表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/107

EP 18

ルナハンに、温かな光が満ちる夜が訪れた。

シンフォニア家のダイニングルームは、色とりどりの飾り付けで彩られていた。

今日は、リアン・シンフォニアの1歳の誕生日。

元三つ星シェフの魂を持つ彼にとって、地獄のような「寝たきり生活」からの卒業であり、記念すべき日だ。

「さぁ、リアンちゃん。お誕生日おめでとう!」

テーブルの中央には、巨大なホールケーキが鎮座していた。

元A級冒険者のマーサが集めた最高級のフルーツと、メイド検定1級のオニヒメが焼き上げたふわふわのスポンジ。

プロと素材の力が融合した、宝石箱のようなケーキだ。

マーサが微笑みながら、ケーキの中央に立てられた一本のロウソクに、指先から出した小さな魔法の火を灯す。

「ハッピバースデー、リアーン♪」

オニヒメとマーサが手拍子を打ち、アークスが野太い声で歌う。

ベビーチェアに座るリアンは、その光景を眩しそうに見つめていた。

(……ありがてぇ。本当に、いい家族だ)

歌が終わり、クライマックス。ロウソクの火を消す瞬間だ。

マーサがリアンに顔を近づける。

「さあリアン、ふーってしてごらん?」

「だぁ!(任せろ! 肺活量は鍛えてある!)」

リアンが息を吸い込んだ、その時だった。

「おめでとう!! リアン!!」

ブワッ!!

感極まったアークスが、リアンの横から思いっきり息(闘気混じり)を吹きかけた。

ロウソクの火は一瞬で消し飛び、ケーキの上のクリームが少しズレた。

「……」

場が凍りつく。

「……貴方?」

マーサのこめかみに青筋が浮かぶ。

「あ……いや、その、つい嬉しくて……」

アークスが冷や汗をかいて縮こまる。

リアンは呆れつつも、そんな父の不器用な愛が愛おしくなり、小さな手を叩いて笑った。

「パパ! ママ!」

「!!」

初めてハッキリと言葉にした(ように見せた)。

その瞬間、アークスの目から涙が噴き出した。

「うおおお! 聞いたかマーサ! パパって言った! 俺を呼んだぞ!」

「えぇ、聞いたわ! ママとも言ったわ! 天才よこの子は!」

親バカ全開で抱き合って喜ぶ両親。

リアンは心の中でVサインをする。

(ふふん、1歳児の演技力も板についてきたな)

「もうリアンも1歳かぁ……早いもんだな」

「えぇ。もうハイハイだって出来るのよ。昨日なんて、凄いスピードで廊下を走っていたわ」

「だぁっ!(おうよ! センチネルとの夜間訓練で鍛えた『高速匍匐ハイスピード・ハイハイ』だ!)」

リアンが得意げに胸を張ると、アークスが「そうだ!」と何かを取り出した。

「よぉし、今日は特別だ。父ちゃんからのプレゼントだぞ!」

ドンッ、とテーブルに置かれたのは、無骨な木箱。

リアンの目が釘付けになる。その箱に書かれた文字は、彼が待ち焦がれていたものだった。

「街の玩具屋で一番いいやつを買ってきた。**『マグナギア・プロトタイプ素体』と、『カスタムパーツキット』**だ!」

箱の中には、精巧な金属製の骨格フレームと、外装パーツがぎっしりと詰まっていた。

胡桃割り人形のセンチネルとは違う、本物の「戦闘用ホビー」だ。

「まぁ、貴方ったら。まだリアンには早いでしょう? 対象年齢を見てよ」

マーサが苦笑するが、アークスはニカッと笑う。

「いやぁ、触らせるだけなら良いだろ? 男の子はこういうメカメカしいのが好きなんだ」

リアンは箱に飛びつかんばかりに身を乗り出した。

「パパ! だぁーっ!!(でかした親父ぃぃ!! よっしゃ念願のマグナギアだ!)」

リアンの脳内では、既に設計図が展開されていた。

ネット通販で買える「ミニ四駆のモーター」や「カーボン素材」、「精密ネジ」を組み込めば、この素体は化ける。

センチネルも愛着があるが、これからはこいつがメインウェポンだ。

(待ってろよ、アッシュ。今度会ったら、この新機体でトラウマを植え付けてやるからな)

アークスは、目を輝かせる息子を見て、大きな手でその頭を撫でた。

「どんどん大きくなるんだぞ、リアン。お前は強い男になる」

「えぇ。貴方は私達の希望なんだから。……愛しているわ、リアン」

マーサが優しくキスをする。

リアンは、二人の温かさを噛み締めた。

転生前、孤独に料理と向き合っていた自分に、神様ルチアナがくれた最高の贈り物。

「だぁ!(ありがとうよ、父ちゃん、母ちゃん!)」

リアンは満面の笑みで応えた。

その様子を、静かに見守っていたオニヒメが、恭しくナイフを手に取った。

「ふふ、素敵な誕生日ですね。さぁ、ケーキを切り分けましょうか。私の自信作ですよ」

「そうね。食べましょう」

「おお! 美味しそうだ!」

家族団欒の光景。

テーブルの隅では、役目を終えたわけではないが、少し出番が減りそうな胡桃割り人形『センチネル』が、静かにその幸せな光景を見つめているようだった。

1歳。

身体が動くようになる。

資金(ネット通販)がある。

技術マグナギアが手に入った。

準備は整った。

ここから、リアン・シンフォニアの――いや、元三つ星シェフ青田優也の、世界を巻き込む快進撃が始まるのだ。

甘いケーキの味と共に、リアンの野望は大きく膨らんでいく。

【第一章 0歳児の勇者 完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