EP 10
昼間の外出で目星を付けていた『小型魔法ポーチ』。
アレさえあれば、増え続けるマグナギアの武装や、ネット通販で購入した調味料、そして万が一の時の非常食を、全てスマートに携帯できる。
母マーサに断られたからといって、諦めるような元三つ星シェフではない。
深夜2時。
シンフォニア家の子供部屋は、再び秘密の作戦室と化した。
(センチネル、起動)
リアンはベビーベッドの中で目を閉じ、意識を飛ばした。
カシャン、と胡桃割り人形が立ち上がる。
『……弓丸、騎士丸、竜丸。発進準備』
センチネルの眼光が鋭く光る。
『目標地点、ゴルド商店。作戦名は「深夜のお買い物」だ』
センチネルの号令と共に、シンフォニア小隊が動いた。
竜丸が低い姿勢で伏せ、その腹部と背中に弓丸と騎士丸が磁石でドッキング。
最後に指揮官であるセンチネルが首元に跨る。
『全機、搭乗完了。……行くぞ』
バサッ!!
竜丸が翼を広げ、開け放たれた窓から夜の闇へと躍り出た。
ルナハンの街並みがぐんぐんと遠ざかっていく。
冷たい夜風が心地よい。リアンは高高度を保ちつつ、商店街の方角へと機首を向けた。
数分後。
ゴルド商店、ルナハン支店の上空。
『現着。……夜分だ、当然もう閉まってるな』
眼下の店は静まり返り、看板の灯りも消えている。
正面入口は施錠されているだろうが、この小隊には関係ない。
『降下開始』
竜丸が屋根の天窓付近でホバリングする。
腹部のリールが回転し、騎士丸と弓丸、そしてセンチネルがワイヤーで吊るされながら、天窓のわずかな隙間から店内へと侵入した。
店内は薄暗く、様々な商品の匂いが混じり合っている。
そして、カウンターの方から規則正しい音が聞こえてきた。
「……すぴー……むにゃ……金ならあるでぇ……すぴー……」
支店長のニャングルだ。
彼はカウンターに突っ伏したまま、大きな鼻提灯を膨らませて眠りこけていた。
残業中に力尽きたのか、それとも店の商品を守るためにここで寝ているのか。
『……不用心な奴だ。だが、好都合だ』
センチネルたちは音もなくカウンターに着地した。
『よし、チャンスだ。弓丸、騎士丸。例のブツを』
指示を受けた二機が、棚の方へ走る。
昼間、リアンが目を付けていた場所を正確に記憶していた。
すぐに二機は、掌サイズの可愛らしい『小型魔法ポーチ』を一つずつ抱えて戻ってきた。
『二つ確保。……よし』
センチネルはバックパック(実はこれもネット通販の段ボール製)から、重厚な輝きを放つコインを取り出した。
昨夜、ニャングルから貰った白金貨(100万円相当)。
それを元手に、リアンはネット通販の「貴金属コーナー」で**【純金メイプルリーフ金貨】**を購入しておいたのだ。
こちらの世界の金貨と純度はほぼ同じ。いや、加工精度が高い分、価値は高いかもしれない。
一枚5枚のポーチを二つ。計10枚。
センチネルは、ニャングルの寝ているカウンターの横、勘定用トレイの上に、チャリン、チャリンと金貨を積み上げた。
『……泥棒じゃないからな。対価はきっちり払わせてもらう』
支払いを終え、撤収しようとした時。
センチネルは、ニャングルが寒さで身を縮こまらせているのに気づいた。
「……うぅ……さぶぃ……」
鼻提灯がプルプルと震えている。
『……はぁ』
センチネル(リアン)は呆れつつも、カウンターの椅子に掛けてあったニャングルの上着に目をやった。
『弓丸、騎士丸。手を貸せ』
三体の人形は協力して上着を持ち上げると、そっとニャングルの背中に掛けてやった。
元シェフとして、客(今回は店主だが)が風邪を引くのを見過ごすのは寝覚めが悪い。
『じゃあな、ニャングルさんよ。風邪引くなよ』
「……むにゃ……まいど……」
寝言で返事をするニャングルを一瞥し、センチネルたちはワイヤーを掴んだ。
『竜丸、巻き上げろ! 離脱する!』
シュルルルッ!
三体は一気に天井へと吸い込まれ、夜空で待機する竜丸へと収容された。
『作戦完了。帰投する!』
両手に戦利品(魔法ポーチ)を抱え、シンフォニア小隊は月に向かって飛び去った。
翌朝、目を覚ましたニャングルは、背中に掛けられた上着と、トレイに積まれたピカピカの金貨10枚を見て、再び「精霊様が来た!」と大騒ぎすることになるのだが、それはまた別の話である。




