第25話 訪問
俺が次ベルハイムの門をくぐるときは支部長を殺しに来るときだ。
そう決意を固め、ベルハイムから出る。
まだ門が開いたばかりで、人通りはほとんどない。
こんな朝早くから仕事に出かけるやつなんているわけないか。
エストーラに行けとか言われたが、バカ正直にエストーラに行く必要もない。
ゴブリンの村に誘われたし、そこに行ってみよう。
昨日の場所に行けばダンとカティに出会えるか?
適当に歩いていたから場所なんて分からないけど。
◇◆◇◆◇
うーん……。
また適当に森を歩いてみたが、昨日の場所に着かないな。
ダンとカティどころか、ゴブリンにすら全く出会わないし。
しばらく歩いていると、遠くに何やら動いているものを見付けた。
もしかしてゴブリンか!?
走って近づくが、ゴブリンらしき影が見当たらない。
『あれ〜、ゴブリンだと思ったんだけどな』
周囲に誰もいないから、その場を離れようとすると、茂みから声が聞こえた。
『えっ、仲間……?』
声がした方向を見ると、ゴブリンが茂みから出てきた。
『うわっ、人間だった!逃げろ!』
ゴブリンと目があった瞬間、そのゴブリンが一目散に俺から離れていった。
せっかくゴブリンを見付けたのに!
足を切って動きを止めるか?
いや、そんなことしたら村に入れてもらえなくなるか。
面倒だが追いかけるか。
走ってゴブリンを追いかけていると、体格差のせいか案外簡単に追いついた。
走っている人に追いつけるなんて初めての経験だ。
『待ってくれ!俺は人間だが悪い人間じゃない!
傷つけたりしないから信じてくれ!』
『えっ、本当に……?
俺はお前に殺されないのか?』
『ああ、絶対に殺さない。信じてくれ』
『うん、分かった……』
『信じてくれたのか。
それでな、俺はゴブリンの村に行きたいんだ。
村まで案内してくれないか?』
『村に?……何しに?』
何しに……?
確かにそうだ。
行く場所が無くて、ダンとカティに誘われたからってだけ。
特に用事はない。
『あー……まあ、いいから。とりあえず連れて行ってくれ』
『怪しい……。村長に相談しに行くから待っててくれ』
村長に相談?こいつが?
こんな明らかにアホっぽそうなやつに任せたら変なことになりそうだな。
『なら俺が村長と話をしよう。お前も面倒臭いだろ』
『うーん?それはいいのか?』
『ああ、村長と話をするだけだ。問題ないはずだ』
『うん、確かにそんな気がするな……』
『そうだろ?じゃあ、村長のところまで連れて行ってくれ』
『ああ、こっちだ』
とりあえず村長とは話させてもらえそうだ。
ゴブリンに付いていくと、ゴブリンの村に案内された。
……あれ、俺って村長と何の話をするんだっけ。
村は俺が来たことで大騒ぎになり、逃げ出すやつもいたが、俺の隣にいるゴブリンを見て立ち止まるやつもいた。
村の中で一番大きい家の中に入ると、そこには沢山のゴブリンの子供がいた。
多分3歳とか4歳とかそんくらい。
その子供たちの面倒を見ていた大人のゴブリンと目が合った。
『ブル!そいつはなんだい!なんで村の中に人間がいるんだい!』
ブルって、こいつの名前か?そういえば名前すら聞いてなかった。
っていうかまた説明しなきゃいけないのかよ。
村に入ってから何度目だよ。
『落ち着いてくれ。俺は人間だが、悪い人間じゃない。
危害を加えないから安心してほしい』
『なんで人間が私たちの言葉を……』
どいつもこいつも同じ反応する。
いい加減その反応にも飽きた。
『村長、俺達の言葉を喋る人間を連れてきました。
こいつを村に入れて良いですか?』
『入れて良いも何も、連れてきてるじゃねえか』
『えっ?あぁっ……!』
『何やってんだ、お前』
こいつが村長か。
……なんで裸なんだ?
