EP 17
シンフォニア家のダイニングルームは、暖かなキャンドルの光と甘い香りに包まれていた。
テーブルの中央には、オニヒメ特製の巨大なバースデーケーキ。そこには「2」の形をしたロウソクが輝いている。
「さぁ、リアン。お誕生日おめでとう」
マーサが慈愛に満ちた笑顔で、切り分けたケーキをフォークに刺し、リアンの口元へ差し出した。
リアン(2歳)は、大きく口を開けてそれを迎え入れる。
「あーん」
パクッ。
(……ほう。スポンジの気泡が均一で、シロップの打ち方も絶妙だ。生クリームは乳脂肪分高めだが、ベリーの酸味でバランスを取っている。……合格だ)
元三つ星シェフの厳格な審査を一瞬で終え、リアンは満面の笑みを浮かべた。
「おいち!」
「ふふ、良かったわねぇ。美味しい?」
「美味しいか? リアン! そうかそうか!」
アークスが目尻を下げて頭を撫でてくる。
その腕は、かつてオークに変形させられたとは思えないほど力強く、完全に回復していた。
「よろしゅうございました、リアン坊っちゃま」
控えているオニヒメも、満足げに目を細める。
(俺も、これで2歳か……)
リアンは口の中の甘味を味わいながら、この一年を振り返った。
父アークスは現場復帰し、再びルナハンの守護者として働いている。
その裏で、リアン率いる『シンフォニア小隊(マグナギア軍団)』が、盗聴と暗殺と隠蔽工作で、父に降りかかる脅威を事前に排除していることは、誰も知らない。
(……悪くない。俺は影の英雄、おもちゃ箱の支配者として、父さん達の仕事を裏で支える。この平穏な生活を守るためなら、毒でも闇討ちでも何でもやるさ)
リアンが新たな一年の決意を固めていた、その時だった。
マーサがふと、将来の話を切り出した。
「リアンも2歳……。あと1年もすれば、教会での『スキル検査』ね」
ピキッ。
リアンの思考が凍りついた。
(……スキル……検査?)
「そうだそうだ! 俺達の息子だからな、きっと特別な才能があるに違いない!」
アークスがガハハと笑いながら、ワインを呷る。
「えぇ。S級冒険者の賢者様と、騎士団副団長のサラブレッドですもの。間違いなく『ユニークスキル』をお持ちですよ」
オニヒメまでもが、確信に満ちた声で追い打ちをかける。
「おぎゃ……(や、やめろ……! 期待のハードルを上げるな!)」
リアンの顔から血の気が引いていく。
この世界では、3歳になると教会で「神託の儀」を受け、自身のスキルを公にする義務がある。
(俺のスキルは『ネット通販(Net Super)』だぞ!?)
異世界の、しかも地球の物資を無限に取り寄せられる能力。
そんなものがバレたらどうなる?
「勇者」として崇められる? いや、違う。
(……ネット通販なんて存在を知られたら、国家や帝国に「戦略物資供給源」として目をつけられる。一生、地下室に監禁されて、食料や武器を吐き出し続けるだけの『生きた自動販売機』にされるのがオチだ!)
「リアン! すごいスキルを持って、父さん達を楽にさせてくれよな!」
アークスの冗談が、今のリアンには死の宣告に聞こえた。
「まぁ貴方ったら♡ でも、リアンならきっとなれるわよ」
両親の温かい眼差しが、今は恐怖のスポットライトのように突き刺さる。
(や、やべぇ……。魔物より、騎士団より、何より恐ろしいイベントが一年後に待ってやがった……!)
どうやって誤魔化す?
スキルの偽装は可能か?
それとも、検査そのものをぶっ壊すか?
新たな、そして最大のミッションが発生したことを悟り、リアンは冷や汗を流しながら、引きつった笑顔でケーキを頬張るしかなかった。
「おい……ち……(あぁ、胃が痛え)」
窓の外では、何も知らない『センチネル』達が、屋根の上で主の誕生日を祝ってポーズを決めていた。
最強の1歳児(2歳)の戦いは、まだ終わらない。
第二章 「1歳児の勇者」 完




