EP 13
ルナハン騎士団本部。
街の中心にそびえ立つ、堅牢な石造りの要塞。
その尖塔の影に、音もなく滑空する一つの影があった。
『現着。……高度維持』
センチネル(リアン)の指令を受け、竜丸が屋根のガーゴイル像の裏で静止する。
眼下には、松明を持って巡回する衛兵たちの姿。人間にとっては厳重な警備だが、体長30センチの人形にとっては「隙間だらけ」のザル警備だ。
『降下開始』
竜丸の腹部から極細のワイヤーが繰り出される。
センチネル、弓丸、騎士丸の三機は、壁の黒い染みになりすまし、音もなくテラスへと降り立った。
要塞内部の廊下。
天井の梁の上を、三つの小さな影が走る。
『作戦司令室は何処だ?』
センチネルがハンドサインを送る。
深夜だというのに、建物内は慌ただしい。アークスが負傷した「変異種オーク」の件で、騎士団全体がピリついているのだ。
『……こっちだ。騎士達の話し声がする』
重厚な扉の前。中から深刻な話し声が漏れてくる。
「ゼノン団長、討伐隊の編成ですが……」
「アークス副団長が抜けた穴は大きいぞ……」
『……ここだ。ビンゴだ』
センチネルが顎で指し示すと、身軽な『弓丸』が動いた。
弓丸は扉の隙間から侵入すると、壁にかけられたタペストリーを足場に、スルスルと壁を登っていく。
目指すは、部屋の奥に飾られた歴代団長の肖像画。
弓丸は額縁の裏側に回り込むと、ネット通販で購入した**『超小型盗聴器(ボタン電池式)』**を貼り付けた。
黒いテープで固定し、表からは絶対に見えない位置へ。
『設置完了』
『よし……弓丸、戻れ』
弓丸が音もなく床へ着地し、再び廊下へと脱出する。
これで、騎士団の作戦、出動時間、そして「父さんを傷つけた魔物の詳細」は全てリアンの耳に入る。
『第一目標クリア。帰投するぞ』
センチネルたちは梁の上を走り、侵入したテラスへと戻ろうとした。
だが、その途中。
センチネルの視界が、あるプレートを捉えた。
【第三武器庫】
【立入禁止:危険物取扱所】
重々しい鉄扉には、ドクロマークの看板が掲げられている。
『武器庫か……。しかも危険物?』
リアンの足が止まった。
ネット通販で買った「下剤」や「睡眠薬」は、対人用としては優秀だが、巨大な魔獣を殺すには火力が足りないかもしれない。
だが、騎士団が管理する「危険物」なら?
『……なんか有るかもな。寄り道していくぞ』
センチネルたちは通気口の格子を(騎士丸の怪力で)外し、ダクトを通って武器庫内部へと潜入した。
そこは、冷んやりとした空気が漂う保管庫だった。
無数の剣や槍が並ぶ棚の奥に、厳重に鍵がかけられた薬品棚があった。
中には、紫や緑色の怪しい液体が入った瓶が並んでいる。
『ワイバーンの神経毒』
『麻痺毒(濃縮)』
『対大型獣用・爆裂オイル』
リアンはニヤリと笑った(心の中で)。
『……つまり毒物か。丁度いい、拝借しよう』
これは犯罪だ。だが、家族を守るための「必要経費」だ。
センチネルの指示で、弓丸が魔法ポーチを開く。
中から取り出したのは、ネット通販で買った**『タレ瓶(角大)』と『スポイト』**。
『慎重にやれよ。一滴でも垂らせば、俺たちの機体が溶けるかもしれん』
弓丸と騎士丸が連携し、騎士団の毒瓶の蓋をそっと開ける。
スポイトで中身を吸い出し、タレ瓶へと移し替えていく。
毒液の量は目に見えて減ったが、全て盗むとバレるので、半分ほど拝借して、残りは水で薄めておいた(悪魔の所業)。
『確保完了。……とんでもない劇薬が手に入ったな』
魔法ポーチに厳重にしまい込む。
これで、弓丸の矢に塗れば「必殺の一撃」となり、騎士丸の刃に塗れば「麻痺攻撃」が可能になる。
『よし、長居は無用だ。帰投する』
センチネルたちはダクトを通り、再び夜空の下へ。
待機していた竜丸が滑るように寄ってくる。
ワイヤーで回収され、シンフォニア小隊は一塊となって上昇した。
ルナハンの夜空に消えていく竜の影。
その腹の中には、騎士団の極秘情報と、致死性の猛毒が収められていた。
翌朝、作戦会議室の騎士たちは気づかない。
自分たちの会話が、全て屋根裏の赤ん坊に筒抜けになっていることに。
そして、森の魔物たちはまだ知らない。
最凶の暗殺部隊が、自分たちの命を刈り取りに来ることを。




