EP 6
深夜の子供部屋。
静寂の中、リアン(3歳)はベビーベッドの上で腕を組み、深刻な表情で天井を見つめていた。
先日手に入れた「召喚(小)」というカモフラージュと、掃除屋『喰丸』の加入により、証拠隠滅能力は飛躍的に向上した。だが、肝心の「攻撃力」に不安が残っていた。
(……さて。センチネル達は、決定的に火力不足だ)
リアンは脳内でシミュレーションを行う。
毒殺、睡眠薬、放火。これらは全て「相手が気づいていない」あるいは「準備時間がある」場合にのみ有効な手段だ。
(寝込みを襲う、言わば暗殺特化型。だが、何時も魔物が寝てるとは限らない。……白昼堂々、人々が襲われているような緊急事態には、俺の手札じゃ助けられない)
もし、父アークスの目の前で暴走した魔物が襲いかかったら?
毒が効くのを待っている時間はない。物理的な「ストッピングパワー」が必要だ。
(剣や弓じゃ、30センチの人形サイズでは限界がある。……なら、サイズを無視した破壊力を持つ『近代兵器』しかない)
リアンは虚空に『ネット通販』のウィンドウを展開した。
接続先を切り替える。日本サーバーではない。銃社会、アメリカの通販サイトだ。
(……流石に、銃本体(実銃)は規制が厳しくて購入出来ないか。IDチェックも厳しい)
画面には「Access Denied」の文字。
だが、リアンは諦めない。商品のカテゴリーをずらし、法規制の網目をくぐる。
(だが……弾は買える。そして、抜け道はある)
リアンの指が『ホビー・トイ』のカテゴリーをタップする。
そこには、精巧に作られたダイキャスト製のモデルガンや、競技用の玩具銃が並んでいる。
(……これだ。フルメタル製の『玩具のリボルバー』)
リアンは迷わずカートに入れた。
そして、消耗品カテゴリーから、実弾である.38スペシャル弾(38口径)の箱を購入する。
(玩具のリボルバーだって、構造がしっかりしていれば、弾を込めれば撃てるんだ。アメリカじゃ5歳児だって親の銃を撃ってるニュースがあるくらいだ。……俺の弓丸達で撃てない道理が有るかよ)
もちろん、強度は保証されていない。暴発するかもしれない。
だが、シンフォニア小隊は「人形」だ。腕が吹き飛んでも修理すればいい。
シュンッ。
ベッドの上に、重厚な輝きを放つ「銀色の玩具銃」と、真鍮色の「実弾」の箱が現れた。
待機していた『弓丸』が、手際よく魔法ポーチにそれらを収納していく。
(……よし。試射だ)
リアンは目を閉じた。
(センチネル、起動)
意識が人形へと移る。
夜風が冷たい窓辺で、センチネルは部下たちを見回した。
『竜丸、発進!!』
バサァッ!!
竜丸が翼を広げ、子供部屋の窓から飛び立つ。
背中にはセンチネル、腹部には弓丸と騎士丸。
その装備重量は過去最大だ。
数分後。
ルナハンの街を離れ、人目につかない深い森の奥へ。
月明かりだけが頼りの演習場に、竜丸が着陸した。
『……弓丸、騎士丸。セットしろ』
センチネルの指示で、弓丸が魔法ポーチから『玩具のリボルバー』を取り出す。
30センチの人形にとって、人間用の拳銃は大砲のようなサイズだ。
単体では構えられない。
『砲撃形態』
弓丸と騎士丸が左右からリボルバーのグリップと銃身を支え、地面に固定する「バイポッド(二脚)」の役割を果たす。
そして、指揮官であるセンチネルが後方に立ち、両手でトリガーに指をかけた。
標的は、10メートル先の太い樫の木。
『……照準』
センチネルのカメラアイが赤く明滅し、弾道を計算する。
玩具とはいえ、金属製のフレームだ。一発や二発なら耐えられるはず。
『発射!』
センチネルが体重をかけてトリガーを引いた。
パンッ!! パンッ! パンッ!
乾いた破裂音が、静寂な森に轟いた。
玩具の銃口からマズルフラッシュが走り、硝煙が舞う。
凄まじい反動が弓丸と騎士丸を襲うが、二体は地面に足を食い込ませて耐え抜いた。
ドスッ! メキョッ!
標的の樫の木に、風穴が開いた。
樹皮が弾け飛び、内部の繊維が抉り取られている。
『……命中』
センチネルが硝煙の匂いを分析する。
銃身に亀裂はない。排莢もスムーズだ。
『よし……上出来だ。これならオークの頭蓋骨も貫ける』
30センチの人形が、人間など容易く殺せる「死の牙」を手に入れた瞬間だった。
だが、ここで終わりではない。
銃声と弾痕は、決定的な証拠になってしまう。
『喰丸』
センチネルが足元に合図を送る。
地面が盛り上がり、ピンク色の掃除屋が顔を出した。
『……残さず食え』
キュルルッ!
喰丸は猛スピードで這いずると、地面に落ちた薬莢を「パリポリ」とスナック菓子のように食べた。
続いて、弾痕の残る樫の木へ向かい、着弾した鉛玉ごと、幹の部分をガリガリと齧り取った。
数秒後。
そこには、ただ「自然に折れたような木」と、何もなかった地面だけが残った。
『……任務完了。よし、帰還する』
硝煙の臭いすらも喰丸に吸わせ、完全な無臭となって、センチネル達は竜丸に乗り込んだ。
闇に消えていくその姿は、もはや「おもちゃ」の領域を完全に逸脱していた。
翌朝、リアンはニヤニヤしながらネット通販の履歴を削除した。
これで、いざという時は「鉛の飴玉」をプレゼントできる。
最強の3歳児は、着々と軍備を拡張していた。




