第7話 初めてのデート(挿絵あり)
※本作に登場する挿絵は、AI画像生成モデル(Animagine XL V3.1)を用いて著者自身が生成したものです。
※書籍化できた際には現在の挿絵は全て差し替える予定です。
「ここが、ギルド直営の酒場です!お昼はランチを食べることができます」
リリアに連れてこられたのは、俺が昨日宿泊した宿だった。
「あら、坊やじゃない。いらっしゃい」
店の中に入るとちょうどマリアさんが料理を運んでいるところだった。
「マリアさん!昨日は大丈夫でしたか?」
「いつも通りよ。言ったじゃない、気にしないでいいって」
そう言うマリアさんの顔は優しい笑顔で、本当になんでもないことと思っているように感じた。
「マサキさんはお知り合いだったんですか?」
「はい、昨日ここでご飯を食べて宿泊したんです」
「そうだったんですね......」
リリアが少し落ち込んでいる。
もしかして俺が昨日マリアさんを指名したと思ってる?
「宿泊はしたけど、何もしないですぐに寝ましたよ!
マリアさんにはご飯を運んできてもらって少し話しただけです!」
「そうね、私が値引きするって言ったのに靡かなかったわ。
この坊やは信用していいと思うわよ」
「そうなんですね。すみません勘違いしてしまいました。」
格安にしてもらったとき指名しなかったことを後悔したことは心の中にしまっておこう。
「とりあえず座って。今日はスープと豚肉、あとはチキンがまだあったわね」
「ではチキンを2つ、あとパンもお願いします」
「分かったわ。少し待っていてね」
そう言ってマリアさんは店の奥に行ってしまった。
リリアが値段を聞かずに即答していたけど、大丈夫かな。
所持金少ないけどちゃんと払えるよね?
「ごめんなさい、勝手に決めちゃって。
チキンは苦手じゃないですよね?」
「はい、苦手ではないです......」
「ここは私が払いますので、心配しないでくださいね。
冒険者になれたことへのお祝いです」
お祝いは嬉しいけど、女の子に奢られるのはなあ......。
「せめて自分の分くらいは払います!」
「いえいえ、これは師匠から弟子へのお祝いなんですから」
師匠を出されると断りづらい。
でも奢られっぱなしは......。
「じゃあ今度!
初めてお仕事の報酬を貰えたときにご馳走させてください。
今までのお礼です!」
「分かりました。ではそのときにお願いしますね」
良かった。奢られっぱなしってことは無さそうだ。
次回しっかりお返ししよう。
......次回?
もしかしてもう一回デートできる?
「お待たせ、チキンとパンよ」
早っ!
ファストフードと同じくらいのスピードだ。
そして、マリアさんはやっぱり料理を持ってきたあと椅子に腰掛けた。
「それで、二人は恋人同士なの?」
「えっと......」
現状はまだ恋人じゃないんだけど、否定したくない。
リリアの方を見てみると、どう答えればいいのか迷っているようであたふたしている。
「その様子だとまだのようね。
じゃあ、私にもまだチャンスはあるかしら。
お嬢さんは私が坊やを取ってもいい?」
「良くないです!」
リリアが食い気味に否定した。
この反応は意識してくれているってことで良いんだよね?
生活が安定したら告白してみよう。
「ふふっ、冗談よ。坊やは信用できると思うわ。頑張ってね」
そう言ってマリアさんは他のお客さんのところに注文を取りに行ってしまった。
頑張るって......うん、頑張ろう。
リリアは顔が赤くなって俯いている。
このままだとせっかくの料理が冷めてしまう。
「冷める前にいただきましょう!」
「そうですね!」
チキンを切って、口に運ぶと塩味が濃く、ハーブの香りが口の中いっぱいに広がる。
白米があればもっと美味しく食べられるのに......。
そう思いながら付け合せのパンを口に入れる。
......思っていたよりもパンも悪くない。
口の中に残っていた肉汁がパンと合わさり、柔らかくなったパンとその酸味が塩味とマッチし、ほどよいバランスの味になった。
「美味しいですね!」
これだけ美味しいなら、多分値段も高いんだろうな。
「そうですよね!ここの料理はどれも美味しいんです!」
可愛い笑顔だ。この笑顔をこれからも守りたい。
リリアに毎日こういう料理を食べさせられるように、沢山魔法を練習して、沢山お金を稼ごう。
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食事を終え、ギルドの魔法練習用広場に戻ってきた。
お昼休憩なのか周りには誰もおらず、リリアと二人きりだ。
「俺は休憩しなくてもいいんですけど、リリアさんは休憩しなくて大丈夫ですか?」
「マサキさんが休憩していないのに、私が休むわけにはいきません!
