EP 15
嵐と雷(ルナ対キャルル)前編
「それでは、第3試合! 女子部門の注目カードだ」
ボブの気だるげなコールと共に、二人の少女がリングへと上がった。
一人は、銀色の髪をなびかせるエルフの姫君、ルナ。
手には、世界樹の枝から削り出されたという国宝級の杖『シルフィード・ロッド』を握りしめている。
もう一人は、長い兎耳をピョコピョコと動かすガルーダからの留学生、キャルル。
両手には鋼鉄の輝きを放つ『ダブルトンファー』、足元には魔導回路が刻まれた無骨な『特注ブーツ』を装備している。
「キャルルちゃん! 手加減なしでいくからねっ!★」
ルナは満面の笑みで、アイドルがファンに手を振るように杖を掲げた。
その背後には、すでに緑色の風の精霊たちが渦を巻き始めている。
「んぐ……(人参を飲み込む音)。うん、いいよぉ。キャルルも、食後の運動したかったの」
キャルルは口元の食べカスを拭い、ニッコリと微笑んだ。
その笑顔は愛らしいが、瞳の奥には肉食獣のような鋭い光が宿っている。
「……おい、ボブ先生。これ、結界の強度大丈夫ですか?」
リングサイドで見守るリアンが、ボブに小声で尋ねた。
「あー……たぶん平気だろ。壊れたら修繕費はあいつらの実家に請求するから」
ボブは鼻をほじりながら答えた。
(……嫌な予感しかしない)
リアンは一歩下がって、防御姿勢(マグナギアのシールド展開準備)をとった。
「始めッ!!」
開始のゴングが鳴った、その刹那。
ドォォォォンッ!!
ルナがいきなり「最大火力」をぶっ放した。
「いっくよー! 『嵐のワルツ(ストーム・ワルツ)』!!」
ルナが杖を一振りすると、リング内に巨大な竜巻が発生した。
鎌鼬のような風の刃が、無数にキャルルへと襲いかかる。
「ひぃぃっ!? これが学生の魔法か!?」
「レベルが違いすぎるぞ!」
観客の貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
初手から広範囲殲滅魔法。回避不可能な風の檻が、キャルルを飲み込んだ――かに見えた。
パァンッ!!
乾いた破裂音が響いた。
次の瞬間、竜巻の一部が「物理的に」弾け飛んだ。
「……え?」
ルナが目を丸くする。
風の刃を突き破って現れたのは、紫電を纏った小さな影だった。
「遅いよぉ」
キャルルの声が、ルナの耳元ではなく――背後から聞こえた。
「なっ!?」
ルナが振り返るよりも早く、キャルルは特注ブーツで地面を蹴り、真横の壁(結界)を三角飛びの要領で蹴って加速していた。
ガギンッ!
キャルルのトンファーが、ルナの展開した風の障壁と激突する。
火花が散る。
「うわぁっ! 速いっ!」
ルナは慌てて距離を取ろうと、風魔法で空中に浮遊した。
遠距離からの爆撃に切り替える作戦だ。
「逃がさないもん!」
キャルルはニヤリと笑うと、腰を低く落とした。
クラウチングスタートの構え。
ブーツの魔石が、キュイイイ……と甲高い音を立てて充填を開始する。
「『人参ロケット(キャロット・ダッシュ)』!!」
ズドンッ!!
爆発的な加速。
キャルルは地面を陥没させながら、垂直に跳躍した。
その速度は、風に乗って逃げるエルフの機動力を遥かに凌駕していた。
「嘘っ!? 空中戦!?」
空中にいるルナの目の前に、キャルルが一瞬で到達する。
「捕まえたぁ!」
「きゃあああ! 『エア・ハンマー』!!」
ルナは咄嗟に圧縮した空気の塊を至近距離で放つ。
直撃すれば岩をも砕く一撃。
だが、キャルルは空中で体を捻り、トンファーを交差させてそれを受け止めた。
ドゴォォォン!!
衝撃で二人は弾き飛ばされ、それぞれリングの両端に着地した。
「……っく!」
「……ふふっ、やるねぇ」
土煙が晴れると、無傷のルナと、若干制服が焦げたキャルルが対峙していた。
会場は静まり返っていた。
誰も言葉が出ない。
魔法の天才と、体術の怪物。
これはもはや「実技テスト」ではない。
怪獣大決戦だ。
「す、すごい……! あんな動き、人間の技じゃない!」
クラウスが興奮して身を乗り出している。
「……だから言っただろう。あいつらは規格外だって」
リアンは頭を抱えた。
「次で決めるよ、ルナちゃん」
キャルルがトンファーを構え直す。その瞳が、満月のように妖しく輝き始めた。
「うん! ルナも本気出す!★」
ルナの杖に、膨大な魔力が収束していく。
嵐と雷。
乙女たちの戦いは、校舎の耐久限界を試すようなクライマックスへと突入しようとしていた。




