EP 25
紅蓮の矢と最強の連携
「『月影流・顎砕き』!!」
キャルルの小さな体から放たれる、規格外の闘気。
彼女はオーガの懐に潜り込むと、特注ブーツに紫電を纏わせたまま、強烈な膝蹴りをオーガの下顎に叩き込んだ。
メキョォォォォンッ!!
骨が砕ける、いや、爆発するような音が森に響いた。
身長4メートルの巨体を持つオーガの顔面が、物理法則を無視して真上へと跳ね上がる。
「ガ、アァァァッ……!?」
オーガの口内に溜まっていた『火炎弾』の魔力は、顎を砕かれた衝撃で行き場を失い、自らの喉の奥で暴発した。
口から黒煙を吐き出し、白目を剥く森の王者。
ルナの『世界樹の荊棘』による拘束がなければ、そのまま後方へ吹き飛んでいただろう。
「ふぅん……硬いね。でも、これで動けないでしょ?」
キャルルは空中でクルリと一回転し、ふわりと着地した。
彼女の蹴りは、オーガの脳を大きく揺らし、完全に意識を刈り取っていた。
「わぁい! キャルルちゃんすごーい!★」
ルナが無邪気に拍手をする。
「……お前ら、本当に加減ってもんを知らねぇな」
リアンは呆れ半分、感心半分でため息をついた。
Aランクの魔物相手に、たったの2手。
魔法による完全拘束と、物理的な脳震盪。
これほど理不尽で、かつ完璧な連携があるだろうか。
「さて、と。……最後は俺の仕事か」
リアンは、背負っていた弓を構えた。
それはただの木弓ではない。彼が前世の知識と『マグナギア』の魔力回路を応用して自作した、特注のコンパウンドボウだ。
「素材を傷つけずに、一撃で仕留める。……これが一番の『効率』だ」
リアンは弦を引き絞った。
矢をつがえ、その切っ先に意識を集中させる。
(……魔力圧縮。炎属性付与。そして、闘気のコーティング)
彼の右手に、赤い光が灯る。
それは周囲の空気を歪ませるほどの熱量を持っていたが、炎が外に漏れることはない。すべてのエネルギーが、一本の矢の先端に凝縮されていく。
「……いくぞ」
リアンは静かに呟いた。
狙うは、オーガの眉間――脳髄と魔石が位置する急所、一点のみ。
「『紅蓮の矢』」
ヒュンッ!!
弦が弾かれる甲高い音と共に、矢が放たれた。
それは矢というより、一条の赤いレーザーだった。
空気を切り裂き、赤い軌跡を残しながら、オーガの眉間へと吸い込まれる。
ドスッ。
派手な爆発音はなかった。
ただ、硬い赤い皮膚と分厚い頭蓋骨を、熱で溶かしながら貫通する、鈍い音だけが響いた。
「…………」
オーガの巨体が、ビクリと痙攣した。
そして、ルナの拘束が解かれると同時に、糸の切れた操り人形のように、ズシンと大地に崩れ落ちた。
「おっけー。綺麗に入ったな」
リアンは弓を下ろし、満足げに頷いた。
オーガの眉間には、焦げた小さな穴が開いているだけ。毛皮や肉、そして体内の魔石は、まったく傷ついていない。
最高の状態で仕留められた証拠だ。
「やったー! お肉だお肉だー!★」
ルナがオーガの死体に飛び乗ってバンザイをする。
「……リアン、早く焼いて。キャルル、もう限界」
キャルルは自前のナイフとフォーク(どこから出したのか)を両手に持ち、カチャカチャと鳴らしていた。
「わかってるよ。だが、まずは『血抜き』だ。これを怠ると肉が臭くなるからな」
リアンは慣れた手つきで解体用ナイフを取り出し、オーガの首元に手を入れた。
「……よし、血が抜けるまで少し時間がかかる。その間に、近くの沢で水浴びでもしてこい。お前ら、少し土で汚れてるぞ」
「はーい! 水遊びだー!★」
「ん。キャルル、洗ってくる」
二人の少女はキャッキャと笑いながら、近くの水場へと駆けていった。
「……はぁ。本当に世話が焼ける」
リアンは一人残され、オーガの巨体を見上げた。
50ポイントの超大物。
これだけの成果があれば、ボブも文句は言わないだろう。
「さて、のんびり待つとするか」
リアンは木陰に座り込み、水筒の水を飲んだ。
彼らは気づいていなかった。
この圧倒的な勝利の余韻が、卑劣な『横取り』の標的になることを。
そして、森の別の場所で、彼らのライバルが孤独な死闘を繰り広げていることを。




