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第8話 初めての仕事(挿絵あり)

※本作に登場する挿絵は、AI画像生成モデル(Animagine XL V3.1)を用いて著者自身が生成したものです。

※書籍化できた際には現在の挿絵は全て差し替える予定です。

※2025年7月7日に差し替えました。過去絵はみてみんで見られます。

今日は下水道掘削の仕事の初日だ。

仕事の集合場所に行くと、体格の良い中年の男性と若い女性がいた。


「兄ちゃんもギルドから派遣されてきた掘削員か?」


男性が話しかけてきた。

掘削員っていうのは、掘削をする人って意味かな?


「はい、今日が初日です。マサキと言います。よろしくお願いします!」

「おう。俺がこの仕事の責任者のブルクだ。それでこっちが......」

「シノ」


挿絵(By みてみん)


ブルクさんとシノさんか。

ブルクさんは気さくで話しやすそうな人で、見た目は職人って感じだ。

シノさんは口数が少なめな人なのかな。

この世界で初めて見る綺麗で長い黒髪だ。

傍から見ると親子のようにも見える。

遠くからボーンという鐘の音が9回聞こえた。


「よし、じゃあ今日は二人だけだな。地下に潜るぞ」

「はい!」


到着したのは結構ギリギリだったらしい。

明日からはもっと余裕を持って到着するようにしよう。

ブルクさんに続いて地下に入ると、人がギリギリ立って入れるくらいの穴が一つと崩落防止用の木製の柱やこれから穴が広がったときに柱として使うであろう地面に寝かせてある角材がいくつもある。

地下は暗く、ブルクさんが持っているランタンが唯一の明かりだ。


「今はこの穴を川まで繋げてここに水を引き込もうとしているところだ。

下水道が完成する頃には、ここから色んな方向に穴が伸びて、地下に全体に広がっている予定だ。

まあ今では考えられんがな」


ブルクさんがガハハと笑いながら説明してくれた。

今いる街はかなり広い。

その街の地下の全体に広がるってことはかなりの労力を使うはずだ。

しばらく職に困ることは無さそう。


「じゃあ俺はここにいるから、そこにあるランタンと桶を持って二人で穴の続きを掘ってきてくれ。

シノはずっとこの仕事をしているから何か分からないことがあったらシノに聞いてくれ」

「はい、行ってきます!シノさん、よろしくお願いします」

「行くよ」


シノさんはブルクさんが持っていたランタンから他のランタンに火を移して、そそくさと桶を持って穴の先へ行ってしまった。

置いて行かれないように、俺もランタンと桶を持ってついていかないと。


---


ブルクさんがいる地点から少し歩いた地点で行き止まりになっていた。


「まずは掘ってみせて」

「はい!」


通路が狭いからシノさんとすれ違うのにも苦労する。

......シノさんって身長が低めなんだな。

昨日リリアと一生懸命練習して固い地面でも掘れるようになったんだ。

凄いと思わせてやる。

体内で魔素を圧縮し、それをシャベルの形に変形させて目の前の壁に突き刺し掘り起こすと、その場所が崩れた。


「及第点ね。どいて」


及第点だったんだ......。

せっかく沢山練習したのに。

またシノさんと苦労してすれ違うと、シノさんは手に持っていたランタンを近くの柱に掛け、両手を壁に向けた。

その刹那、ドドドドッと凄い音と砂煙を上げながら壁が崩れていった。

砂煙が収まり壁を見てみると先程俺が掘った大きさとはまるで違う大きさの穴が空いていた。


「こうやって穴を掘る。

掘った人はその場で休憩して、掘らなかった人がこの土を桶でブルクのところに運ぶ」


桶で運ぶって、どうやって桶に土を入れればいいんだろう。

......それも遷移魔法でやるのか!

よし、また魔素をシャベルの形にして、土を桶に入れよう。

さっきみたいに魔素を圧縮しなくていいからシャベルを大きくできるぞ。


「あなた......。まあ、いいわ」


シノさんが何か言いたげだけど、遷移魔法で運んじゃダメだったのかな?


