええ~!? ……うん!」

リアンは苦笑しながらも、再び木剣を振り始めた。

近道はない。

だが、この「脳筋」の父が持つ実戦剣術は、間違いなく本物だ。

最強の4歳児への道は、この庭の土の上から始まっていく。

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