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EP 32

追放された姫君(トロイの木馬)

演習開始の鐘が、岩山エリアに鳴り響いた。

「よし、まずは拠点の設営だ。支給されたテントを張って……」

Aチームのモブ生徒たちが作業に取り掛かろうとした、その時だった。

「ふざけるなッ!!」

突如として、リアンの怒号が陣地に響き渡った。

ビクッと肩を震わせるモブ生徒たち。視線の先には、リアンがルナを冷たい目で見下ろしている姿があった。

「え、えっ……? リアン君?」

ルナが、戸惑ったように首を傾げる。

「お前みたいな『大食い』で『魔法をぶっ放すしか能がない』奴は、この隠密と知略が求められる陣取り合戦において、ただの足手まといだ! お前なんかに割く食料は一つもない!」

「そ、そんなぁ……」

「何の役にも立たないんだから、とっととあっちに行け! お前なんかクビだ!!」

リアンは、支給品の木箱に入っていた『白い布(包帯用の布)』をルナの顔面に投げつけた。

「う、うわあああああん!! リアン君のばかぁぁぁ!! ひどいよぉぉ!!」

ルナは大粒の涙をこぼし、白い布を握りしめて陣地から走り去ってしまった。

その悲痛な泣き声は、岩山に反響し、遠く離れた敵陣地にまで届くほどだった。

「……リ、リアン君。いくらなんでも女の子にあれは酷すぎるんじゃ……」

モブ生徒がドン引きしながら声をかける。

だが、リアンはルナが見えなくなった途端、怒りの表情から一転、ニヤァ……と邪悪極まりない笑顔を浮かべた。

「酷い? なぁに、あれでいいんだよ。……あいつには事前に『泣きながらクラウスの陣地に行けば、美味しいご飯が食べ放題だぞ』って仕込んであるからな」

「えっ」

「これで我が軍の最大の負債カロリーモンスターは消え去った。さぁ、優雅なキャンプの始まりだ」

リアンはホクホク顔でテントの設営に戻った。

モブ生徒たちは、この男を絶対に敵に回してはいけないと、本能で悟った。

一方、その頃。

岩山エリアの反対側、Bチームの陣地。

「皆、聞いてくれ! この演習は、いかに食料を持たせながら敵陣の隙を突くかが鍵となる。無駄食いは避け、規律ある行動を……」

総大将であるクラウスが、モブ生徒たちを集めて真面目に作戦会議を開いていた。

その横では、キャルルがすでに支給品の干し肉を齧りながら、「んー、硬い」と文句を言っている。

「うわあああああん……!!」

そこへ、白い布をヒラヒラと振り回しながら、一人の少女が泣きじゃくって走ってきた。

「む? 敵襲か!? ……いや、白旗? あれはルナ君ではないか!」

クラウスが慌てて駆け寄る。

「ルナ君、どうしたんだ! 敵軍の君がなぜここに……それに、その涙は!」

ルナはクラウスの胸に飛び込み、顔を埋めてしゃくり上げた。

「クラウスくぅぅん! リアン君が、リアン君がね……ルナのこと『役立たず』『大食い』って言って、追い出したのぉ!」

「……なんだと!?」

「食料の無駄だから、あっち行けって……! うぅ、ひっく……ルナ、もう帰る場所ないの……!」

(※ルナの内心:『よし! リアン君の言った通りに泣けた! これでご飯がもらえる!★』)

名演であった。

少し前に「泣きマネ」の練習をリアンと積んだ成果が、完璧に発揮されていた。

「……あの男、勝つためならチームメイトの、しかもレディに対してそこまで非道な真似を!」

クラウスの騎士道精神(義憤)が、一気に沸点に達した。

彼は拳を震わせ、ルナの肩を優しく抱いた。

「ひどい男だ! 勝利のために仲間を捨てるなど、騎士として、いや人間として許される行為ではない!」

「クラウス君……」

ルナが上目遣いでクラウスを見つめる。

「どうするんですか、クラウス様? 彼女は一応、敵チームですが……」

Bチームのモブ生徒が困惑気味に尋ねる。

「決まっているだろう!」

クラウスは立ち上がり、高らかに宣言した。

「傷つき、居場所を失った女子を放っておくことなどできない! 彼女は我が方で、『捕虜』という名目で保護する! 紳士として、丁重に扱うのだ!」

「わぁい! クラウス君、優しい! 大好き!★」

ルナが満面の笑みでクラウスに抱きつく。

「ははは、気にするなルナ君。僕の陣地にいる限り、君にひもじい思いなどさせないからね」

クラウスは爽やかに笑った。

彼は微塵も疑っていなかった。この可憐なエルフの少女が、リアンの放った「国を滅ぼすレベルの生物兵器」であるということに。

「お、ルナ。いらっしゃい。お肉食べる?」

キャルルが干し肉を差し出す。

「うん! 食べるー!★」

Bチームの陣地に、悪魔が降り立った。

それがどれほど絶望的な結果を招くか、クラウスたちが気づくのは、ほんの数時間後のことである。

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