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第34話 平穏

 フェリシアが村に来てから3ヶ月が経ち、フェリシアは俺無しでもゴブリンと会話できるようになってきた。

 ゴブリンたちは何か困ったことがあったら直接フェリシアに聞くようになり、俺は魔法の訓練に専念できるようになった。

 とは言ってももう人間の街に攻め込む理由が無くなったから訓練する必要なんて無かったんだが。

 それでも何かあったときのためと言うか、単に暇だったからというか、かなりの訓練を積んだ。

 そのおかげで鉄の鏃の弓矢を射られても弾けるバリアを何時間でも展開できるようになり、もう弓矢で腕を貫かれるなんて心配は必要無くなった。

 ただ、アインのインビジブルワイヤー……。

 あれだけは防げる気がしない。

 俺もインビジブルワイヤーを出せるようになったが、あれはまるでウォーターカッター。

 どんな金属でも貫けるほどの威力だ。

 インビジブルワイヤーを束ねて盾に、なんてことを考えたがそんなことしたら魔臓が保たないし集中力も追いつかなくなる。

 だからあれを防ぐには同じようにインビジブルワイヤーで相殺するしかない。


『コーマ、集中して』

『あっ、ああ。すまん』


 腕の痛みが引き、走っても痛くなくなったから、先日から鹿狩りに参加するようになった。

 人間が森に入ってくることがなくなり、やることがなくなってゴブリンからの視線が痛かったが、鹿狩りに参加するようになったおかげでその視線も無くなった。

 今は川の近くの木の上に隠れて鹿が来るのを待っている。

 監視する範囲が広く、今日はエラと俺しかいないため負担が大きい。

 まあ、昨日鹿を仕留めたから今日は仕留められなくても良いんだが。


 しばらく見張っていると、二匹の鹿が川に水を飲みに来た。


『エラ、あれはどうだ?』

『……メスね』

『そうか……』


 今は鹿が発情期らしく、オスなら少しだけ狩ってもいいが、メスは絶対に狩ってはいけないと決まっている。

 鹿の数を減らし過ぎないため仕方ないんだと。

 やっぱり毎日安定して肉を食べるためには家畜を大量に育てるしかないか。

 だけどそのためには食料が……。

 フェリシアのおかげで来年からは大量に食料が得られそうだから、それまで待つか。


『今日はもう帰りましょう』

『そうだな』


 帰ったら昨日狩った鹿の解体作業か。

 退屈なんだよなあ。


 ◇◆◇◆◇


 村に到着するとフェリシア監督の下、鹿の解体作業や道具への加工が行われていた。

 フェリシアが俺に気付くと駆け寄ってきた。


『コーマおかえり!やっぱりオスは見つからなかった?』


 フェリシアはゴブリン語に慣れるために俺と喋るときでもゴブリン語を使うようにしているらしい。

 俺には日本語にしか聞こえないけど。


「ああ、メスしか見つからなかった」


 俺が話す言葉は人間の言葉らしい。

 どんなにゴブリン語で話そうと思ってもフェリシアと話すときは人間の言葉になってしまう。

 どうせこの翻訳スキルもあの女神が作ったんだろうし、細かいことは調整できないんだろ。


『この季節だし仕方ないね!

 それよりさ、そろそろゴブリンの村での食事に飽きてこない?』

「まあ……」

『じゃあエストーラにご飯食べに行かない?』

「またその話か」


 最近はフェリシアから出る話題はエストーラに行きたい話ばかりだ。


「今日も野苺採ってきたから、これで我慢してくれ」


 帰り際にこっそり採ってきた野苺をフェリシアに渡す。


『うん、ありがと……』


 フェリシアの頼みならできるだけ叶えたいんだが、人間の街はな……。

 ん?

 いや、待てよ。

 なんで俺は人間の街を嫌厭しているんだ?

 今の俺ならアイン、なんならレアンドロさえ倒せるんじゃないか?

 なら人間の街を恐れる必要はない?


『服がボロボロになってきたし、そろそろ新しいの欲しいな、なんて思うんだけど……』

「エストーラに行くか」

『えっ!?……うん!行こう!』


 もし人間に囲まれても全員殺して帰って来ればいいだけだ。

 今の俺ならフェリシア1人くらい守りながらでも殲滅できる。


『じゃあ、カミルさんに言ってくるね』

「ああ」


 別にちょっとエストーラに行ってすぐ帰ってくるんだから態々言う必要はないと思うが。

 まあ、フェリシアのやりたいようにやればいい。


 フェリシアを眺めているとカミルと何言か話し、その後周りのゴブリンに囲まれていた。

 少しエストーラに行くだけなのに大げさだろ。


 少し待っていると、そのゴブリンの集団からフェリシアが出てきた。


「コーマお待たせ!早く行こう!」


 フェリシアが駆け寄ってきて、そのまま手を取られながら走って村の外へと向かう。


「なんでそんなに急ぐんだ!?」

「早くエストーラに行きたいの!」


 フェリシアの横に並んで走り始めるが、フェリシアの横顔には笑顔は無かった。

 行きたいところに行けて嬉しいんじゃないのか?


