EP 3
公園のフィールドは、さながら大皿盛りのビュッフェ状態だった。
(ドラゴン型に、重装騎士型、俺と同じ弓兵型、それにパワータイプのオーガ型も居るな……。メインディッシュには困らないラインナップだ)
漆黒の機体『弓丸』を操るリアン(中身1歳児)は、冷静に戦場を見下ろした。
真正面から殴り合えば、軽量級の弓丸は一撃でミンチにされる。だが、ここは厨房だ。地の利を活かした者が勝つ。
(まずは……下拵え(プレップ)だ)
弓丸はフィールドの端にある遊具、「滑り台」へと疾走した。
階段を駆け上がりながら、バックパックから小瓶を取り出す。中身はネット通販で購入した『最高級エキストラバージン・オリーブオイル』。
それを階段のステップにドボドボと撒き散らす。
(よし、行くぜ! 頂上(特等席)へ!)
滑り台の頂上に陣取った弓丸は、眼下で繰り広げられる乱戦を見下ろした。
騎士型とオーガ型がガキンガキンと武器をぶつけ合っている。互いに夢中で、頭上が留守だ。
(頂いた。……スナイプ!)
弓丸が複合弓を引き絞る。
ヒュンッ!
放たれた矢(まち針)は、騎士と競り合って体勢を崩したオーガ型の背中、装甲の隙間にあるコアを正確に貫いた。
「な、何だと!?」
「ど、何処から撃った!?」
オーガ型の操者が悲鳴を上げる。
周囲の操者たちがキョロキョロと視線を彷徨わせる。
「あそこだ! 滑り台の上に居るぞ!」
誰かが叫んだ。
標的がバレた。だが、リアンはニヤリと笑う。
「ふん、ここに来れるものなら来てみろ」
怒り狂った騎士型と、便乗した弓兵型が、滑り台の階段へと殺到する。
「卑怯者め! 引きずり下ろしてやる!」
騎士型が勢いよく階段の一段目を踏み込んだ、その瞬間。
ツルッ!
「うおっ!?」
オイルに足を取られ、騎士型が盛大にズッコケた。
後続の弓兵型も巻き込まれ、階段の下でドミノ倒しになる。
(今だ!)
リアンは好機を逃さない。
転倒して腹を見せた騎士型めがけて、矢を放つ。
ズドンッ!
「うわあああ! 俺のナイトがぁ!?」
騎士型脱落。
起き上がった弓兵型が、下から弓を構える。
「くそっ! 降りてこい!」
矢が飛んでくるが、高所にいる弓丸はしゃがむだけで滑り台の壁を遮蔽物にできる。
逆に、下からの射撃は狙いが定まらない。
(へっへっ……お前は地べた、俺は上を取ってる。どっちが優位か分かるよな?)
リアンは嘲笑う。
それに、ここは一対一の決闘場ではない。
(バトルロイヤルだ。敵は俺だけじゃないぜ?)
弓兵型が上空への攻撃に気を取られた、その死角。
横合いから巨大な影が迫っていた。
ゴォォォォォッ!!
「――ッ!?」
凄まじい熱波。
戦場に残っていた最後の一機、ドラゴン型が放った火炎ブレスが、無防備な弓兵型を飲み込んだ。
「アーチャーがあぁぁ!!」
弓兵型の操者が絶叫する中、その機体は黒焦げになって崩れ落ちた。
「残るは上の敵だけだ! やれ! ドラゴン!」
ドラゴンの操者――身なりの良い金持ちそうな少年――が叫ぶ。
ドラゴン型は大きく翼を広げると、滑り台の高さまで浮上してきた。
コスト2の大型機特有の「飛行能力」だ。
(チッ……さすがに飛んでくるか)
ドラゴン型が大きく口を開ける。
喉の奥で、魔力による発火機関が赤く輝き始めた。至近距離からのブレス。滑り台の上では逃げ場がない。
だが、リアンは待っていた。
相手が「口を開ける」その瞬間を。
(これでも食らえ!)
弓丸はバックパックから、小さなカプセルを取り出し、ドラゴンの口の中へと放り投げた。
中身は『ジッポオイル』。揮発性の高い燃料だ。
(これで、お前は炎を吐けない……だが、俺は攻撃出来る!)
カプセルがドラゴンの口腔内で砕け、揮発したガスが充満する。
そこへ、弓丸が矢をつがえた。
「……フランベだ」
ビュッ!
放たれた矢は、ドラゴンの口の中に吸い込まれ、発火機関(火種)と接触した。
揮発ガスに引火。
出口(口)は塞がっている。行き場を失った爆炎は――
ドゴォォォォォォンッ!!
「ギャァァァッ!?」
ドラゴンの口ではなく、首の隙間や目から炎と煙が噴き出した。
内部誘爆。
精密な魔導回路が内側から焼き尽くされる、最も残酷な破壊方法だ。
「ドラゴンがああああ!! 父ちゃんの財布からこっそり盗んで買ったのにぃぃぃ!!」
少年の悲痛な叫びが公園に響き渡る。
黒煙を上げて墜落するドラゴンを見下ろし、弓丸は静かに弓を下ろした。
(勝負あったな)
フィールドには動く機体はない。
静まり返る観客たち。
誰もが、あの黒い人形の正体を測りかねていた。
弓丸は滑り台から軽やかに飛び降りると、受付のテーブルへ向かった。
皿の上に積まれた参加料、銅貨10枚。
それを鷲掴みにし、自身のポケットへと流し込む。
(ごっつぁんだな)
弓丸は呆気に取られる人々を一瞥もせず、悠然と茂みの中へと消えていった。
「……ふぅ。大漁だ」
乳母車の下、隠しスペースに弓丸が帰還する。
リアン(本体)は意識を取り戻し、薄目を開けた。
ベンチでは、オニヒメがまだ顔を赤くして本に没頭している。
「きゃっ、公爵様ったら……強引……」などと呟いており、こちらの「戦争」には全く気づいていない。
(完全犯罪成立。……さて、今日の稼ぎで次は何を買うかな)
リアンはポケットの中の銅貨の重みを想像し、満足げに再び狸寝入りを決め込むのだった。