---


土が入った桶を持ってブルクさんのところに行くと、椅子に座って休憩していたブルクさんがにこやかに迎えてくれた。


「来たか。どうだったシノは?あいつの魔法は凄いだろ」

「はい、すごかったです!魔法ってあんな風に使えるんですね!」

「ああ、あんな魔法はシノしか使えない。土を運ぶ人の話は聞いたか?」

「穴を掘らなかった人が運ぶんですよね?」

「そうだ。効率的に穴を掘れるのがシノしかいないから、他の人は土を運んでばっかりになるんだ。

そうするとせっかく練習した魔法が無駄になってな。

みんなすぐ来なくなっちまうんだ」


俺がやっていることと言えば土を運んでいるだけ。

これなら魔法の練習なんてしなくても良かったかもしれない。


「シノはああ見えて繊細でな。

人が来なくなるたびに落ち込んでるんだ。

お前さんは来なくならないでくれよ」


魔法を使って人の役に立つ仕事をしたかったのに、実際の仕事は魔法が要らない仕事だった。

そうなったら辞めたくなる気持ちも分かる気がする。


「土を運ぶだけの人を雇わないんですか?」

「そうしたいんだが、いつ天井が崩壊するか分からないからな。

お前さんらみたいに魔法で崩落を止めたり土に埋もれても逃げられる人じゃないと雇えないんだ」


そういえば昨日リリアと魔素の天井を作る練習や土をかき分ける練習もした。

あの練習はそういう意味があったのか。


「まっ、来なくならなければそれでいいさ」


そう言ってブルクさんは土の桶を持って地上に向かっていった。

給料が高いから今のところは辞める気無いけど、時間が経てば辞めたくなるのかな。


---


ブルクさんが戻ってきて、空になった桶を受け取ってからシノさんのところに行くと、壁に寄りかかって立っていた。


「じゃあ、もう一度掘るわ」

「待ってください!俺にもう一度掘らせてください!」


やり方は分かったんだ。

魔素のシャベルを両手から一本ずつ出して、それを突き刺すだけ。

何度も突き刺していれば壁は勝手に崩れる。

掘り返す必要無かったんだ。

魔素はまだ感じ取れないけど、壁を見ていればそのくらい分かる。


「でもあなた、さっき魔法を使ったばかりじゃない」

「はい。そうですけど......」

「魔素の吸収効率を上げたでしょう?それなら魔臓を休めないと」


魔素の吸収効率を上げると魔臓が疲れる。

だから魔臓を休ませなければいけない、その理屈は分かるけど。


「吸収効率は上げてません。

俺は他の人より素の状態での吸収効率が良いみたいなんです。

だから休憩しなくても大丈夫なんです!」

「そう......」

「心配していただきありがとうございます!優しいんですね」

「そういうのじゃないわ」


シノさんとすれ違い、壁の前に立って壁に向けて両手を伸ばす。


「壁に近いわ。

そんなに近いと砂埃を被るわよ」


シノさんに服を引かれ後ろに下がる。


「ここでいいわ。やってみて」

「はい!」


両手から高密度の魔素を出すためには、俺も魔素の吸収効率を上げなければいけない。

昨日一日で沢山練習したからな。

短時間でこれだけ上達できたのもリリアがつきっきりで教えてくれたおかげだ。

まさか本当に一日で全部使いこなせるようになるとは思いませんでした!とか言われたっけ。

リリアのことを思い出しながら吸収効率を上げ、魔素のシャベルを何度も壁に突き刺す。

壁は先程と同じようにドドドドッという音と砂埃を上げながら崩れていく。

魔臓には全然疲労が溜まらず、まだまだできそうだ。


「やりすぎ!今すぐ止めて!」


シノさんに服を引っ張られ、慌てて魔素の放出を止める。

横にある、木の柱がミシミシと音を立てた。


「崩れる!早く逃げるわよ!」


シノさんの後を走って追うと、すぐ後ろで天井が崩落していく。


「おーい!大丈夫かー?」


正面からブルクさんが走って来てくれた。


「シノが崩落させるなんて珍しいな」

「私じゃないわ。やったのはこっち」

「お前さんが......?」

「はい、すみませんでした」


失敗してしまった。

自分もできるんだって見せたくて張り切った結果がこれだ。

いきなり力は付かない。地道な練習でこそ本当の力は付くって学んでいたはずだ。


「へぇ......まあ、気にすんな!

シノだって最初は崩落させまくってたんだ。

そこらの天井を見てみろ」


ブルクさんがランタンで天井を照らした。

その天井を見ると明らかに崩落したと分かる跡が残っていた。


「だから気にすんな!

これから加減を覚えていけばいいさ!」

「うん、気にしなくて良い。よくあること」


慰めてくれているのかな。

そう思うとなんだか心が軽くなる。


「マサキ、だったか?これからもよろしくな!マサキ!」

「よろしく、マサキ」

「はい!頑張ります!」


二人から初めて名前を呼ばれた。

職場に来てもすぐいなくなってしまうから、受け入れないようにしていたのかな。

シノさんが傷つきやすいなら、そうした方がシノさんへの傷は少ないはずだ。

でもシノさんと同じくらい壁を掘ることができると分かったから、簡単に辞めないと信じてくれた。

二人の信頼に応えるためにも、これからも魔法を練習して壁を掘り進めよう。


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