 ◇◆◇◆◇


 森の外側の、エストーラの外壁が見える場所に着いた。

 人間の街の高い外壁を見るのも久しぶりだ。

 街の中に目をやると煙が何筋か昇っていた。


「火事か?」

「あそこは……嘘……間に合わなかったの?」

「間に合わなかった?」


 何に間に合わなかったんだ?

 火事が何箇所かで発生しているなら街は大騒ぎだろうな。

 買い物はまた今度だな。


 フェリシアは信じられないものを見ているかのような表情だが、何をそんなに受け入れられないんだ?

 せっかく人間の街に行けるのに買い物できなかったことがそんなにショックなのかな?


 フェリシアが動けなさそうだったからしばらく立ち止まって街を眺めていると、槍を持ち、鎧を纏った兵士が何人か出てきた。

 鎧を纏っているなんて珍しいな。

 冒険者でも門番でも鎧を纏っているやつなんてほとんど見たことがない。

 そいつらをよく見てみると、兵士のうちの2人が持っている槍の先には何かが突き刺さっていた。


「……首?」


 遠くてよく見えないが、球状のものに髪らしきものが生えている。


「アインさん……。それにルシアさん……」


 アインって……あのアインか!?

 まだ処刑されてなかったのか!

 確かにアインはあんな感じの顔だった気がする。


 ルシアは誰だ?

 どこかで聞いた名前のような。


 フェリシアがペタリと座り込んだ。


「私のせいだ……。

 私が間に合わなかったから……。

 ごめんなさい……」


 フェリシアは何を言っているんだ?

 アインが処刑されたこととフェリシアは何も関係無いだろ。

 まさか、まだ俺を連れていけばアインの処刑が回避できるとでも思っていたのか。


 ……いや流石に無いか。

 これまでのフェリシアの村での活躍を考えれば、ただ俺を連れて行くだけにしては無駄なことが多過ぎる。

 俺を連れていきたいなら殺してでも連れていけば良かった。

 フェリシアならそんなチャンスはいくらでもあった。

 それをしなかったんだから、それ以外の理由があったんだろ。


 いつまでもここにいたらあの兵士達に見つかる可能性がある。

 別にあいつらくらい倒しても良いんだが、無駄な手間は増やしたくない。


「フェリシア、ここにいたら危険だ。村に戻るぞ」


 フェリシアに手を伸ばすが掴む様子はない。

 仕方ない、お姫様だっこで連れ帰るか。


「フェリシア、行くぞ」


 されるがままのフェリシアを持ち上げ、村へと戻る。

 ……意外と腕がキツイな。

 村まで保つか?


 ◇◆◇◆◇


 途中でお姫様だっこからおんぶに切り替え、村へと辿り着いた。


『コーマ、どうしたんだ?

 それにフェリシアも……。

 もう戻ってこないんじゃなかったのか?』

『いや、すぐに戻ってくるつもりだったけど……』


 村に到着して早々カミルが話しかけてきて、他のゴブリンも集まってきた。

 何を言っているんだこいつらは。


『そうなのか?それよりフェリシアは……』

『人間の街で火事があったり、知り合いの首が晒されたりしてな』

『晒し首!?何があったんだ?』

『いや、俺にも分からん』

『そうか……。取り敢えず休ませてやれ』

『ああ』


 フェリシアを俺達の家として使っている倉庫に運び座らせる。

 フェリシアはまだショックで虚ろな顔をしている。


「フェリシア、大丈夫か?」


 ……返事がない。

 こういうときどうすれば良いんだ。


「何かしてほしいこととかあるか?」


 フェリシアがピクリと反応した。


「……もう、何もない」


 えっ、もう?

 前まではあったってこと?


「もう、何もかも遅かった」

「えっと、どういうこと?」


 フェリシアはまた黙り込んでしまった。

 言ってくれなきゃ何も分からないのに。


 フェリシアに元気になってもらうために俺にできること……。

 フェリシアの好物……野苺を採ってこよう。


「ちょっと待ってて」


 倉庫を飛び出して森の中へと駆け込む。

 野苺のありかは分かってるんだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新は2026年3月16日の予定です。

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