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第24話 追放

 窓から差し込む陽の光で目を覚ます。

 今朝も1人。

 所持金を確認すると……残り560ゼニー。

 食費や宿泊費を考えると1日分しかない。

 昨日までの9日間はほぼずっと歩きっぱなしだったし、今日一日くらい休んでも良いんだが、やっぱり今夜も女を買いたい。

 仕方ない。今日も仕事するか。


 朝食を食べてからギルドの受付に来ると、今回の担当はよく知った顔だった。

 子供ばかりの受付に大人のフェリシアがいると目立つな。


「コーマおはよう!休まず仕事するなんて偉いね!」

「おはよう。今日からもう受付にいるのか」


 フェリシアが新品のギルドの制服を着ていた。

 似合っているとか言った方が良いのか?

 フェリシアの後ろには教育係らしき子が立っている。

 顔はたまに見るが名前は知らん。


「じゃあ冒険者章を見せてもらえる?」

「ああ……」


 ポケットから冒険者章を取り出してフェリシアの前に置く。


「毎回こうしてるが、意味あるのか?

 他の人はともかく、フェリシアは俺の名前とランクは分かるだろ」

「仕事の紹介のミスを無くすために必要なんだって!

 あと、ギルドの職員さんはみんな冒険者の名前とランクは覚えてるよ!」

「そうなのか……」


 みんなって、みんな?

 フェリシアの後ろにいる中学生くらいの子も?

 受付してもらった覚えは無いんだけど。


「うん、冒険者章は確認したよ!

コーマは星5だから人数制限がない仕事ならなんでも紹介できるけど、今日は何する?」

「森に行ってゴブリンを倒してくる。10匹くらいは倒す予定だ」

「いつもの森だね。……うん、コーマなら問題無いね。いってらっしゃい」

「ああ」


 受付から離れてから軽く振り返ってみると、フェリシアは教育係の子の方を向いており、教育係の子は頷いていた。

 フェリシアはこれからギルド職員として色々な人に囲まれながら生活していくんだろうな。


 街を離れ、森へ向かっている最中、外壁工事の仕事をしているレオンとセレナを見つけた。

 俺が外壁工事をしていたときよりも進捗は進んでいるが、新しい外壁はまだ街の3分の1も囲っていない。

 いつになったら完成するんだろうな。




 森へと到着し、散策を始めてはや数時間。

 ゴブリンが見つからない。

 いつもどうしていたんだっけ。

 4人でいたときは、フェリシアが待ち伏せ場所を決めてセレナがゴブリンを探していた。

 ……俺1人なんだから待ち伏せなんてする必要はないな。

 えーっと、前に1人で来たときはどうしていたんだっけ。

 適当に歩いていたらゴブリンに出会った気がするが……。

 っていうか、今俺はどこにいるんだ?

