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EP 2

公園の一角は、異様な緊張感に包まれていた。

さっきまで豆鉄砲の雨あられだった場所が、今は「強制的な祝福」の場へと変貌していたからだ。

「たんかたた~ん☆ たんたかたた~ん☆」

ルナ(3歳・ハイエルフ)が、口ずさむ『結婚行進曲』。

その無垢な歌声に合わせて、周囲の草花がリズムを刻むように揺れる。

だが、その光景はメルヘンではない。ホラーだ。

「し、新郎新婦は前へ……(なんで僕、こんな目に……。帰りたいよぉ……)」

神父役を強制された近所の少年(5歳)が、泣きそうな顔で進行を進める。

彼の背後では、つたが「ちゃんとやれ」と言わんばかりに蠢いているのだ。

「へ?」

リアン(3歳・中身おっさん)は、状況が飲み込めず間の抜けた声を上げた。

「リアン君! 弓丸ちゃんを構えて!」

ルナの瞳がキラキラと輝く。

彼女の手には、泥と水で練り上げられた、目鼻も定かではない不気味な塊――『泥ゴーレム(花嫁衣裳風の葉っぱ付き)』が握られていた。

「……結婚式かよ」

リアンはげんなりした。

俺の最高傑作、カーボン複合素材と最新工学の結晶である『弓丸』を、あんな泥団子と並べるのか?

「リアン、ルナ……(の持っている人形)。病める時も、健やかなる時も……互いを愛し、敬いますか?」

神父役の少年が、震える声で誓いの言葉を読み上げる。

「はいっ☆」

ルナは即答。泥ゴーレムを元気よく掲げる。

そして、視線がリアンに集まる。

「……誓うわけないだろ。会って30分も経ってないのに」

リアンは冷静にツッコミを入れた。

おままごとには付き合ってやるが、世界観の設定崩壊と、弓丸の尊厳に関わることには妥協できない。

「だいたい、種族も素材も違う。住む世界が違いす――」

ジャキッ。

リアンの言葉が止まった。

周囲を取り囲む植え込みから、ひまわりのような花が一斉にこちらを向いたのだ。

その中心部には、種ではない。鋭利なトゲが、ガトリング砲の如く装填されている。

植物たちの殺気プレッシャーが、肌を刺す。

『誓エ……誓エ……誓ワヌナラ、ハチノス……』という幻聴すら聞こえてきそうだ。

「…………」

リアンは背筋を伸ばし、満面の営業スマイルを浮かべた。

「はい! 誓います!!」

命あっての物種だ。プライドなどボアウルフに食わせておけ。

「で、では……誓いの口付けを……」

神父役の少年が、早く終わらせたい一心で先を促す。

「え?」

リアンが固まる。

ルナが、泥ゴーレムをヌッと突き出した。

水分をたっぷり含んだ、ドロドロの顔面(?)が迫ってくる。

「ま、まさか……。や、やめろ……!」

リアンは後ずさる。

弓丸は精密機械だ。関節部に泥が入れば駆動系に支障が出るし、センサーアイが汚れる。

何より、俺の相棒が汚れるのが許せない!

「待て! 話し合おう! 衛生的に良くない! それに――」

「誓いのチュー☆」

ルナは聞く耳を持たない。

「えいっ」と、泥ゴーレムを弓丸の顔面に押し付けた。

ブチュゥゥゥゥ……ッ!!

湿った、嫌な音が響いた。

スタイリッシュな黒い機体『弓丸』の顔面が、茶色い泥に飲み込まれる。

「…………あ」

リアンの時が止まった。

弓丸のセンサーアイから、泥水が涙のように垂れている。

「うわあああああ!! 泥だらけだあああ!!」

リアンの絶叫が公園に響き渡った。

「何すんだよおおお! メンテナンス大変なんだぞ!? 洗浄して乾燥させて注油して……ふざけんなぁぁぁ!!」

3歳児の癇癪に見せかけた、エンジニアの魂の叫び。

だが、ルナはキャッキャと手を叩いて喜んでいた。

「やったー☆ 無事に結ばれたね! 次は『新婚旅行編』だね☆」

ルナの背後で、植物たちが「次はジャングルクルーズだ」と言わんばかりに、公園の木々を変形させ始めている。

「するか馬鹿野郎おおおお!!」

リアンは限界だった。

これ以上付き合っていたら、弓丸どころか、俺の精神(と社会的地位)が崩壊する。

「お、俺は帰る! 離婚だ離婚!!」

「あ! 待ってぇ、旦那様ぁ〜!」

リアンは泥だらけになった弓丸を抱きしめ、脱兎のごとく公園の出口へと駆け出した。

背後から迫る「歩く自然災害」と、無邪気な「ヤンデレエルフ」の愛の追跡を振り切るために。

3歳の誕生日。

リアンは「ユニークスキル」の検査を前に、「理不尽な女への耐性ストレス」というスキルを獲得したのだった。


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