第26話 戦闘
今回から18:20の投稿に変更します
何も行く宛が無いが、とりあえずエストーラを目指す。
この世界のどこにも俺の居場所はない……。
なんだか前世で自殺したときみたいだな。
自殺……。
この世界に来てからも何度か自殺を考えたことはあった。
そして、前世みたいにロープなんて用意する必要はなく、ただ遷移魔法で首を切り落とせばいいだけということも分かっている。
今までゴブリンに対してやってきたみたいに……。
だが……。
だが、この世界のどこかには俺を受け入れてくれる人がいるんじゃないか。
そんな希望とも言えない、ただの願望がまだ俺の中にある。
それに、支部長をこの手で殺すまでは死ぬわけにはいかない。
あいつに与えられた屈辱を晴らすまでは……!
ただ歩いているだけっていうのも暇だし、魔法の練習をするか。
あの、濃密な魔素による遷移魔法。
名前は……そうだな、見えないワイヤーみたいだからインビジブルワイヤーとでも呼ぶか。
あいつのインビジブルワイヤーを防げるようにならなければ俺があいつに勝つことはない。
遷移魔法と遷移魔法がぶつかったとき、より魔素が濃密な方が勝つ。
だから、あいつよりも濃密な魔素を操れるようになれば俺の勝ちだ。
魔素は身体から出すと空気中に霧散してしまう。
遷移魔法では指先に神経を集中させるように、魔素の先まで集中して霧散しないように意識する必要がある。
魔素を長く身体から出せばその分集中しなければいけない長さが増えるし、魔素を複数出せばその分集中しなければいけない数が増えるから難しくなる。
そして、魔素を濃密にしようとすればするほど、その分集中力が必要になる。
その点、ウィンドシックルは魔素を放ったら終わりだから楽だ。
だから愛用してきたっていうのもあるんだが、おそらく支部長相手には通じない。
防がれ、あの濃密な魔素に殺されてしまうだろう。
おそらく魔法使い同士の戦いの要素は操れる魔素の長さ、数、濃さの3つ。
支部長は濃さを重点的に鍛えたんだろうな。
だったら俺はあいつよりも短い練習期間で支部長の濃さを超えてみせる。
そしてあいつの悔しがる顔を眺めながらじっくり痛ぶって殺してやる。
そうと決まれば魔素の濃さを上げるための練習だ。
そしてインビジブルワイヤーを超え、空間すらも切り裂く魔法、ディメンジョンブレードを習得してみせる。
◇◆◇◆◇
あーーーー、腹減った。
ベルハイムを出るときできるだけ食料を買っだが、そもそも持ってる金が少な過ぎて2日分しか買えなかった。
もう半分食べてしまったが、エストーラまでどれくらい時間がかかるか分からないんだからこれからは節約しないといけない。
……ゴブリンでも襲ってきてくれねえかな。
そうしたら肉が食えるのに。
そんなことを考えながら歩いていると、前に牛が引いている荷車を見付けた。
同じ方に向かって歩いているってことは、あいつらもエストーラを目指しているのか?
冒険者っぽいやつが5人と商人らしきやつが1人。
っていうことは商人の護衛中で、星5冒険者が1人以上いるな。
支部長の前に人間相手で訓練したかったし、積んでいる荷物が食料なら儲けものだ。
星5冒険者ならそれなりに強いだろうし、訓練相手として申し分無い。
濃度の高い魔素を右手から剣状に出しながら、最後尾の冒険者の元へと走る。
「おい、お前そこで止まれ!なんの用だ!?」
俺が近付いているのに気付き、剣を抜いた。
ちょうどいい。
魔素を構えている剣に向けて魔素の剣を振るう。
ガキィンッという甲高い音を立てながら俺の魔素の剣と冒険者が持っている剣が衝突する。
まだ剣は切断できないか……。
もっと……、もっと魔素を濃くしないと。
「魔法!?
ってことは冒険者か?
なんで襲ってくるんだ!」
「ジョン!
……くそっ、あいつは野盗だ!