 こういうときどうすればいいんだっけ。

 目立つものを探す……って言っても森が深くてよく分からないし。

 そういえば、前に1人で来たときは帰り道が分かるように川の近くを歩いてたんだっけ。

 なら川を……って、川はどこなんだよ。


 ……はあ、もういいか。

 最悪このまま街に帰れなくても。

 木にもたれかかって座り、昼食として持ってきたパンと干し肉を取り出して食べる。

 上を見上げると木漏れ日が顔に降り注いでいた。

 木や土の香りが鼻に入り、気分が落ち着いてきた。

 このままずっとここにいるのも良いな。


 昼食を食べ終え、微睡んでいると足音が聞こえた。


『人間か?死んでんのか?』


 2匹のゴブリンが俺の顔を覗き込んでいた。

 そのうちの一匹のゴブリンと目が合った。


『うわっ!生きてた!逃げろー!』


 ゴブリンは二匹とも走ってどこかへと去っていった。

 なんだあいつら。

 身長から考えると子供っぽいが。


 そういえば、俺はゴブリンを殺すためにここに来たんだっけ。

 ならあいつらも殺さないと。

 ……いや、いいや。

 身体を動かすのが面倒くさいし、殺したところで街に帰れないんじゃ意味がない。

 もう一眠りするか。


 ◇◆◇◆◇


『やっぱ死んでんのか?』

『でもさっき動いてたよ』


 なんだまた来たのか。


『寝てるだけだ。死んでねえよ』

『うわっ、喋った!』


 喋ったって……。

 そういえば、ゴブリンから見ても言葉が通じる人間は珍しいんだったか。


『早くどっか行け。殺しちまうぞ』

『えっ、俺達を殺すのか……?』

『……いや』


 こんなガキ殺しても肉の買取額が下げられるだけだ。


『なら良かったー。村長に人間は悪いやつだから見付けたらすぐに逃げろって言われててさー。

 この前なんかボルゴ村が人間に潰されたとか聞かせれたんだよ。

 ……でも、お前は良い人間っぽいな!』

『うん、あんまり怖くない』


 ボルゴ村?

 村ならこの前一つ潰したが……。


『俺はコーマだ』

『コーマ……。俺はダン』

『私はカティ』

『2人は兄妹か?』

『母親は違うよ。でも同じ月に産まれたんだ!』


 ようは幼馴染ってことか。


『大切にしろよ』

『うん!』


 立ち上がり、伸びをする。

 座って寝ていたからか身体が痛いな。


 こいつらを殺す気にはなれないし、もう街に帰るか。


『街の方向は分かるか?』

『なんだ、コーマは帰り道が分からなくなってたのか?

 ドジだなー。そんな人間見たことないぞ』

『そういうときだってある』

『そうなのか?

 人間はみんな何かを見て帰っていってるけど』

『うん、なんか丸いやつ見てる!』


 丸いやつって……あっ、コンパスか。

 ずっと使ってなかったから存在を忘れていた。

 確かポケットの中に……あった。

 何をやっていたんだ俺は。


『あっ!それ!それ何?』

『コンパスっていう方向が分かる道具だ』

『へー、そんなのあるんだ。

 それがあるのにコーマは帰り道が分からなくなったのか?』

『いや、忘れてたんだ』

『やっぱコーマはドジだなー!』


 ゴブリンにまで笑われるなんて……。

 だが、心地いいな。

 こんな風に生きれたら良かったんだが。


『じゃあ、俺はもう行くよ』

『もう行っちゃうのか?』

『私たちの村に来ればいいのに』

『俺は人間だ。そんなわけにはいかないだろ』

『そっか……』

『じゃあ、元気でな。もう会うことはないだろうけど』


 2人を置いて街の方へと歩き始める。


『気が変わったらいつでも来いよー!』


 適当に手を振って応える。

 ゴブリンの村か……。

 それもいいかもしれない。


 あっ、金が無いんだった。

 ……明日また考えるか。


 ◇◆◇◆◇


 街に戻ってくるときにはすっかり暗くなっていた。

 夜になると身体が疼く……。

 だけど金は無いから今日は女を買えない。

 やっぱりあの二人の子供に村まで案内させて大量に殺すべきだったか?

