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第四章 3歳児の勇者

爽やかな風が吹く、ルナハンの街の公園。

今日は、リアンの3歳の誕生日だ。

「神託の儀(スキル検査)」という人生の分岐点まで、あと数日。

しかし、今日のリアンはそんな憂鬱を吹き飛ばすほど、晴れやかな気分だった。

「大丈夫ですか? リアン様、お一人で……。やはり私も影から護衛を……」

玄関先で、オニヒメが心配そうに眉を下げている。

「平気平気! 公園に行くだけだもん! いってきまーす!」

リアンは元気よく手を振り、駆け出した。

その手には、愛機の一つ『弓丸ゆみまる』が握られている。

(もちろん、今日の弓丸は毒薬も実弾も抜いた「安全モード」だ)

公園に到着すると、リアンは驚きの光景を目にした。

「いけー! 僕のナイトギア!」

「負けないぞ! 必殺、マグナ・スラッシュ!」

砂場や遊具の周りで、子供たちが人形を手に遊んでいる。

ニャングルが量産・販売を始めた『マグナギア(玩具版)』だ。

リアンが作った精巧な戦闘兵器の「廉価版」だが、子供たちの間では爆発的なブームになっていた。

(おぉ、やってるやってる……。俺のデザインがここまで浸透するとはな)

リアンはベンチに座り、ニヒルな笑みを浮かべた。

(もう「カリスマ玩具職人」としてソロデビューしても良いかな? ……いや、まだ3歳だからな。目立つと帝国の目にとまる。う~ん、悩ましい)

大人の余裕(中身)で子供たちを眺めていた、その時だった。

「ねぇ! 何を持ってるの!?」

鈴を転がしたような、可愛らしい声が降ってきた。

「え?」

リアンが顔を上げると、そこには異質な存在が立っていた。

透き通るような銀髪に、新緑の瞳。

そして、あからさまに長い耳。

極めつけは、彼女の身長よりも長い、捻じれた巨木のような杖を引きずっている。

(……エルフ? しかも、なんだこの「高貴」なオーラは)

「な、何だ? お前」

リアンが警戒して尋ねると、少女はプクッと頬を膨らませた。

「お前じゃない! ルナちゃんだよ☆」

キラキラしたエフェクトが見えそうな自己紹介。

あざとい。だが、圧倒的に可愛い。

「……そうか。俺はリアンだ。じゃあな」

リアンは即座に興味を失った(ふりをした)。

関わるとろくなことにならないセンサーが、ガンガン警報を鳴らしているからだ。

リアンはベンチを立ち、その場を去ろうとした。

ガシッ。

しかし、服の裾を掴まれた。

「ねぇ! 私、それ欲しい!」

少女――ルナが、キラキラした目でリアンの手元を指差した。

「それって……弓丸のことか?」

「弓丸って言うの? かっこいい! あの子達が持ってるのより、ずっと強そうで、賢そうで……素敵!」

(……ほう。見る目があるな)

リアンは少しだけ気を良くした。

量産品と、オリジナルの『弓丸』の違いが見抜けるとは。

だが、これは渡せない。中には盗聴器の受信機や、緊急用の火薬が仕込まれているのだ。

「そうか。だが、これは俺の相棒だ。あげられない。……じゃあな」

リアンは再び歩き出した。

「じゃあな」は、「もう話しかけるな」のサインだ。

だが、世間知らずの王女様(候補)には通じない。

「むぅ……。じゃあ、ねぇ! お人形さんごっこしよう!」

ルナが前に回り込み、通せんぼをする。

「はぁ? 人の話を聞けよ……。何回『じゃあな』を言わせんだよ」

リアンは呆れてため息をついた。

「それに、人形ごっこって……。おままごとかよ。勘弁してくれ。俺は忙しいんだ」

中身は元経営者で三つ星シェフ。

3歳児の「あかちゃんごっこ」に付き合うほど暇ではない。

リアンは冷たく言い放ち、ルナの横をすり抜けようとした。

その瞬間。

ルナの大きな瞳に、涙がみるみる溜まった。

「う……うぅ……」

「(ん?)」

「うわあああああん!! リアン君が虐めるぅぅぅ!!」

ルナがその場で泣き出した。

森の妖精の如き美少女の号泣。周囲の子供や親たちが「何事!?」と注目する。

(おいおい、泣くなよ! 俺が悪者みたいじゃねーか!)

リアンが焦った、次の瞬間だった。

ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

公園の地面が揺れた。

いや、地面ではない。植え込みの植物たちが、一斉に殺気を放ったのだ。

「え?」

シュバババババッ!!

植え込みの低木から、無数の「何か」が射出された。

硬い木の実だ。ドングリや豆が、ライフルのような速度でリアンを襲う。

「いったぁッ!?」

パチン! パチン!

豆鉄砲なんて生易しいものではない。BB弾のフルオート射撃だ。

さらに、足元の芝生が急激に伸びて、リアンの足首に絡みつこうとする。

(な、なんだこれ!? 植物が意思を持って攻撃してきてる!?)

「うわぁぁん! 弓丸貸してくれないぃぃ! 意地悪ぅぅ!」

ルナの泣き声が大きくなるほど、風が吹き荒れ、木の枝が鞭のようにしなり、落ち葉がカマイタチのように舞う。

「何なんだよ~!!」

リアンは弓丸を盾にして、必死に豆弾幕を防いだ。

これはただの幼児の癇癪ではない。

世界そのものが、「姫を泣かせた罪人」を処刑しようとしているのだ。

(まさかこいつ……本物の『エルフ』か!? しかも、とんでもなくヤバい個体の!)

3歳の誕生日。

公園デビューを果たしたリアンは、プレゼントの代わりに「世界樹の洗礼(豆鉄砲)」を全身に食らいながら、新たな天敵の出現を悟るのだった。

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