EP 20
問題児クラスの結成
放課後。
茜色に染まり始めた空の下、校舎の裏手にある古びた倉庫の前に、4人の生徒が立たされていた。
「……はぁ。なんで俺が」
リアンは深いため息をついた。
隣には、真剣な顔で腕を組むクラウス。
その隣には、楽しそうに杖をブンブン振るルナ。
そして、足元でダンゴムシを突っついているキャルル。
S組の「四天王」ならぬ「四馬鹿」が、ここに集結していた。
「よし、全員揃ったな」
ボブ教師が、木箱に腰掛けながら言った。
「お前ら4人は、今日の実技テストで……ちと暴れすぎた。校舎の壁を壊し、リングを更地にし、神聖な試合を喧嘩に変えた罪は重い」
「異議あり! 僕は正々堂々と……」
クラウスが手を挙げるが、ボブは無視した。
「よって、罰としてこの『旧・資材倉庫』の大掃除を命じる。……日没までにピカピカにしろ。終わるまで帰さんぞ」
ボブは鍵を投げ渡し、あくびをしながら去ろうとした。
「あ、言い忘れてたが……魔法の使用は許可する。ただし、これ以上壊したら『退学』だからな」
「退学!?」
リアンが叫ぶ。
「頑張れよ~、未来の英雄たち」
ボブは手をヒラヒラさせて消えていった。
残された4人。
目の前には、埃とガラクタにまみれた、巨大な廃倉庫。
「……やるしかないか」
リアンは諦めて袖を捲り上げた。
早く終わらせて、ふかふかのベッドで寝たい。
「ふむ。掃除か……。貴族たるもの、奉仕活動もまた義務。完璧にこなしてみせよう!」
クラウスがやる気満々で箒を構えた。
「掃除なら任せて! ルナ、お掃除魔法とくいなの!★」
ルナが杖を構える。
「キャルルもやるー。マッハで拭くー」
キャルルが雑巾を手に、クラウチングスタートの姿勢をとる。
「……待て」
嫌な予感がしたリアンが止める間もなく、災害は起きた。
「行っくよ~! 『清浄なる大嵐』!!」
ゴオオオオオッ!!
ルナが放ったのは、掃除魔法という名の竜巻だった。
倉庫内の埃が一瞬で舞い上がり、視界がゼロになる。
「ゲホッ、ゴホッ!? ルナ、埃が舞うだけだ! やめろ!」
「あれぇ? おっかしいなぁ?」
「次はキャルル! 『音速拭き掃除』!!」
バヂヂヂヂッ!! ドギュウウン!!
キャルルが床を雑巾がけした瞬間、摩擦熱で床板が発火した。
「熱っ!? 床が燃えてる! キャルル、速すぎる!」
「えへへ、ピカピカになった?」
「焦げ焦げだよ!」
さらに、クラウスが「くっ、埃に視界を奪われるとは不覚! 『王宮流・燕返し』!」と、舞い散るゴミを剣で切り刻み始めた。
「お前は何と戦ってるんだ! ゴミが増えるだけだろ!」
カオス。
そこは掃除の現場ではなく、新たな破壊の現場だった。
「…………」
リアンの中で、何かが切れた。
スローライフへの渇望と、効率厨としての魂が、彼を修羅に変えた。
「……お前ら、いい加減にしろッ!!」
リアンの怒号が倉庫に響き渡った。
ピタリ、と3人の動きが止まる。
「えっ、リアン……?」
「今から俺が指揮を執る! 文句がある奴は置いていくぞ!」
リアンは仁王立ちになり、指図を始めた。
「ルナ! お前は風魔法で『換気』だけしろ! 竜巻禁止! そよ風で埃を外に出すんだ!」
「は、はーい……」
「キャルル! お前は『重い荷物』を運べ! スピードはいらない、パワーだけ使え! 壊したらおやつの人参抜きだ!」
「あうっ……わかったぁ」
「クラウス! お前は剣をしまえ! その無駄に良い体幹を使って、高いところの拭き掃除だ! 貴族なら天井の隅まで優雅に拭いてみせろ!」
「……む、なるほど。天井の汚れを見逃さないことこそ、真の貴族か。任せろ!」
「よし、動け!」
リアンの的確(かつ恫喝に近い)な指示により、現場の空気は一変した。
ルナが器用に風を操り埃を出し、キャルルが巨大な棚を軽々と移動させ、クラウスが高い場所をピカピカにする。
そしてリアン自身は、全体を見渡しながら効率的な動線を確保し、ゴミの分別を行う。
「……完璧だ」
数時間後。
廃倉庫は、新築のように生まれ変わっていた。
「終わった……」
4人は床にへたり込んだ。
疲労困憊。だが、不思議な達成感があった。
「ふぅ……。君の采配、見事だったよリアン」
クラウスが汗を拭いながら、爽やかな笑顔を向けた。
「君がいなければ、僕たちは倉庫を破壊して退学になっていただろう。……やはり君は、上に立つべき人間だ」
「買い被りだ。俺はただ、早く帰りたかっただけだ」
リアンはジュースを飲みながらそっけなく答えた。
「ねぇねぇ! ルナたち、なんかチームみたいじゃない?★」
ルナがリアンの肩に寄りかかる。
「チーム? お芋もらえる?」
キャルルが反対側から覗き込む。
「……勘弁してくれ。俺はソロ活動希望だ」
リアンは嫌そうな顔をしたが、まんざらでもなかった。
少なくとも、この規格外の3人を制御できるのは、自分しかいないという自覚が芽生え始めていたからだ。
ガララッ。
扉が開き、ボブが戻ってきた。
「おっ、終わったか……って、すげぇなオイ」
ボブはピカピカになった倉庫を見て、目を丸くした。
そして、床に座り込む4人を見て、ニヤリと笑った。
「喧嘩っ早い貴族、魔法ぶっ放すエルフ、暴走するウサギ……それを纏める性根の腐った男爵か」
「先生、最後の一言は余計です」
リアンが抗議する。
「クククッ……いいチームだ。合格だよ」
ボブは4人の前に立ち、宣言した。
「お前ら4人は、今日からS組の中の特別班……通称『第零班』だ」
「ゼロハン?」
「あぁ。他の生徒とは別枠で、俺が直接鍛えてやる。……学園の枠に収まりきらない『問題児』どもの受け皿だ」
ボブの目が怪しく光った。
「喜べ。来週からさっそく『課外授業』だ。……場所は、魔物の巣窟『嘆きの森』。そこでキャンプだ」
「「「えっ!?」」」
「拒否権はねぇ。死なないように準備しとけよ?」
ボブは高笑いを残して去って行った。
「……嘆きの森って、Aランク指定の危険地帯だぞ!?」
リアンが叫ぶ。
「フハハ! 望むところだ! 修業だな!」
クラウスは燃えている。
「キャンプー! お肉焼くー!★」
「人参も焼くー」
女子たちは遠足気分だ。
「……はぁ」
リアンは深く、深く溜息をついた。
平凡な学園生活? スローライフ?
そんなものは、さっきの掃除で埃と一緒に掃き出してしまったようだ。
夕日に照らされた4人の影。
それは、やがて帝国を、いや世界を揺るがすことになる最強のパーティ『第零班』の、伝説の始まりだった。




