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第28話 歓迎

 ゴブリンの村に到着した翌日、村長会議でも許可され村への滞在が許された。

 昨日渡された藁の腰巻きはサイズが小さくて身に付けられなかったので、ネックレスみたいに首にかけることにした。

 首が少しチクチクするが、左腕の痛みに比べれば大したことはない。

 服は着たままで良いって言ってくれたことだけは救いだ。

 もしゴブリンみたいに裸に藁の腰巻き(ネックレス)だけだったらこの村を出ていたかもしれない。


 村の中の建物は全て竪穴住居であり、住居が3つ、トイレが1つ、食料庫が2つある。

 他には大きな畑とトイレの近くに肥溜めがあるだけの小規模な村だ。


『おう、コーマ。人間の目から見て、この村はどうだ?』


 村長ゴブリンが話しかけてきた。

 名前はカミルらしい。

 どうって言われてもな……。


『人口の割にはコンパクトな村だな、としか……』


 昨日寝るときに知ったが、これだけしか設備が無いにみ関わらず人口は60匹を超えてそうだった。


『……あそこに肥溜めがあるだろ。

 あれは人間の真似をして作ったんだが、どう使えばいいのかは分からねえ。

 コーマは知っているか?』


 肥溜めって、肥料ってことだろ?

 なんで作ったのに使ってないんだよ。


『……あれは畑に撒いて使うんだ』

『撒いたら畑が駄目になったことがある』


 肥料を撒いたら駄目になった……?

 なんだそれ。

 肥溜めの中に有害なものでもあったのか?

 そんなこと授業でやったかな。

 肥溜めって、確か糞尿を置いておいて、腐ったら使うんだったよな。


『……肥溜めが腐ってなかったとか?』

『腐る?腐ったものを畑に撒くのか?』

『ああ、確か時間を置いてから使うものだった気がする』

『そうだったのか……。

 今あるやつは作ってから時間が経っているんだが、使えるか見てもらえるか?』


 肥溜めに近づくってことか?

 ……嫌なんだが。

 でも、それもこの村に居続けるためか。

 仕方ない。


 カミルと共に肥溜めに近づくと、酷い匂いが鼻に入ってきた。


『近くの人間の街で見た肥溜めはこんな感じだったんだが、合ってるよな?』


 肥溜めを見てみると、ただの糞尿の塊というわけではなく、藁が混ざっていたりと、ベルハイムの近くで見ていたものとよく似ていた。


『ああ、これは確かに肥溜めだな』


 肥溜めってこんなに臭いのかよ。

 ここまでだなんて聞いてねえよ。

 っていうかこんな臭いもん、普通は畑に撒かないだろ。

 そりゃ畑が駄目になるわ。


『トイレに溜まった排せつ物をここに乗せているんだが、人間がやっていることを見て真似しているだけだからよく分からなくてな。

 この農業だって人間の真似をしているんだが、よく収穫できるのは最初の年だけでな』


 最初の年だけ……?

 それは聞き覚えがある。


『連作障害ってやつじゃないか?』

『なんだそれは?』

『畑でずっと同じものを育ててると収穫量が落ちるってやつだ。

 だから休耕地を作ったりするんだが』

『休耕地ってことは何も作らない場所を作るってことか?』


 カミルが信じられないものを見たかのように目を大きく見開いている。


『ああ、そうだが……』

『そうすると、収穫量が減らないのか?』

『そうらしい』

『そういうことだったのか!

 だから何も植えていない畑があったのか……』


 カミルは何かに納得したかのように何か考え事を始めた。


『それで、そこにこの肥溜めを撒けばさらに収穫量が増えるってことか!?』

『いや、俺の記憶では撒くときはここまで臭くなかった』


 うん、こんなに臭いわけがない。

 もう少しマシな匂いだったはずだ。


『放置しておけば匂いが消えるのか?』

『ああ、確かそうだった気がするが……』

『そうか……。早速そうしてみよう。

 おい、お前ら!集まってくれ!』


 ◇◆◇◆◇


 カミルから村民への説明が行われた。

 俺の知識が元になっているんだが、大丈夫か?

 俺の知識は学校で習ったことだし、結構曖昧なんだが。

 それよりもそこら辺の農民を捕まえてきた方が良くないか?

 村民への説明が終わった頃、1匹のゴブリンが村の中へ走り込んできた。


『村長!また人間が近くにやってきた!』

『来たか……。コーマ、怪我をしているところ悪いが、戦ってくれるな?』

『ああ、任せろ』


 ……いや、早いよ!

 昨日の今日だぞ!

 左腕だってまだくそ痛いのに、なんでもう戦わなきゃいけないんだよ!