もうこっちが襲われてるんだ。殺したって罪には問われねえ!」
「野盗って、冒険者じゃ……」
「冒険者かもしれねえ!
でも、このままじゃジョンや俺達が殺されちまう!」
まだ鉄を切断できない状態で1対5はきついな。
仕方ねえ、濃い魔素の訓練はまた後だ。
ジョンと呼ばれた目の前の冒険者と距離を取り、魔素を溜める。
「なんだ?
なんで引いたんだ?」
「気をつけて!そいつ魔素を溜めてる!」
「まさか……!」
ジョンが焦って距離を詰めてくる。
「おせえ!」
ウィンドエッジをジョンに向けて放つ。
それはジョンの顔を目掛けて飛んでいき、顔を斬りつけた。
「ぐあああああ」
「ジョン!!」
もう少し溜める時間があればウィンドシックルを発動できたんが……。
溜める速度を速くするのも今後の課題だな。
それに剣で防がれたせいで威力が激減している。
何もなければウィンドエッジでも顔を切断できたはずだ。
「まだジョンは生きている!
早くこいつを片付けて手当てするぞ!」
ジョンは戦闘不能になったがまだ4人もいる。
こっからどう攻める……。
攻め方を悩んでいると、弓矢が俺を狙っていた。
「うおっ、危ねえ!」
矢を放ってくる直前、横に飛び込み前転をして避ける。
こういうときFPSをやっていて良かったって思うな。
「避けたぞ!それほどの使い手じゃねえ!」
……は?俺がそれほどの使い手じゃない?
俺を見くびってんじゃねえよ。
避けないで防いで見せりゃいいんだろ。
遷移魔法のバリアで。
手を左右に広げ、全面にバリアを展開する。
「バリアが展開された!
でも鉄の鏃なら貫けるよ!」
……あの女も魔素過敏症か?
厄介だな。
っていうか鉄の鏃は防げないのかよ。
ならバリアは止めだ。
ウィンドエッジを溜める時間はもう与えてくれない。
ウィンドカッターじゃあ決定打にはならないだろう。
それなら魔素の剣……マジックブレードで!
「バリアは無くなって右手から魔素を出したよ!
最初の剣みたいなやつ!」
「それなら……。
ダニエル、クレア、援護を頼む。
リック、行くぞ」
リーダー格の男とリックと呼ばれた男が前に出てきた。
厄介な女は魔素を溜めている。
前に出てきた二人を盾に使えば遠距離攻撃はなんとかなるが、2人も前に出てくるのはキツいな。
まだ片手からしかマジックブレードは出せないんだ。
……いや、何をそんな弱気になっているんだ。
俺には経験10倍のスキルがあるんだ。
出そうとすればすぐに両手から出せるようになるはずだ。
そう、こんな風に……。
くそっ、両手のその先まで意識を集中させられねえ。
早く……、早くできるようにならないと殺されるんだぞ!
「両手から剣を出そうとしてる!早く!」
その声と共に2人が俺を目掛けて走ってくる。
くそっ、間に合え!
……よし、両手のマジックブレードが安定した!
ガキキィンッと二つの甲高い音が鳴り響く。
「ふんっ、遅かったな」
「くそっ、ダニエル!頼む!」
左右から斬り掛かってきた2人の間からダニエルと呼ばれた射手が俺を狙っている。
まずい、射線を切らないと。
右側のリーダー格の男の陰に隠れる。
「ぐぉっ……」
痛えええ!
胴体への命中は避けられたが、左前腕に矢が突き刺さった。
くそっ、これじゃあまともに動かせねえ。
「これで左手は使えなくなったはずだ!
