表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/124

EP 16

嵐と雷(ルナ対キャルル)後編

「行くよ〜! 地獄龍ヘル・ドラゴンちゃん、やっちゃえ〜!★」

ルナが高らかに杖を掲げた瞬間、学園の空が暗転した。

リングの中央に、禍々しい漆黒の魔法陣が展開される。

ズゴゴゴゴゴ……ッ!!

地面から這い出てきたのは、全身が黒い炎で構成された巨大な竜――『地獄龍』だった。

それは本来、宮廷魔導師クラスが数人がかりで儀式を行って召喚するような、戦略級の破壊兵器だ。

「……は?」

ボブ教師が初めて目を見開いた。

「ちょ、おい! 待て! それは授業の範囲を超えてるぞ!?」

だが、ルナには聞こえていない。

彼女は無邪気に笑いながら、目の前の獲物を指差した。

「全部、食べちゃって!★」

グオオオオオオオッ!!

地獄龍が咆哮し、その巨大なあぎとを開いた。

全てを飲み込み、消滅させる虚無の炎が、キャルルへと殺到する。

観客席の生徒たちは、腰を抜かして悲鳴を上げることすら忘れていた。

対するキャルルは、迫り来る絶望を前にして――ふふっと笑った。

「危ないなぁ……。そんな悪い子は……」

彼女は腰を低く落とし、地面に両手をついた。

クラウチングスタートの姿勢。

特注ブーツ『雷兎ライト』が、過剰な魔力充填によって紫色のスパークを散らし始める。

「お・し・お・き♡」

バヂヂヂヂッ!!

キャルルの全身から、黄金の『闘気』が噴出した。

それは雷光と混じり合い、彼女の姿を光の弾丸へと変える。

「いっけぇぇぇーー!!」

ドォォォォォォンッ!!

爆音。

いや、それは音が置き去りにされた証拠だった。

キャルルがダッシュした瞬間、地面がクレーターのように陥没し、衝撃波が周囲の結界を内側から歪ませた。

その速度――マッハ1(音速)突破。

「なっ!?」

ルナが反応する暇もなかった。

地獄龍は主の危機を察知し、即座にその巨体でルナを庇うように立ち塞がった。黒い炎の壁が、絶対防御の盾となる。

「無駄だよぉ!」

キャルルは止まらない。

彼女はトップスピードのままジャンプすると、空中の見えない足場(衝撃波の壁)を蹴った。

ガギィィィン!!

空中で軌道を変える『三角蹴り』。

雷を纏ったその蹴りは、地獄龍の防御ごと空間を貫いた。

「えっ……?」

地獄龍の腹を突き破り、黒い炎を霧散させながら、キャルルの足がルナの懐へと吸い込まれる。

「『月影流・鐘打ち』!!」

ズドォォン!!

「がはっ……!?」

キャルルの膝が、ルナの腹部に深々と突き刺さった。

もちろん、刃物のような殺傷力はない打撃だ。だが、その衝撃は鐘を突くように内臓を揺さぶる。

ルナの体は「く」の字に折れ曲がり、砲弾のように吹き飛んだ。

魔法障壁に背中から激突し、ズズズ……と滑り落ちる。

地獄龍は主の意識が飛んだことで、霧のように消滅した。

静寂。

圧倒的な静寂が、訓練場を支配した。

「……あ」

キャルルは着地し、ピョコピョコと耳を動かした。

そして、白目を剥いて倒れているルナを見て、慌てて口元を押さえた。

「ごめ〜ん! やりすぎちゃった! 人参パワーが出過ぎちゃって……」

テヘペロ、と舌を出すキャルル。

その足元のアスファルトは、摩擦熱でドロドロに溶けていた。

「しょ、勝者! キャルル!」

ボブが震える声でコールする。

医療班が駆け寄ろうとした、その時。

「……んぅ……」

瓦礫の山から、ルナがむくりと起き上がった。

腹を押さえながらも、その顔には苦痛ではなく、満面の笑みが浮かんでいた。

「す、凄ぉ〜い……! ルナの地獄龍ちゃんを破っちゃった……!」

ルナはヨロヨロと立ち上がり、キャルルに抱きついた。

「キャルルちゃん! 強いね! かっこいいね!★」

「え? 怒ってないの?」

「ううん! ルナ、強い子大好き! 今日から親友マブダチね! お友達になろ!★」

「わぁい! なろなろー!」

二人の少女は、廃墟と化したリングの上でキャッキャと手を取り合った。

その光景は微笑ましいが、背景の被害総額を考えると誰も笑えなかった。

「……怪物だ」

「あいつらと同じクラスとか、死ぬぞ……」

生徒たちが戦慄する中、リアンだけが深く溜息をついていた。

(……これで女子のトップが決まった。次は……俺か)

「続いて、男子決勝! リアン・シンフォニア 対 クラウス・アルヴィン!」

ボブの声が響く。

リアンは立ち上がった。

横には、すでに剣を抜き、青い炎のような闘志を燃やすクラウスがいた。

「行くぞ、リアン。……あの化け物たちを見た後だ。我々も、相応の『死闘』を見せねばなるまい」

「……いや、俺は普通に終わりたいんだけど」

リアンの願いも虚しく、運命のライバル対決――泥沼の決勝戦が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