 もっと回復してから戦うもんだと思ってたわ。

 昨日は星5の冒険者だったが、まさかこれから戦うのも星5じゃないだろうな。

 もしそうなら今度は負けるかもしれないぞ。


『こっちだ。着いてこい』

『ああ』


 どうか戦うなって厳命されている星3でありますように……。


 ◇◆◇◆◇


 走ってきたゴブリンに付いて森の中の獣道を進んでいくと、木の陰で止まった。


『あそこの茂みに隠れていた。

 俺は逃げられたが、ヤンは……』


 ゴブリンの指差す場所をよく見てみると、冒険者の影が少し見えた。

 距離は50mくらい。

 あいつら、ゴブリンを逃がしたのに場所を変えなかったのか。

 レオンたちが星4に上がったばかりのときでもゴブリンに逃げられたときは場所を変えていたぞ。

 だが分かった。

 あいつらは星4だ。

 しかも上がりたて。

 冒険者は森での行動を全てギルドに報告して、それからアドバイスを貰って徐々に森での狩りが上達していくが、あいつらはまだそこまでアドバイスを貰っていないんだ。

 おそらく、あいつらは今日成果が少ないまま街に戻ることになり、それで今日アドバイスを貰うところだったんだろうが、ここには俺がいる。

 あいつらが街に戻ることはない。


 首にかかっていた腰巻きを外し、ゴブリンに手渡す。


『ここで隠れていろ。すぐにあいつらを殺してきてやる』

『あ、ああ……』


 木の陰から出て冒険者のいる茂みへと歩いて近付いていく。

 平常心だ。

 殺気を見せてはいけない。

 暗殺のアニメで教わった。

 あくまで自然に。

 ごく普通に近づくんだ。


「よう。俺は星5冒険者のコーマだ。お前たちは?」

「おいっ、バカ!そんな見通しの良い場所で立ち止まるな!」


 誰がバカだ。

 ……決めた。

 こいつは絶対に殺す。


 茂みの中に入りしゃがみ込むと、そこには4人の男がいた。

 ……全員男なら殺して良いな。


「俺達はエストーラで冒険者になった星4冒険者だ。

 お前は星5なのか?

 どの街から来た冒険者だ?」

「ベルハイムだ。エストーラは近いのか?」

「当たり前だろ」


 そうか、ここはもうエストーラの近くなのか。

 だとすると、そろそろ俺の指名手配が街で出回ってもおかしくないな。


「まだベルハイムから来たばかりなのか?

 それにその怪我……」

「ああ、まだエストーラには行ったことがなくてな。

 この怪我はベルハイムから来る途中で少しな……。

 お前たちの仲間はここにいる4人だけなのか?」

「ああ、ここにいるので全員だ。

 そうだ、せっかく星5の冒険者に出会えたんだ。

 何かコツとか聞いてもいいか?」

「そうか、ここにいるので全員か……」


 冒険者を改めて見ると全員スコップを持っていて、剣とか弓を装備している。

 魔法使いはいなさそうだな。


「でも、そいつゴブリン相手に怪我したやつだろ?

 本当に星5かどうかも怪しい。

 アドバイスを聞く意味あるのか?」

「それは……どんな達人でも失敗することくらいあるだろ」


 マジックブレードを右手から出す。

 殺すのは奥のやつからだ。

 全員逃さす殺す。


「アドバイスできることならある。

 まずは奥のお前……」


 そう言って立ち上がり、奥の男に近づく。

 よし、全員まだしゃがんでいるな。


 右手を少し上げ、マジックブレードが目の前の男の顔の横になるように合わせる。

 そして、そのまま横に薙ぐ。

 男の顔がそのまま下に落ちる。


「……は?」


 そして続けざまに1人2人と顔を切断して殺していく。


「まっ、待ってくれ。

 えっ、今何が起こったんだ?

 あんだがやったのか?

 なんで?」

「なんでだろうな」


 最後の1人もマジックブレードを横に薙いで殺す。


 ふっ、他愛もない。

 4人を瞬殺。

 これが強者である俺の実力か。

 こんな程度のやつら、何人来ようが俺の相手じゃない。


 そこを後にし、ゴブリンが隠れている場所へと戻る。


『終わったぞ』

『えっ、もうか!?まだ行ってばかりだろ』

『疑うなら見てみるか?』

『あっ、ああ……』


 ゴブリンから藁の腰巻きを受け取って首に掛け、ゴブリンと共に冒険者がいた場所へと行く。


『本当に人間が死んでる……』

『だろ?』

『こんなことって……。村長に知らせてくる!』


 ゴブリンが走って村へと戻っていった。

 俺はこいつらの荷物でも探ってみるか。

 食料とか、あとは包帯も欲しい。




『本当に、これを全部1人でやったのか……?』


 荷物を漁っていると、後ろから声を掛けられた。

 その声の方を見ると、何匹かのゴブリンと、カミルが居た。


『ああ、俺にかかればこんなもんだ』

『ああっ……ああっ……!!』


 えっ、なんか村長がいきなり泣き始めたんだけど。

 後ろのゴブリンも何匹か泣いてるし。


『おい、お前ら!