リック!」
「ああ!」
舐めるなよ。
確かにほとんど動かせないが、魔法を使うくらいはできる。
左手からウィンドカッターを3連撃放つ。
「ぐっ……」
「リック!!」
3つ放ったウィンドカッターのうち、2つは顔と胴に命中し、リックがその場に倒れ込んだ。
ウィンドカッターだから骨は切れないが、致命傷にはなるだろ。
「くそっ、よくも!」
リーダー格の男が剣を引いた。
……引いたな。
それを待っていたんだ。
剣は引いて振りかぶらないといけないから不便だよなあ。
だが魔法は違う。
そのまま伸ばせばいいだけだ。
リーダー格の男が引いた剣を再び振り下ろしてくるその前に、俺のマジックブレードは相手の頭を貫いた。
「アレン!」
こいつはアレンって名前だったのか。
まあ、もう死んでいるがな。
さて、後は射手とさっきから何もしていない女のみ。
「くそおおおお!!」
射手のダニエルが2本の矢を番え、弓を水平に構えて放ってくる。
その場に伏せてやり過ごし、クラウチングスタートの要領でダニエルへ駆け出す。
ダニエルは弓矢を捨てナイフを出すが……そんな小さいナイフで何ができる。
右手からマジックブレードを出し、そのままダニエルの胸目掛けて突き刺す。
右手のマジックブレードへの集中を解き、残った女の方へ振り向く。
「お願い、殺さないで……」
こいつに戦う気は無さそうだな。
女を甚振る趣味は無いし、こいつはいいか。
それより最初に戦闘不能にしたジョンとリックにトドメを刺さないと。
戦いが終わり、ズキズキと痛みが強くなる左手を庇いながら2人の元へ行き、マジックブレードでしっかりと頭を潰す。
それが終わり、クレアと呼ばれていた女の元へと戻る。
顔は……まあ、悪くないが完全に怯えてるな。
こいつを連れて行って性奴隷にするのもありだが、無理矢理はな……。
まあ、見逃してやるか。
「包帯は持っているか?」
「は、はい!あります!」
クレアが荷車のところへ行き、清潔そうな布を持ってきた。
遷移魔法で矢羽の方を折り、矢尻から矢を抜く。
「くっ……」
痛みが増し、さらに矢が刺さっていた場所から血が溢れてくる。
……本当に痛いのはここからだ。
服を脱ぎ、それを口に咥える。
そして、今も血が溢れ出いているところに右手を当て、大量の水で腕の中まで勢いよく洗い流す。
「ぐぅぅぅぅ……」
くっそ痛ええええ!!
これを二分間も続けるのかよ!!
1、2、3……。
118、119、120!!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ようやく終わった……。
くそっ、ギルドから教わったことだが、本当にこれでちゃんと治るんだろうな。
治らなかったらギルドごと壊滅させてやる。
顔を上げるとクレアが未だに怯えた表情で包帯を持って立っていた。
「今の隙に逃げるなり俺を殺そうとするなりしようとは思わなかったのか?」
「わ、私は……その……」
こいつに何かできたら戦っている最中にも何かしてきていたか。
消滅魔法で生成魔法で作成した水を完全に消し、クレアに左手を差し出す。
「包帯を巻け。それくらいはできるだろ」
「はい……」
クレアは怯えつつも近付いてきて、丁寧に包帯を巻いていく。
いい匂いがする……。
やっぱりクレアを連れて行くか?
いや、だがそれは超えてはいけない一線のような……。
どうする……。
「お、終わりました」
クレアが離れていく。
左手に目をやると、包帯がしっかりと巻かれ、安心感を感じさせてくれる。
クレアは未だに怯えており、早く俺にどこかへ行ってほしそうだ。
まあ、こいつは諦めるか。
「じゃあ、こいつは貰っていくぞ」
そう言って牛車の御者台に乗る。
「ま、待ってくれ!」
こいつ……商人か。
まだ逃げて無かったのか。
「それを持っていかれたら一文無しになっちまう。
勘弁してくれ。
食料なら積荷のを少し持っていっていいから」
「ほう、積荷は食料か」
荷車に掛けられていた布を剥がすと、大量の小麦や干し肉が積んであった。
「ありがたい、全部貰っていく」
「待ってくれえええ……」
ロープを引き、牛に出発の合図を送る。
後ろからは未だに商人の叫び声が聞こえる。
これでもう俺はもう人の街には入れないな。
だが、それでいい。
もう人の街に用はない。
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次回の更新はの2026年2月16日の予定です。




