EP 24
森の王者、オーガ出現
「グオオオオオオオオオオッ!!!」
大気を震わせるレッド・オーガの咆哮が、嘆きの森の深部に響き渡った。
身長4メートル。丸太のような太い腕には、大木をそのまま削り出したような巨大な棍棒が握られている。
その真っ赤な皮膚は、下級の剣や魔法など容易く弾き返すほどの硬度を誇る。
まさに、森の王者。
遭遇すれば、ベテランの冒険者でさえ「全滅」の二文字が脳裏をよぎる絶望の象徴だ。
だが、オーガの目の前に立つ3人の小さな子供たちは、微塵も恐怖を感じていなかった。
「……あれ、絶対美味しいよ。赤身がギッシリ詰まってるお肉の匂いがする」
キャルルは兎耳をピンと立て、口元からタラリと涎を垂らした。
その瞳は完全に、ショーケースに並んだ高級和牛を見る主婦のそれである。
「ほんとだー! 的が大きいから、ルナの魔法も当てやすそう!★」
ルナはキャッキャと笑いながら、世界樹の杖を構えた。
遊園地のアトラクション感覚だ。
「……お前らなぁ」
リアンは呆れながらも、冷静に『獲物』を値踏みしていた。
(ポイント換算50点。……これを狩れば、残りの時間は木陰で昼寝していてもノルマ達成だな。悪くない)
リアンにとって、目の前の怪物は「恐怖の対象」ではなく、「効率的なスコア源」に変換されていた。
一方のオーガは、困惑していた。
いつもなら、自分の姿を見ただけで人間たちは悲鳴を上げて逃げ惑うか、腰を抜かして震え上がるはずだ。
なのに、目の前の小せぇ餌どもは、逃げるどころか自分を品定めしている。
しかも、一番小さいウサギに至っては、涎を垂らしているではないか。
「……グ、ガァァァッ!!」
舐められている。
森の王者としてのプライドが傷つけられたオーガは、激怒した。
その巨大な棍棒を振りかぶり、3人をまとめて挽肉にすべく、大地を踏み砕いて突進してきた。
ズドォォォォンッ!!
「おっと」
リアンは冷静に一歩下がり、指示を飛ばした。
「ルナ! まずは足止めだ! 丸焦げにすると素材(肉)の価値が下がるから、火力は抑えろよ!」
「はぁーい! お任せあれっ!★」
ルナは杖を大地に突き立てた。
「それじゃあ、いっくよー! 『世界樹の荊棘』!!」
彼女が朗らかな声を上げた瞬間、オーガの足元の地面が爆発したように盛り上がった。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
「グガッ!?」
土を突き破り出現したのは、ただの植物ではない。
翠緑の魔力光を帯びた、大蛇のように太い『世界樹のツル』だった。
表面には鋭い無数の棘が生え揃っている。
「ギャァァァッ!!」
ツルは意思を持っているかのようにオーガの巨体に巻き付き、その太い両足、胴体、そして棍棒を握る腕を瞬く間に拘束した。
オーガが自慢の怪力で引きちぎろうと藻掻くが、ルナの魔力が込められた世界樹のツルは、鋼鉄のワイヤーよりも強靭だった。
動けば動くほど、棘が赤い皮膚に食い込み、オーガは苦悶の声を上げる。
「えへへ、捕まえたぁ!★」
ルナが無邪気にピースサインを作る。
「……相変わらず、出鱈目な魔法だな」
リアンは感心しながら弓を構えた。
Aランクの魔物を、たった一工程で無力化する制圧力。これがエルフの姫君の真の力だ。
「グ……ガガガッ……!!」
完全に身動きを封じられたオーガは、血走った目でルナを睨みつけながら、口を大きく開けた。
その喉の奥から、高熱の赤い光が漏れ出し始める。
オーガの固有魔法『火炎弾』だ。拘束された状態からでも放てる、決死の反撃。
「あ、口から火を吹く気だね!」
ルナが呑気に実況する。
「させないよぉ!」
その時、紫電を纏った小さな影が、オーガの死角――真下から飛び出した。
「お肉を焦がしたら、許さないんだから!」
キャルルだ。
彼女はすでに、特注ブーツの魔石をフル稼働させていた。
クラウチングスタートの姿勢から、超加速の踏み込み。
バヂヂヂヂッ!!
キャルルの足元で小さなクレーターができ、彼女の体は砲弾となってオーガの顎の下へと潜り込んだ。
「『月影流・顎砕き』!!」
獲物の仕上げ(調理)の時間が、やってきた。




