EP 13
開幕、クラウスの華麗なる剣技
「それでは、第1回・S組最強決定戦……第1試合を始める」
ボブ教師の気だるげな声が、訓練場に響き渡った。
魔法障壁で囲まれたリングの中央。
そこに対峙するのは、侯爵家の嫡男クラウス・アルヴィンと、巨漢の男子生徒だった。
「行くぞ、クラウス! 俺の『岩砕流』の威力、その綺麗な顔面に叩き込んでやる!」
対戦相手が吼える。
彼は身長180センチを超える大柄な体格で、手には丸太のような太い木剣を握りしめている。
対するクラウスは、標準的な片手剣(練習用の刃引き鉄剣)を構え、涼しい顔で立っていた。
「……野蛮だな。剣とは『力』ではない。『理』だ」
クラウスが静かに呟く。
その構えには一分の隙もない。
背筋はピンと伸び、剣先は相手の喉元を正確に捉えている。
教科書通りの、しかし極限まで洗練された「王宮流剣術」の基本姿勢だ。
「うるせぇ! 押し潰してやる!!」
巨漢生徒が突進した。
ドスドスと地面を揺らし、大上段から木剣を振り下ろす。
単純だが、体重の乗った重い一撃だ。直撃すれば骨折は免れない。
「きゃああっ!?」
女子生徒たちが悲鳴を上げる。
だが。
「……遅い」
クラウスは、表情一つ変えずに半歩だけ左へ踏み出した。
ヒュンッ!!
豪快な風切り音と共に、木剣がクラウスの真横を素通りする。
紙一重の見切り。
巨漢生徒が体勢を崩した、その瞬間――。
「『白鳥の舞』」
クラウスの手首がしなやかに返った。
彼の剣が、まるで生き物のように相手の懐へと滑り込む。
パンッ!
「ぐあっ!?」
乾いた音が響く。
クラウスの剣の腹が、巨漢生徒の手首を正確に打ち据えたのだ。
痺れによって木剣が手から滑り落ちる。
「な、なんだと!?」
「勝負ありだ」
巨漢生徒が驚愕に目を見開いた時には、すでにクラウスの剣先が、彼の喉元に突きつけられていた。
「……まいった」
「勝者、クラウス・アルヴィン」
ボブが淡々と告げる。
一瞬の静寂の後、ワッと歓声が沸き起こった。
「す、すげぇ……! 一歩も動かずに勝ったぞ!」
「美しい……これぞ貴族の剣だわ!」
「キャーッ! クラウス様ー! こっち向いてー!」
黄色い声援を浴びながら、クラウスは剣を鞘に納め、優雅に一礼した。
汗ひとつかいていない。
完璧な勝利。これぞ「貴族の模範」といえる立ち振る舞いだった。
「ふん。当然の結果だな」
観客席で見ていたランドルフ(リアンに因縁をつけた男)が、得意げに鼻を鳴らした。
「見たか、あの剣技を? あれこそが『王宮流』。正統なる貴族の嗜みだ。……どこぞの田舎剣術とは品格が違う」
ランドルフはチラリとリアンの方を見て、嘲笑うように言った。
「力任せに振り回すだけの平民剣術など、クラウス様の前では赤子同然。……おい、シンフォニア。今ならまだ間に合うぞ? 土下座して棄権すれば、恥をかかずに済むかもしれん」
取り巻きたちが「ギャハハ!」と笑う。
「…………」
リアンは、ランドルフの言葉を無視していた。
彼の視線は、リングから降りてくるクラウスに向けられていた。
(……上手いな)
リアンは心の中で冷静に分析した。
(無駄な動きが一切ない。相手の重心移動を見て、最適な回避と反撃を選択している。……『綺麗』すぎるきらいはあるが、あれがこの世界の『正解』なんだろうな)
クラウスの剣は、ルールのある試合においては無敵に近い。
誰もが憧れ、目指すべき頂点。
だが、リアンが父アークスから――そして前世の記憶とマグナギアの操作経験から学んだ「戦い方」は、それとは対極にあるものだった。
「……次、リアン・シンフォニア対ランドルフ・バースト」
ボブの声が、次の試合を告げる。
「へへっ、ようやく俺の出番か」
ランドルフが立ち上がり、首をコキコキと鳴らした。
彼は豪奢な装飾が施された剣を抜き放ち、リアンを見下ろした。
「さぁ来いよ、偽物の英雄の息子。……貴族の『格』の違いを、その身に刻んでやる」
「……あぁ」
リアンはゆっくりと立ち上がった。
手には、何の変哲もない、ただの量産品の剣。
構えも、やる気なさそうに脱力している。
「教えてやるよ」
リアンはリングへと歩き出した。
その背中からは、先ほどのクラウスのような「華」は一切感じられない。
あるのは、底知れない不気味な静けさだけ。
(父さんの剣がゴミだって? ……なら、そのゴミに負けたお前は何だ?)
「始め!」
ボブの合図と共に、波乱の第2試合が幕を開けた。
第14話へ続く