 なんとか金をかけずに女を抱く方法は無いか……。


 そんなことを考えながらギルドに入ると、大勢の人が受付に並んでいた。

 この時間だとこんなに大量にいるのかよ。

 受付の的口は4つあり、一列に並んで先頭から空いたところへ入る方式だ。

 今朝はその窓口にフェリシアがいたが、今はいない。

 その代わりユフィが窓口に立っていた。


 そうだ、ユフィだ。

 フェリシアには断られたが、俺にはまだユフィがいた。

 ユフィを恋人にしたらヤるのに金は必要ない。

 フェリシアのときはいきなりヤらないかと言ったから断られたが、そんなことは言わず紳士に付き合おうと言えば断られないはずだ。


 俺が列の先頭になりユフィの窓口が空くのを待つが中々空かない。

 待っている間に他の窓口が空いたから後ろの人に譲る。

 そんなことを何回か繰り返しているうちにユフィの窓口が空いた。


「……次の方どうぞ」


 ようやく俺の番だ。

 ユフィの窓口の前に立ち、冒険者章を出す。


「コーマさんですね。本日は森に行かれたようですね。

 成果はいかがでしたか?」

「今日は前日までの疲れがあって何もできなかったんだ。

 だから成果はない」

「そうでしたか。お疲れ様でした。

 申し訳ございませんが、コーマさんは星5冒険者のため、最低報酬のお支払いはございません。

 本日は以上になります。

 お疲れ様でした」

「えっ、もう終わり?」

「はい。他に何かご要件はございますか?」

「いや、前の人とは随分と長く話していたようだったから」

「……確認することが多くございました。

 お待たせしてしまい申し訳ございませんでした」


 ……まあ、そういうこともあるか。


「それより、この後一緒にご飯を食べないか?」

「申し訳ございませんが、ギルドの業務がございますのでご期待にはお答えできかねます」

「いや、それが終わってからで良いんだ」

「ギルドの業務は夜遅くまで続きます。それまでお待たせするわけには参りません」

「気にしない。気にしないから一緒に食べないか?」

「そういうわけには参りません。

 コーマさんはお疲れのようですから、本日はしっかりお体をお休めください」

「いや、もうさっき十分休んだから元気なんだ」

「そうは思っていても身体はそうではないこともございます。

 本日はもうお休みください」


 くそっ、埒が明かない。

 こうなったら……。


「ユフィ、お前が好きなんだ。俺と付き合ってくれ」

「……フェリシアさんから様々なお話を聞いております。

 その言葉が真剣なものでしたら一考の余地はございましたが、そうではないようですね。

 お引き取りください」


 フェリシアはノエルだけでなくユフィにも話していたのかよ。

 どれだけ口が軽いんだ。


「いや、俺は真剣だ。

 この前気付いたんだ。

 俺にはユフィしかいない。

 だから俺と付き合ってくれ」


 ユフィはため息をつき、受付のカウンターの下から何かを取り出した。


「昨日、酒場で女性を買っていますね。

 真剣に考えている人がこのようなことをするでしょうか?」

「それは……その後に気付いたんだ。だから、」

「日付の浅い気付きですね。

 それを真剣とは言いません」


 ああ、本当に面倒だ。

 付き合うとか恋人だとか、そんなことどうでもいいんだよ。


「もういい、こっちに来い」


 ユフィの手を引っ張り、無理やりギルドの外に連れて行こうとする。


「流石にそれは見過ごせんな」


 声のした方を見ると支部長が立っていた。


「お前、いつから……」

「少し前からだ。女性職員への過度な付き纏い、そして今の暴行。

 支部長としてこれを許すことはできない」

「だから何だって言うんだよ」

「ベルハイムから追放する」

「は?お前にそんな権限があるわけ……」

「確かに俺にこの街に関する権限は無いが、私はお前を殺しても罪には問われない」

「殺せるもんなら、」


 そう言った瞬間、濃密で細い魔素が俺の首に巻き付く。


「試してみるか?」


 こんな濃い魔素、俺じゃ防げない。

 なら殺される前に!


「魔素の動きが分かるのが自分だけだとでも思っているのか?」


 魔素を少し動かした瞬間、首の細い魔素が少し縮み、首の薄皮が切られた。

 この感じは……。

 これは、こいつに最初にやられた魔法。

 ……ああ、そうだ。思い出した。

 俺は元々こいつを殺すために強くなると決めたんだった。


 こいつは絶対に殺す。

 だがそれは今じゃない。

 今の俺じゃ、こいつには勝てない。


「……分かった。ここを出ていく」


 首の周りの魔素が消えた。

 とりあえず今殺されることは無くなったか。


「追放先は……そうだな。

 ここから北北西に行ったところにエストーラという街がある。

 その街で最近新しくギルドが設立された。

 そこに行け」

「ああ、分かった」

「出発は翌朝でいい。

 ギルドに顔を出す必要はない。

 そのまま出発しろ」

「ああ……」


 ギルドを出て宿へと向かう。

 くそっ。

 あああああ!!

 くそっ、くそっ、くそっ!!

 俺は強くなったはずだったのに!!

 なんなんだ、あいつ!

 なんで俺より強いんだ!

 俺は、まだこんなにも弱かったのか……。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新はの2026年2月9日の予定です。

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