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第二章 1歳児の勇者

幼児編、開幕。

深夜2時。シンフォニア家の子供部屋。

リアン(1歳)は、ベビーベッドの中で聞き耳を立てていた。

廊下の向こうからは、父アークスの重低音のイビキ。隣の部屋からは母マーサの寝息。

そして、最大の懸念事項であるオニヒメの気配も、今は深く静まっている。

(……よし。全員、夢の中だ)

リアンはカッと目を見開いた。

昼間は「ママ~、マンマ~!」と無邪気な幼児を演じ、オニヒメの完璧なガードに阻まれているが、この深夜帯だけが元三つ星シェフの「仕込み」の時間だ。

(センチネル、起動)

意識の一部を、ベッドの足元に転がる胡桃割り人形へと飛ばす。

カシャン、とセンチネルが立ち上がった。

(さぁ、調理開始クッキング・スタートだ)

センチネルはクローゼットの奥から、誕生日に父から貰った『マグナギア・プロトタイプ素体』の木箱を引きずり出した。

さらに、ネット通販で購入しておいた「地球の素材」――ミニ四駆のパーツ、釣り糸、セラミックナイフ、そして各種オイル――を並べる。

(俺は、正面からの戦いはしない。騎士道? 知ったことか)

センチネルの手が、素体の関節を分解していく。

リアンの脳内には、明確な設計図レシピがあった。

(最後に勝ち抜けば良い。そのための「味付け」だ)

ドワーフ製の頑丈すぎる金属パーツを削り、代わりにカーボン素材(釣り竿の補修材)を組み込む。

関節には、ネット通販で買った「高性能グリス」をたっぷりと塗布。

魔力伝導率よりも、物理的な「滑り」と「静音性」を最優先する。

(重い鎧はいらない。必要なのは、誰よりも速く、誰よりも卑怯に立ち回るための軽さだ)

作業は一時間ほど続いた。

センチネル(リアン)の職人技により、無骨な量産型人形は、漆黒の塗装カーボンシートを施された、異形の機体へと生まれ変わっていた。

背中には、凶悪なアイテムを詰め込んだバックパック。

腰には黒いショートソード。

そして手には、滑車を組み合わせた複合弓。

リアン(本体)は、ベッドの柵越しにその機体を見下ろした。

(……完成だ。美しい。まるで黒トリュフのような存在感だ)

リアンは心の中で、新たな相棒に名を授けた。

(お前の名は『弓丸ゆみまる』だ)

和風な響き。忍びのような佇まい。

リアンは、センチネルから意識を引き上げ、今度は『弓丸』へとダイブした。

ドクンッ。

視界が切り替わる。

センチネルの「木」の感覚とは違う。金属とカーボン、そしてオイルの滑らかな感覚。

指先一つ動かすだけで、驚くほどスムーズに反応する。

(素晴らしいレスポンスだ……! これならいける!)

リアン(弓丸)は、性能テストを開始した。

ターゲットは、ここ(床)から遥か頭上にある、自分の本体が寝ているベビーベッドの柵。

(フック、射出)

背中のバックパックから、釣り針を加工した『鉤爪付きロープ』を取り出す。

ヒュンッ! と投げ上げると、鉤爪がベッドの柵にガッチリと食い込んだ。

リアンはロープを巻き取りながら、壁を走るように駆け上がった。

(速い……! センチネルの三倍は出ている!)

一瞬でベッドの縁に到達。

そのままの勢いで、リアンは空中に身を躍らせた。

(行け!)

滞空時間コンマ数秒。

リアンは背中の複合弓を構え、矢(まち針)をつがえた。

眼下にあるクッションの模様、その一点を見据える。

ビュッ!!

放たれた矢は、吸い込まれるようにクッションの中心へ突き刺さった。

音もなく着地する弓丸。

衝撃吸収用のサスペンション(バネ)が機能し、着地音すら響かない。

(よし……! 完璧だ)

リアンは弓丸の拳を握りしめた。

火力はない。防御力もない。

だが、この機動性とギミックがあれば、格上のマグナギアだろうと一方的に蹂躙できる。

(最高の愛機メインディッシュの出来上がりだ)

深夜の子供部屋。

1歳の赤ん坊は、最強のアサシン・ドールを手に入れた。

ルナハンの街が、この「黒い悪魔」に震え上がる日は近い。

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