EP 6
深夜の静寂に包まれたシンフォニア家。
しかし、子供部屋の空気だけは、熱したフライパンの上のように張り詰めていた。
ベビーベッドの陰、月明かりが届かない場所で、アークスが持ち帰った新型素体とドラゴン型の改造手術が完了した。
(よし……。仕込みは終わった)
リアン(1歳)は、並べられた機体を見下ろした。
指揮官機『センチネル』。
遊撃機『弓丸』。
重装甲機『騎士丸』。
航空輸送機『竜丸』。
これが、リアン・シンフォニアの私設軍隊、通称『シンフォニア小隊』の全貌だ。
(まずは……指揮官であるセンチネルに意識を移す。ここからが本番だ)
リアンは深く息を吸い、精神を肉体から切り離した。
カチリ。
胡桃割り人形の目が光を宿す。
センチネルとなったリアンは、自分の手を見つめ、そして横に並ぶ3体の機体に意識の触手を伸ばした。
(繋がれ……! 俺が、弓丸と騎士丸と竜丸を……同時に操作する!)
これは、三つ星レストランの厨房で、4つのコンロとオーブンを同時に管理し、数十人の客のオーダーを完璧に捌き切る「超並列思考」を持つリアンだからこそ可能な荒業だ。
脳(魂)が焼き切れそうな負荷がかかるが、やるしかない。
『総員、搭乗せよ!』
センチネルの無言の号令と共に、機体たちが動いた。
竜丸が低い唸りを上げて伏せる。
その腹部のマグネットポートに、重装の『騎士丸』がガシャン! と吸着される。
背中側には身軽な『弓丸』が飛び乗った。
そして、首の付け根にあるコックピット(座席)に、指揮官『センチネル』が跨る。
『全機、接続完了。……重てぇな』
総重量はかなりのものだが、コスト2の竜丸の出力ならいけるはずだ。
『この状態で竜丸を飛ばす……。竜丸、発進!』
センチネルが魔力をフルスロットルで注入する。
ブォォォォォッ!!
竜丸の翼が大きく展開し、風を孕んだ。
内蔵されたガス燃焼機関が唸りを上げ、推力を生み出す。
『うぉっ……! くぅっ……!!』
浮き上がった瞬間、センチネル(リアン)の視界がグラリと歪んだ。
魔力消費(燃費)がエグい。
まるで自分の血がストローで吸い出されているような感覚。
(魔力が持ってかれる……! 赤ん坊の魔力タンクじゃカツカツだ! だが……!)
『根性と努力で乗り切るッ!! シェフは忙しい時ほど笑うもんだ!』
リアンは歯を食いしばり(木製なので音だけだが)、精神力で機体を安定させた。
竜丸はふわりと上昇し、開け放たれた窓から夜空へと躍り出た。
ルナハンの夜景が眼下に広がる。
家々の灯りは消え、月光だけが石畳の街を青白く照らしている。
『ははっ……! 飛んでる……! 俺が飛んでるぞ!』
センチネルは風を感じた。
乳母車の低い視点でも、大人の高い視点でもない。
鳥の視点。空の支配者の視点だ。
竜丸は街の上空を大きく旋回した。
騎士丸をぶら下げていても、飛行は安定している。
『よ、よし……何とかなったぞ。これなら実戦投入も可能だ』
テスト飛行の成功を確信し、帰還しようと機首を向けた、その時だった。
『……ん?』
センチネルの眼が、街の外周、世界樹の森に近いエリアで揺らめく光を捉えた。
『街の外の森に……松明?』
一つや二つではない。数個の光が、木々の間を縫うように激しく動いている。
夜の森に入る物好きは冒険者くらいだが、あの動きは狩りや採取ではない。
『移動が速い……。ジグザグに動いてる。あれは……何かに追われて逃げてるんじゃないか?』
松明の光の後ろ、暗闇の中で木々が不自然に揺れているのが見えた。
何かがいる。それも、かなり大きな何かが。
『……面白ぇ。具材(状況)の確認に行くか』
リアンの中の冒険心が疼いた。
いや、もっと言えば「新しいマグナギアの実戦テスト」の絶好の機会に見えたのだ。
『進路変更。森へ向かう』
センチネルが手綱(魔力)を引く。
竜丸は大きく翼を翻し、ルナハンの防壁を越えて、漆黒の森へと滑空を開始した。
幼児と人形たちによる、初めての「夜間救出作戦」が始まろうとしていた。




