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EP 4

運命の審判の日。

ルナハン中央教会の大聖堂は、厳粛な空気に包まれていた。

高い天井、色鮮やかなステンドグラス、そしてパイプオルガンの重厚な音色。

その中心で、3歳の誕生日を迎えた子供たちが一列に並んでいる。

最後尾に並ぶリアン(3歳)の顔色は、死人のように青白かった。

(……結局、何の対策も思い付かなかったな)

リアンは絶望的な溜息をついた。

教会の検査用魔道具をハッキングする? 構造が不明すぎる。

仮病を使って欠席する? 後日、個別に呼び出されるだけだ。

(担当のシスターの聖水に、ネット通販の強力下剤を混入させて儀式を中止させる……なんてテロ行為も一瞬考えたが、流石に神の家でそれをやるのは心が痛む。というか、バレたら即処刑だ)

打つ手なし。完全な手詰まり(チェックメイト)だ。

列の前の方では、アークスとマーサが心配そうに、そして期待に満ちた目で見守っている。

さらに悪いことに、柱の陰にはあの鋭い捜査官、クルーガが腕を組んでこちらを監視していた。

「次の方。リアン・シンフォニア君」

シスターの澄んだ声が、死刑宣告のように響いた。

「……はい」

リアンは重い足取りで祭壇へと進む。

目の前には、慈愛に満ちた女神ルチアナの石像と、その足元にある水晶球。

「では、リアン君。この水晶に手を乗せて、ルチアナ様にお祈りしてね」

シスターが優しく促す。

リアンは震える手をおずおずと伸ばした。

(さようなら、俺のスローライフ。さようなら、美味しいご飯と昼寝の日々……。今日から俺は、帝国の地下牢で死ぬまでポーションと武器を吐き出し続ける『自動販売機』として頑張るよ……)

覚悟を決め、リアンは水晶に触れた。

カッ! と視界が真っ白に染まる。

気がつくと、リアンは白い空間に浮いていた。

教会でもない、家でもない、無機質な白い部屋。

その中央に、ちゃぶ台と座布団があり、一人の女性が煎餅をかじりながら寛いでいた。

「ヤッピ~☆ 青田優也くん……いや、今はリアン君か」

声の主は、神々しい女神……ではなく、首元がヨレた芋ジャージに、便所サンダルを履いた残念な姿の女性だった。

「え? ……あ! テメェ! あの時の駄目女神!」

リアンは叫んだ。

転生する時、適当な説明で今の世界に放り込んだ張本人、女神ルチアナだ。

「酷いなぁ。せっかくリアン君の為に、良いことしようと思って呼んであげたのに~」

ルチアナはボリボリと煎餅をかじりながら、面倒くさそうに頬杖をついた。

「良いこと? 今、俺が人生最大のピンチだって分かってんのか?」

「分かってるって。だから呼んだのよ」

ルチアナは指についた煎餅の粉を舐めとりながら言った。

「流石にねぇ、『ネット通販(Net Super)』なんてチートスキルがこの世界の上位管理者アナスタシアにバレたら、管理不行き届きで私が責められるのよ。『また変な異物入れたでしょ!』って。始末書書くの超面倒くさいし」

「……はぁ? (こいつ、自分の保身しか考えてねぇ)」

「だからね、君のスキル情報をこっちで書き換えて(マスクして)あげることにしたの」

ルチアナは空中に浮いたホログラムウィンドウを、指先で適当に操作し始めた。

「君のスキルは……そうね、**『召喚(小)』**にしといてあげる」

「……召喚?」

「そう。ネット通販も、異世界から物を呼び出すんだから、広義では『召喚』でしょ? これなら一般スキルだし、誰も怪しまないっしょ」

ルチアナは「エンターキー」を叩くジェスチャーをした。

「『小』がついてるから、せいぜい『小石』とか『お菓子』くらいしか出せないショボいスキルってことになるわ。これなら帝国も注目しないし、スローライフも守れる。完璧でしょ?」

「……お、お前……!」

リアンは感動した。

その動機が「始末書が面倒だから」という不純なものであっても、結果としてリアンを救ってくれたのだ。

「じゃあね、リアン君。良い異世界生活を☆ あ、これあげる」

ルチアナが手を振ると、視界が急速に遠ざかっていく。

「……君? リアン君?」

シスターの声で、リアンは現世に引き戻された。

水晶球が淡い、本当に淡い光を放っている。

シスターは水晶に浮かんだ文字を読み取った。

「えぇっと……。リアン君のスキルは、**『召喚(小)』**ですね」

教会内がざわついた。

S級冒険者と騎士団副団長の子供。さぞかし凄いユニークスキルかと思いきや、極めて平凡、いや、ハズレに近いスキルだ。

「召喚スキル……ですか。成長すれば『中』、『大』、『極』となり、幻獣などを喚べる可能性がありますが……まぁ、そこまで成長した人物は歴史上見た事がありませんね」

シスターが残念そうに、しかし慰めるように言った。

「小さな物しか呼び出せない、生活魔法レベルのスキル」。それが教会の判定だった。

「……そうですか」

アークスとマーサの顔には、少しの落胆と、それ以上の安堵が浮かんでいた。

英雄にならなくていい。普通の子として育ってくれればいい。そんな親心が見て取れる。

そして、柱の陰のクルーガは、「……ふん、外れか」と興味を失ったように背を向けた。

「ははは……」

リアンは乾いた笑い声を上げた。

助かった。

首の皮一枚で、自動販売機行きを回避した。

(仕方ねぇ……。今度、あの駄目女神に、ネット通販で最高級の日本酒と、激ウマの酒の肴をお供えしてあげるか)

神への賄賂(供物)を決意し、リアンは「召喚(小)」という最高の隠れ蓑を手に入れて、教会の外へと歩き出した。

これで堂々と、ネット通販ライフが送れる。

……はずだったが、彼の横を「召喚(極)」レベルの災害エルフ・ルナが通り過ぎようとしていたことに、リアンはまだ気づいていなかった。

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