講習は他の方に任せてきたので、今日はとことん付き合いますよ!」
「ありがとうございます!」
リリアは休憩せずに付き合ってくれるみたいだ。
しかも今日はリリアとずっと一緒にいられる。
張り切っていこう。
まずは魔素を高密度に圧縮する。
これは危険な魔法なんだから気を付けよう。
そういえば、なんで危険な使い方じゃなければ遷移魔法を教えて良いんだろう。
「遷移魔法はなぜ教えて良いのでしょうか?
教えなければ危険な使い方に気付くことも無いと思うんですけど」
「それは......私も分からないんです。
ギルド長には何か思惑があるんだと思いますが、聞いても教えてくれなくて」
「そうなんですね」
ギルド長の思惑か......。
変なことじゃなければいいけど。
「あっリリア!早いね。もう休憩は終わり?」
ギルドから女性の職員さんが出てきた。
今朝冒険者登録の受付をするときにリリアが話しかけていた職員さんだ。
「ノエルさん!今日は休憩無しで魔法をお教えすることにしました!」
「ああ、さっきの......」
ノエルさんは俺の顔を見ていたから、それで覚えてくれていたらしい。
「初めまして、ノエルです。
普段は受付と事務をしていて、本来なら冒険者登録の案内も私の仕事なのですが、今日は急遽リリアに交代してくれって頼まれて講習の担当をしています」
「ノエルさん!そういうことは言わないでいいですから!」
「リリアったら、そんなに慌てるとバレバレよ?」
「そういうのじゃないですから!魔法の師匠と弟子です!」
師匠と弟子......。
そう、だよな。まだ恋人なんて早すぎるよな。
でもリリアは意識してくれているだろうし、これから徐々に距離を縮めていけばいつかは。
「そっちの彼は少し落ち込んでいるようよ?」
「えっと、マサキさん、あの......」
リリアが少し困惑している。
少し落ち込んだけど、リリアには落ち込んでいるってバレないようにしないと。
「初めまして、ノエルさん。
マサキって言います。
さきほどリリアさんに冒険者登録の手続きをしていただきました!」
「ああ......なるほど」
ノエルさんは何かに納得したようだけど、何に?
「リリア、他の人に取られないように気をつけなよ」
「だからそういうのじゃないです!」
リリアは普段ノエルさんにからかわれているのかな?
とても仲が良さそうだ。
ノエルさんがリリアから俺の方へ目線を向けると真剣な表情になった。
「マサキさん、この子を泣かせるようなことしたら許しませんからね」
「泣かせるようなことは絶対にしません!
リリアの笑顔を一生守り続けます!」
もしかしたら今とんでもないことを言ったかもしれない。
なんか恥ずかしくなってきた。
「へぇ......。
リリア、もたもたしてたら私が取っちゃうかもよ?」
「もう!あっ受講者さんが帰ってきましたよ!」
「そうね、じゃあおじゃま虫は退散するわね」
そう言って、ノエルさんは広場に入ってきた人たちのところへ向かった。
またリリアと二人になった。
恥ずかしくてリリアの顔を見れない。
そうだ魔法!
魔法の練習をしよう。
「まったく。マサキさん、気を取り直して練習しましょう!」
「はい!」
沢山上達してリリアを養えるようになってやる!
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話の構成上出番が無くなってしまいましたが、可愛いリリアが作れたので、ここで供養します。