 今日は宴会だ!

 全員でこれを運び出せ!』


 村長のその掛け声と共に後ろから歓声が上がっているし、何が起こったんだ?


 ◇◆◇◆◇


 村に戻り、夜になって、村の中央で大きな焚き火が焚かれた。

 そのすぐ近くでは裸に剥かれた冒険者4人の死体が吊るされてあり、その前にカミルが立っている。


『昨今、人間が森の中に入ってくるようになり、狩猟組のゴブリンが次々と殺されていった。

 いつも通り村の外へ出かけ、それなのにいつまで経っても返ってこない家族に皆、涙したことだろう。

 1匹、また1匹と仲間が次々へと返って来なくなっていった。

 少し前までは30匹いた狩猟組は、今ではたったの10匹になってしまった……』


 それなら狩猟組を外に出すなよ。

 村にいれば危険は少ないだろ。


『だが、そんな日々も今日で終わりだ!

 俺達は昨日、コーマを村に迎え入れた。

 そして、そのコーマが!今日!

 この人間4人を討ち取ってきた!』


 カミルが後ろの冒険者を指差し、そして『おおーっ』と歓声が上がった。


『俺達はもう、一方的に殺されるだけじゃない!

 コーマがいればもう人間は怖くない!

 今日は今まで死んでいった狩猟組の弔いと新たな仲間であるコーマの歓迎を行う!

 皆、存分に食べて踊ってくれ!』


 カミルの演説が終わり、村民全員での宴会が始まった。


 カミルの後ろの死体が下ろされ、腕、足など解体が始まり、それを火の近くで炙り始めた。

 ……えっ、まさか、それを食べるの?

 血抜きをしていたのってそういうこと?

 いや、人間もゴブリンの足を食べるし、それと同じか?

 いや、それにしたって……。


 カミルが焼き上がった肉を二つ持って、俺のところへ来た。


『おう、コーマ!コーマも食うだろ?』

『いや、俺は……』

『そうか……。

 まあ、お前は俺達の仲間とはいえ人間だからな。

 同族を食べるのには抵抗があるか』


 その理解があるならこっちに持ってこないでほしい。


『コーマ、本当にありがとうな。

 お前のおかげで俺達の村は救われた。

 このまま滅びるのを待つだけかと覚悟していたが……』

『ああ、気にするな』


 ありがとう、か……。

 これほどまでの心からの感謝、俺はこれまで受けたことがあったか?

 いや、なかった。

 前の人生でも、この世界に来てからも。


『それで、コーマはいつまでこの村にいるんだ?』

『えっ?』


 まさか、もう村は救われたから俺は用済みだとか、そういう話か?

 やっぱり人間はゴブリンの村にはいれないってことなのかよ。


『ああ、いや。

 最初にいつまでここにいるかっていうのは聞き損ねていたと思ってな。

 コーマさえ良ければずっとここにいてほしいんだ。

 人間共のこともそうだが、畑のことももっとコーマに聞きたい』

『ああ、そういうことか……』


 いきなり追い出されるのかと思ってびっくりしたぞ。

 いつまでか……。


『特に期限は決めてなかったな』

『そうか!ならずっといるといい!

 コーマがいればこの村はもっと発展していく!』

『ふっ、そうだな……』


 ずっといていい、か。

 俺の居場所。

 ようやくできたのかもしれない。


『村長〜、今夜も〜』


 俺とカミルがいるところに2匹のゴブリンが近付いてきた。

 こいつらは……女、なのか?


『ああ、もう少し食ったらな。コーマもするだろ?』


 するって……ああ、そういうことか。


『いや、俺はゴブリンはいい』


 いくら溜まってるからってゴブリン相手はないだろ。

 入るかどうかも分からないし。


『そうか、やっぱり相手は人間の女がいいか。

 なら今度捕まえてこい。

 コーマの女なら俺達も歓迎しよう』

『ああ、そのときはお言葉に甘えるよ』


 カミルは女ゴブリンを連れて焚き火の方へと戻っていった。


 確かにずっとこのまま独り身っていうのはな。

 次、女を見付けたら殺さずに捕まえるか。

 実際に俺の女にするかどうかはそのとき考えればいい。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新はの2026年2月24日の予定です。

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