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EP 31

新たなる試練と、最悪のくじ引き

『嘆きの森』でのサバイバル演習から数日後。

S組の生徒たちは、学園の敷地内にある広大な『第3演習場(通称:岩山エリア)』に集められていた。

ゴツゴツとした岩肌と、身を隠すのに丁度いい起伏に富んだ地形。かつて帝国の軍隊が模擬戦で使用していたという、本格的な軍事訓練施設だ。

「えー、お前ら。先週はよく頑張ったな」

教卓代わりの岩に腰掛けたボブ教師が、気だるげに鼻をほじりながら口を開いた。

「だが、個人の武力や知恵だけじゃ、戦場じゃ生き残れん。ってことで、今週のカリキュラムは『集団戦チームバトル』だ」

生徒たちの間に、ざわめきが広がる。

「ルールは簡単だ。クラスをAチームとBチームの二つに分ける。それぞれの陣地に『拠点ベース』を作り、そこに自軍の旗を立てろ」

「期間は今日から**『1週間』**。相手の陣地に攻め込み、敵の旗を先に奪ったチームの勝ちだ。……もちろん、全滅(戦闘不能)させても勝ちになる」

「おぉっ! 模擬戦か!」

クラウスが目を輝かせて拳を握りしめた。騎士志望の彼にとって、最も得意とする分野だ。

「ただし」

ボブの目が、スッと細められた。

特に、リアン、ルナ、キャルルの3人をねっとりと見据えながら、言葉を区切った。

「今回の演習で使えるのは、俺が支給する『木箱の中身(物資)』だけだ。武器も、テントも、食料もな」

「えっ?」

「現地調達は一切禁止だ。……森の演習で、お前らアブノーマル共は魔物を狩ってBBQ大会を始めやがったからな。今回は純粋な『兵站ロジスティクス』と『戦術』のテストだ。違反した奴は即退学にする」

ボブの言葉に、リアンは舌打ちをした。

(……チッ。魔物や動物を狩って食いつなぐサバイバル戦法を封じてきたか。嫌らしい教師だ)

「それじゃ、チーム分けのくじ引きだ。箱から玉を引けー」

生徒たちが列を作り、順番にくじを引いていく。

結果は、見事に真っ二つに分かれた。

【Aチーム】

リアン、ルナ、そしてランドルフの取り巻きだったモブ男子生徒たち(数名)。

【Bチーム】

クラウス、キャルル、そしてクラウスに憧れるモブ生徒たち(数名)。

「やったー! リアン君と同じチームだね!★」

ルナが満面の笑みでリアンに抱きついてくる。

「……あぁ、よろしく頼む」

リアンは適当に返事をしながら、Aチームに支給された『木箱』の蓋を開けた。

中に入っていたのは、チームカラーの『赤い旗』、テント用の布切れ、簡単な工具。

そして――『1週間分の食料』だった。

(……おいおい、マジかよ)

リアンの顔が、サァッと青ざめた。

木箱の底に入っていたのは、石のように硬い保存パン(乾パン)と、塩漬けの干し肉、そして少量の水が入った魔力水筒だけ。

「あの……リアン君。これだけですか?」

Aチームになったモブ生徒の一人が、絶望的な顔で木箱を覗き込む。

「……あぁ。大人の軍人が、ギリギリ餓死しない程度に計算された、完璧な『1週間の最低配給量』だ」

リアンは前世の知識と経験から、一瞬でカロリー計算を終えていた。

これを毎日少しずつ囓り、水で流し込んで胃を膨らませて、なんとか7日間を耐え凌ぐ。そういう訓練だ。

普通の人間なら、それでいい。

だが。

「わぁ~! クッキーとお肉だぁ!★ リアン君、ルナお腹すいた! これ全部食べていい!?★」

ルナが、目をキラキラさせながら木箱に手を伸ばしてきた。

「…………」

リアンは無言で、ルナの頭をガシッと掴んで引き離した。

(……終わった)

リアンは悟った。

こいつの胃袋は『ブラックホール』だ。

普通の人間なら7日持つ食料も、ルナ(とついでにBチームのキャルル)にかかれば、「1日(ヘタをすれば3時間)」で消滅する。

魔法の出力が常軌を逸している分、ルナの燃費の悪さも常軌を逸しているのだ。

彼女をこのまま陣地に置いておけば、間違いなく明日にはAチーム全員が「餓死」でリタイアする。

(ルール上、現地調達は禁止。つまり食料が増えることは絶対にない。……なら、どうする?)

リアンの脳髄が、フル回転で最適解を弾き出す。

食料が足りないなら、食い扶持を減らせばいい。

だが、ただ追放するだけでは、ルナが森で野垂れ死ぬか、ルール違反(狩り)を犯してチーム全体が失格になる。

(……待てよ?)

リアンの視線の先。

向かいの陣地では、クラウスが「みんなで協力して、素晴らしい陣地を築こう!」と爽やかにモブ生徒たちを鼓舞していた。

その背後で、キャルルがすでに干し肉を囓り始めていることにも気づかずに。

「……くくっ」

リアンの口角が、吊り上がった。

それは、彼が前世のビジネスで『競合他社に不良債権を押し付けた時』に見せた、最高に邪悪で、黒い笑みだった。

「……あ、あの、リアン君? なんでそんな怖い顔で笑ってるの……?」

モブ生徒が怯えて後ずさりする。

「なぁに。ちょっと『勝つための必勝法』を思いついただけだ」

リアンは、キョトンとしているルナの肩をポンと叩いた。

「ルナ。お前、もっと美味しいご飯……お腹いっぱい食べたくないか?」

「えっ!? 食べるー!!★」

「よし。じゃあ今から、俺に『酷いこと』を言われて、泣きながらクラウスの陣地に逃げ込め。……あいつなら絶対に、お前を優しく保護して、美味しいご飯を食べさせてくれる」

リアンの瞳の奥に、冷酷な軍師の光が宿る。

これより始まるのは、剣と魔法の戦いではない。

『盤上の支配者リアン』による、最悪の兵糧攻め(トロイの木馬)作戦の開幕だった。

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