他のやつらはみんな何かしらは身に纏っているのに。
裸の王様的な?
いや、あれは王様が騙されてる話か。
ゴブリンの村長って言っても、他のゴブリンと見分けが付かない。
みんな同じ顔で、体つきもほとんど変わらない。
こいつらはどうやって見分けているんだ。
……服?
着方は確かにみんな少しずつ違う。
『お前、本当に俺達に危害を加えないんだな?』
裸の村長が俺に話しかけてきた。
『ああ、約束しよう』
『そうか。
それで、この村に何しに来たんだ?』
『そうだな……。
ダンとカティっていう二人組を知っているか?
まだ子供なんだが……』
『……この村にはいないな。
もうじき祈りの儀の時間だ。
そこに他の村長も来る。
着いてくるか?』
『ああ、頼む』
祈りの儀って、なんだ?
キリスト教で毎週日曜に教会でやるミサみたいな感じ?
宗教って人間だけじゃなくてゴブリンにもあるんだなあ。
◇◆◇◆◇
『よし、行くぞ』
家の壁際でボーッとしていると、ゴブリンが俺に話しかけてきた。
誰だこいつ……なんかゴブリンにしては豪華な衣装を身に纏ってる。
……って村長か?
裸だから村長ってわけじゃなかったのかよ。
『ああ……。服着るんだな』
『当たり前だろ。さっきはヤった後だから裸だっただけだ』
事後だったのかよ。
嫌なタイミングで家に入っちまった。
村長に付いていくと、一際大きな木の下に来た。
俺達より先にゴブリンが来ており、この村長と同じような格好をしたゴブリンが数匹と杖を持った司祭っぽいゴブリンがいた。
こいつがゴブリンの宗教の中で一番偉いやつか。
司祭ゴブリンって呼ぼう。
『シュルツ村長、よくぞおいでくださいました。
そちらの人間は……』
また別の偉そうなゴブリンが一緒に来た村長に話しかけた。
こいつシュルツって名前だったのか。
『ゴブリンの言葉を話せる人間だ。
ゴブリンの友人を訪ねてきたらしい』
『ゴブリンの言葉を……』
『ああ、そのとおりだ』
司祭ゴブリンがジロジロと俺を見てくる。
『ん〜?お主どこかで……』
なんだよ。俺はお前なんて覚えてねえよ。
『こいつ!祭壇泥棒じゃ!』
祭壇?何を言っているんだ?
『祭壇を?本当か?』
『いや、身の覚えが……』
『本当ですじゃ。エーミールはこいつに殺されたんですじゃ』
エーミールって誰だよ。知らねえよ。
司祭ゴブリンをよく見てみると、胸に大きな傷がある。
『わしのこの傷もこやつにやられたんですじゃ!』
胸の傷。祭壇……。
『あっ……』
そういえば数ヶ月前、初めて森に入ったときくそ重い祭壇を街に持って帰ったことがあったな。
『心当たりがあるのか?』
『あっ、いやっ……』
言い訳を探していると、他のゴブリンが俺の顔を見て指さしてきた。
『こいつ、この前俺の村を滅ぼしたやつだ!』
『本当か、ペルニー村長!』
村を滅ぼしたって、つい数週間前そんなことをしたが……。
そうか、生き残りがいたか。
『心当たりがあるようだな。
それでよく村の中に入ってこれたもんだ。
俺の村も滅ぼす気だったのか?』
『違う!
確かに昔はそんなことはしたが、今はもうそんなことはしない!』
『昔……?たった十数日前だろ!』
そうか、まだ十数日か……。
『殺してやりたいところだが、俺達じゃ返り討ちに遭うだけか……。
今すぐこの森から出ていってくれ』
もう、こいつらが俺を受け入れてくれることは無いか……。
『分かった』
その場を後にし、森の外へと向かう。
くそっ、なんで俺ばっかり何もかも上手くいかないんだ……。
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次回の更新はの2026年2月13日の予定です。




