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EP 6

燃え盛る炎が収束し、不気味なほどの静寂がルナハン川のほとりを支配していた。

焦げた草の臭いと、わずかな硫黄の臭いが漂う中、センチネル(リアン)は冷徹に周囲を見回した。

『さて……。弓丸、騎士丸。撒菱マキビシを回収しろ』

その命令は絶対だ。

ネット通販で購入した「ステンレス製撒菱」は、この世界には存在しない加工技術の結晶だ。万が一、一つでも現場に残されれば、「エルフの魔法」というカバーストーリーが崩れ、未知のアーティファクトを使う何者か(俺)へと捜査の手が伸びかねない。

『了解』と言わんばかりに、二体の人形が動き出す。

弓丸と騎士丸は、死屍累々となったオーガの山を縫うように歩き、川岸に散らばった数百個の撒菱を一つ一つ拾い集めていく。

『……これが一番手間がかかるな』

センチネルはため息交じりに独ごちた。

破壊は一瞬だが、後片付けは常に地味で面倒だ。まるで閉店後の厨房掃除のような虚無感がある。

作業の合間、センチネルは積み上がったオーガの死骸を見上げた。

外傷はほとんどない。ただ、苦悶の表情を浮かべて折り重なっている。

酸欠と一酸化炭素中毒。魔法防御も筋肉も意味をなさない、静かなる大量死。

『さて……。100体のオーガが一夜にして死んだんだ。大騒ぎになるな』

これだけの数を「誰にも見られず」「無傷で」葬ったのだ。

騎士団はおろか、街中がパニックになるだろう。

『当分は大人しくしていよう。……目立ちすぎた』

全ての証拠隠滅(回収)を終えたシンフォニア小隊は、再び竜丸に乗り込んだ。

闇に紛れ、子供部屋へと帰還するその背中は、仕事を終えた職人のように淡々としていた。

翌朝。

ルナハンの街は、早朝から鐘の音と喧騒に包まれていた。

シンフォニア家の子供部屋。

リアン(2歳)は、積み木で遊ぶふりをしながら、耳にイヤホンを押し当てていた。

屋根裏の情報指令室から、騎士団本部の会話がリアルタイムで流れてくる。

『信じられるか!? アークス!』

ゼノン団長の声が、ノイズ混じりでも分かるほど裏返っていた。

『オーガ達が……一夜で全部死んだんだ! 100体だぞ!? それが全滅だ!』

『……そんな事が。現場を確認しましたが、昨日の斥候の報告と同じです。剣傷一つなく、ただ息絶えている……』

アークスの声も震えている。

現場の惨状を目の当たりにし、理解の範疇を超えた光景に畏怖しているようだ。

『一体どうなってるのか……。魔法の痕跡もない。毒でもない。まるで空気が死んだような……』

『……例の、「謎のエルフ」の仕業ですかね』

アークスがポツリと漏らした。

それしか説明がつかないのだ。人知を超えた力。森の怒り。

『そうとしか思えん。精霊魔法の類か、あるいはもっと高位の……』

ゼノンはそこで言葉を切り、重々しく告げた。

『アークス。俺はこの件を上に報告する』

『上、ですか?』

『あぁ。一都市の騎士団で抱え込める案件じゃない。未知の大規模殲滅魔法(と思しき現象)が確認されたんだ。……エライ事が起きるぞ』

ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた気がした。

『ルナミス帝国が動きますね』

『間違いなくな。帝国の魔導師団や、監査官が派遣されるだろう』

ガシャン。

リアンの手から、積み木が崩れ落ちた。

(……は?)

リアンの顔が引きつる。

ルナミス帝国。この大陸を支配する巨大国家。

その中枢が動き出す?

(ま、マズい……! 地方都市の騎士団なら「謎のエルフ」で誤魔化せたが、帝国の魔導師団なんて来たら……現場の残留魔力の無さや、物理現象の痕跡から「魔法じゃない」ってバレる可能性が高い!)

もし、「高度な科学知識を持つ何者か」の存在が露見すれば?

そして、その捜査線上に「異界の知識」を持つ2歳児が浮上したら?

(……藪蛇をつついたら、ドラゴンが出てきた気分だ)

リアンは青ざめた顔で、窓の外の青空を見上げた。

家族を守るために張り切りすぎた結果、国家権力という最大の敵を呼び寄せてしまったかもしれない。

(3歳のスキル検査まであと一年……。それまでに、帝国への対抗策(言い訳)も用意しなきゃならないのか!?)

最強の2歳児の前途は、オーガの群れよりも遥かに厄介な「政治と陰謀」の嵐に包まれようとしていた。

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