第29話 日常
肉食いてえ。
最近干し肉しか食べてない。
新鮮な肉汁があふれるような肉が食いたい。
ここに来てからは俺が持ってきた干し肉、野菜、平たいパンもどきしか食べてない。
パンはともかく、肉はどうにかならないのか?
『カミル、肉は無いのか?』
『肉……?』
カミルは不思議そうな顔をしながら自分の手元を見る。
『食うか?』
『いやそれじゃなくて、人以外の肉だ』
カミルは昨日の宴会の残りである人肉を差し出してきた。
サラッと人肉勧めてくるなよ。
俺はまだその境地には至ってねえよ。
『人間以外だと、狩猟組がたまに鹿を獲ってくるから、それくらいだな』
鹿肉か。
前世でも食べたことはないが、ジビエとしての鹿肉料理は聞いたことがある。
うん、アリだな!
『狩猟組は次はいつ頃鹿を獲ってこれそうなんだ?』
『……狩猟組が30匹いたときでさえ、たまにしか獲れなかった。
今では絶望的だろうな……』
『そんなに鹿の数が少ないのか』
『いや、数自体はそれなりにいる。
鹿がよく訪れる場所も分かっている。
だが……』
『だが?』
『鹿をしとめるには数が必要なんだ。
20匹くらいで囲んで、ようやくってところだ』
そんなに数が必要なら、10匹しかいない狩猟組で鹿をしとめるのは絶望的だな……。
『なんでそんなに人数が必要なんだ?』
『沢山石を投げないと鹿が倒れないんだ。
人数がいなければ沢山当てる前に逃げられる。
……コーマがいれば、そんな状況も変わるかもしれんが』
ようは攻撃力不足ってことか。
確かに俺がいれば一撃でしとめられるだろう。
『だが、そんな腕じゃコーマは走れないだろ』
『まあ……』
左腕は未だに痛むし、少し動かすだけでも激痛が走る。
こんな状態で鹿を走って追いかけるのは無理そうだ。
『まずはその腕を直せ。
肉のことはまたその後に考えよう』
『そうだな……』
食事を終えて家の外に出ると、無惨に解体された死体がそこには横たわっていた。
……後で埋葬してやるか。
死体の横には冒険者たちが身につけていた服や剣、弓などが置かれていた。
服は俺が貰うとして、剣や弓はゴブリンでも使えるんじゃないか?
『あっ、ちょっと!
狩猟組のやつを呼んでくれないか?』
『俺は狩猟組だけど』
『あっ、そうか……』
通りかかったゴブリンに声かけてみたら狩猟組のゴブリンだった。
すまん、まだゴブリンの見分けが付かないんだ。
『この剣を振ってみてくれないか?』
『いや、そんなでかいの振れるわけないだろ』
剣は普通のロングソードで1mより少し長いくらいだが、ゴブリンの身長はそのロングソードよりも少し大きいくらいだ。
人間換算だと大剣相当。
……振れるわけないか。
『じゃあ、こっちの弓はどうだ?』
『まあ、それなら』
そう言って、ゴブリンは弓を拾い上げ、振り始めた。
『待て待て!なんで振ってるんだ!?』
『これを振るんじゃないのか?』
『違う!弓は振って使うんじゃない!』
弓を使って見せたいが、左手が……。
『デニス、どうしたんだ?』
『コーマがこれ使ってみろって』
『なんだこれ?』
『分かんね』
ゴブリンたちは弓を見たことすらないのか……。
だが、弓さえあれば大幅な攻撃力アップになって鹿を狩れるようになるはずだ。
『狩猟組のメンバーを全員集めてもらえるか?
これはお前たちにとって革命になるかもしれない』
少しして、目の前に10匹の狩猟組のゴブリンとカミルが揃った。
『カミルは狩猟組じゃないからいなくてもいいぞ』
『人間の道具に興味があるんだ。使い方を教えてくれ』
『そうか……』
別に邪魔しないならいてもいいか。
『これは弓矢という武器で、矢を勢いよく発射して敵を殺すためのものだ。
これを上手く使えれば鹿どころか人間だって殺せるようになる』
おおっという歓声が上がる。
やっぱり新しい武器ってワクワクするよな。
『取り敢えず、誰かこれを持ってみてくれ』
『俺が持とう』
カミルが名乗りを上げた。
狩猟組じゃないやつが練習しても意味ないんだが……。
まあ、いいか。
『まずは弓だけを持ってくれ。
左手が木の部分で、右手は弦の方だ』
『こうか?』
『ああ、それで左手を伸ばしながら右手を引き、離す。
これだけだ。簡単だろ?』
『ああ……。だが、これでどうやって人間を殺せるんだ?』
『今は何も持っていないからな。
次は右手で矢を持ってやってみてくれ
危険だから誰もいないところを目掛けてな』
アニメで見ただけだから弓矢の使い方なんて詳しく分からないが、なんとなくで使い方をレクチャーしていく。
何度も口出しすることで、ようやくカミルが正しく弓矢を使えるようになり、そして矢が猛スピードで飛んでいった。
『これは……すごい!
これなら人間だって殺せる!』
『そうだろう?だが、弓は一つしかない。
この中で一番命中率が高いやつがこれを使うべきだ!』
カミルと狩猟組は弓矢に夢中になり、木を的に見立てて練習を始めた。
あの様子ならそのうち誰か一匹くらいは命中率が高いやつが出てくるだろ。
それにしても、口だけで弓矢の使い方を教えるのは疲れた。
包帯を取り替えて少し休んでいよう。
日が沈み、矢や的が見えなくなったため、ようやく狩猟組の練習が終わった。
どんだけ夢中になってたんだよ……。
夕飯を食い終え、また今日も家の中でおっ始まったため、一人外に出てきた。
どうやらゴブリンには結婚とかそういう概念はなく、男女であれば誰とでもやるらしい。
そのせいで毎夜乱交パーティだ。
そりゃ子供が多く産まれるわけだ。
そして、産まれた子どもはどうしているのかと言うと、妊娠中の女や生理中の女と他の家で寝るらしい。
生理まであるとか、ほとんど人間と同じじゃねえか。
『コーマ、ありがとな。お前のおかげで、俺たちは人間を殺せる武器を手に入れた』
一段落したのか、カミルが家から出てきた。
服は着ていない。
……寒くないのか?
『大げさだ。それに感謝は人間を殺してからにしてくれ』
ああ、そうだ。
こいつらが強くなればなるほど、支部長を殺せる確率が高くなるんだ。
俺はもうベルハイムの門を簡単にくぐることはできない。
だが、ここのゴブリンたちと一緒にベルハイムに攻め入れば、門をくぐることも、支部長の下に辿り着くこともできるはずだ。
魔法の練習も順調。
まだインビジブルワイヤーまでの濃度は無理だが、段々と濃度を上げられている。
もうすぐで支部長を殺す準備が整うんだ。
『それにしても、人間は凄いな。
こんなにも強い武器を作っちまうんだから。
俺達が勝てないわけだ……』
カミルらしくない弱気な発言だな。
いつもは自信満々な感じなのに。
『これからは俺がいる。
俺がいれば人間なんてすぐに超えられる』
『ああ、そうだな。
コーマ、これからもよろしくな』
『ああ、任せろ』
カミルはまた家の中に戻っていった。
これからもう一戦始める気か?
……俺も早く女がほしいなあ。
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次回の更新はの2026年2月27日の予定です。




