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第35話 決意

 野苺を沢山摘んできた。

 これでフェリシアが元気になってくれればいいけど。


 倉庫に入ると、フェリシアはまだ体育座りのままだった。


「野苺を摘んできたよ。食べられる?」

「……いらない。あっち行って」


 せっかく摘んできたのに……。

 フェリシアは1人になりたいのかな。


「置いていくから。いらなかったら捨てていいからね」


 野苺を置いて倉庫を後にした。


『コーマ、フェリシアの様子はどうだ?』


 カミル達が話しかけてきた。


『1人にしてほしいみたいだ』

『そうか……。親しい奴が晒し首にされたらと考えたら……無理もないか』


 親しい?

 フェリシアとアインは仲が良かったのか?

 冒険者時代はそんなに仲良さそうにしていなかったと思うし、ギルド職員になっていた期間なんて短かっただろ。

 もう1人の女は誰だか知らんから仲が良かったのかどうかも分からん。


『飯を作ったら持っていってやれ』


 そう言って、カミルは他のゴブリンを引き連れて農作業などの作業に戻っていった。

 フェリシアがいないとやることないし、魔法の訓練でもするか。


 ◇◆◇◆◇


 夜になってもフェリシアは倉庫から出てこず、ご飯を傍に置いたが反応は無かった。

 子供の家で一晩過ごし、朝ご飯を食べてからフェリシアの分の朝ご飯を持って倉庫に入る。

 フェリシアはまた体育座りで壁際に座ったままだ。

 昨日置いておいたご飯は食べてあるし、野苺も無くなっている。


「全部食べてくれたんだね。朝ご飯持ってきたからこれも食べてね」


 朝ご飯を置き、昨夜のご飯の食器を持って倉庫を出ようとすると、後ろから呼び止められた。


「ねえ、コーマ。コーマってずっと魔法の訓練をしてたんだよね。

 どのくらい強くなったの?」


 俺がどれくらい強くなったか?

 フェリシアにそんなこと聞かれたのは初めてだ。


「そうだな……。レアンドロにも多分勝てるくらいだ」


 うん、多分。

 今の俺なら勝てる気がする。


「……そう」


 フェリシアが短くそう言って、また口を閉じてしまった。

 ……本当にただ気になっただけ?


 それ以上フェリシアの口は開きそうになく、倉庫から出ようとすると、再び呼び止められた。


「もし、私が殺してほしい人たちがいるって言ったら、コーマは殺してくれる?」

「当たり前だ」


 俺が生きていてほしいのはフェリシアだけ。

 それ以外の人間は全員死んだって良い。


「なら、この国の貴族を殺して。王立騎士団も、全部」

「王立騎士団?」


 貴族は知っているが、王立騎士団って何だ?

 初めて聞いたぞ。


「王立騎士団は昨日の鎧を纏っていた人たち。

 貴族の次男以降で構成されてる」


 じゃあ王立騎士団も結局は貴族っていうことか。

 鎧を纏っていた奴らってことは……。


「俺に敵討ちをしてほしいのか?」

「……それもあるけど、殺してほしいのは昨日の人たちだけじゃない。

 この国の、貴族全員」

「全員!?なんでそんなに恨んで……」

「……私、他の街からベルハイムに来たって言ったよね」

「ああ、最初に会ったときにそう言ってたな」

「私以外に他の街から冒険者になりに来たって人、見たことある?」

「……」


 周りの人間のことなんてそんなに観察してねえよ……。


「街を移動するには騎士か冒険者に護衛してもらうのが当たり前。

 でも、そんなにお金を持っている人なら冒険者になんかならない。

 だから普通の人は生まれてから死ぬまで街から出ないのが当たり前」


 街の外に出るとゴブリンに襲われるからか。

 じゃあ、フェリシアは?


「私は……ううん、私たちは貴族が課した重税が払えなくて街を追い出されたの。

 でも、ベルハイムに辿り着けたのは私だけ。

 ベルハイムの壁の外に着いたときにたまたまアインさんに出会って、その後はコーマの知っての通り」


 フェリシアはアインに助けられてたのか。どうりで……。


「あのとき、貴族が税を上げていなければ私たちは今でもあの街で暮らせてた。

 だから貴族を殺してほしいの」

「だからって、いくらなんでも貴族全員は……。

 その貴族だけじゃダメなのか!?」

「……貴族全員。コーマは殺してくれるの?」

「全員……」


 貴族一人ひとり殺していくならまだしも、俺1人で大量の貴族を相手取るなんて無理だろ。


「そう。なら私はここを出ていく」

「出ていくって、どこへ!?」

「ベルハイム。

 ……私にだって少しくらいは……」


 ベルハイム!?

 エストーラならまだしも、ベルハイムじゃ俺の顔は知れ渡ってる。

 フェリシアがベルハイムに帰るってことはフェリシアとはもう……。


「一日考えさせてくれ」

「うん」


 倉庫から出て、歩きながら考える。

 せっかく一緒になれたのにフェリシアと離れ離れになるなんて絶対に嫌だ。

 でも貴族全員と戦うだなんて。

 もしレアンドロみたいなのが2人もいたら……。


 くそっ、どうすれば……。

 そもそもフェリシアは俺と離れて平気なのかよ。

 俺とフェリシアは愛し合ってるはずだろ。

 それなのに、なんで1人でベルハイムに帰るなんて言うんだよ。


 ◇◆◇◆◇


 貴族とどう戦うか方針が立たないまま翌日になった。

 フェリシアの隣で寝たが、フェリシアは寝ていたのかどうか分からない。

 フェリシアは横にならずに、ずっと体育座りのままだ。


「おはよう、コーマ」

「おはよう、フェリシアは眠れた?」

「ううん、それより決めた?」


 いきなりその話か。

 身体を起こし、フェリシアの前で正座する。


「貴族とは戦う。だからベルハイムには帰らないでくれ」

「……うん」

「だけど、すぐに貴族全員は厳しい。

 少し時間が掛かってもいいか?」

「……貴族全員を殺してくれるなら」

「ああ、それは約束する」

「うん。信じてる」


 信じてる、か……。

 フェリシアの期待を裏切るわけにはいかない。

 闇討ち、毒殺、窒息、なんでもいい。

 フェリシアに失望されないうちに、できるだけ早く貴族を殺していこう。


「ふわぁ……。なんだかコーマが貴族を殺してくれるって安心したからか、眠くなっちゃった。」

「本当にずっと眠ってなかったの?」

「うん、これからどうするかずっと考えてて」

「そっか」


 この村を出ていくなんて、きっとフェリシアにとっても大きな決断だったんだろうな。


「朝ご飯を貰ってくるよ。それ食べたら少しは寝てね」

「うん、ありがとう」


 立ち上がり、朝ご飯を貰いにゴブリン達の家へと向かう。

 フェリシアがいなくならなくて良かった。

 フェリシアのためなら貴族なんていくらでも殺してやる。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新は2026年3月20日の予定です。

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