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第23話 帰還

 トラメリアの北門から街の外に出て、東のベルハイムを目指す。

 盗賊が根城にしているのは元々ゴブリンがいたらしい西の森だが、人の行き来が激しいのは東側であり、東の鉱山には隠れる場所が沢山あるため、昼はそこで待ち構えていることが多いと聞いた。

 つまり、鉱山の近くに着くまでは比較的安全というわけだ。


 トラメリアの街の北側は、ベルハイムのような小さい畑が沢山ある農場とは違い、広大な農場が広がっている。

 農場は大きく4つのエリアに分かれており、家畜がいるエリアや麦を育てているエリアなどがある。

 ノーフォーク農法だっけ?

 学校で勉強したのはつい最近のはずなのに遠い昔のように感じる。


「ねえ、コーマ。本当に盗賊と戦うの?

 私、戦える自信無いよ?」


 荷車の後ろからフェリシアが声を掛けてきた。

 俺もフェリシアも往路で魔法の練習を沢山したおかげで、手で荷車を押しながら魔法でも押せるようになった。

 じゃなきゃ荷車が重くて中々進まないし、俺の負担が大き過ぎてキレてる。


「俺一人で戦うからいい」


 っていうかフェリシアの戦力なんてあてにしてねえよ。

 邪魔にならなけりゃそれでいい。


「うん、ごめん……」


 それ以来フェリシアは静かになり、風の音や荷車の音、家畜の鳴き声のみが耳に入ってくるようになった。


 ◇◆◇◆◇


 しばらく歩いていると農場の縁に到着し、岩が多く見えるようになった。

 ここからはどこに盗賊が隠れているか分からない。

 魔素の動きに注意して、どんな魔法でも見逃さないようにしないと。


 警戒しながら歩いていると、目の前に5人、魔法の準備もせずに現れた。

 手には剣を持っているが……。


「そこで止まれ。積荷と金を置いて失せな」


 みすぼらしい格好に今のセリフ。

 こいつらが盗賊か。


「コーマ、後ろにも……」


 後ろを見ると、そちらにも同様に5人が剣を持って立っていた。

 右も左も険しい岩場で、荷車を押しながら逃げることは出来なさそうだ。


 盗賊は10人いて全員剣を持っているが、俺とフェリシアは丸腰。

 傍から見れば相手の言うことに従うしかない場面だが……盗賊は誰も魔素を溜めていない。

 こんなのゴブリンと変わらないじゃねえか。


「お前ら、本当に俺とやり合う気か?

 逃げるなら今のうちだぞ」

「この状況が分かってんのか?

 お前らは護衛も雇えない貧乏商人だろ?

 今荷物を置いて逃げるなら見逃してやるって言ってんだよ!」


 おおっ!盗賊っぽいセリフ!

 まさかこのセリフを生で聞けるとは!

 えっと、こういう場合ってなんて言えば良いんだっけ。


「お前らみたいな雑魚相手に逃げるわけないだろ。

 殺されたいやつからかかって来い」

「ちょっと、コーマ!?

 なんで煽ってんの!?」

「お前、殺されてえのか?」


 さっきから喋っているリーダーっぽいやつが前に出てきた。


「そんなに殺されてえなら殺してやるよ!」


 剣を大きく振りかぶって振り下ろしてくる。

 狙いは……肩か。

 殺してやるとか言いながら殺す気ねえじゃねえか。


 殺すっていうのはこうやんだよ。

 ウィンドカッターを目の前の盗賊の首目掛けて放つ。

 その直後、さっきまで自分の足で立っていた盗賊がもたれ掛かってきて、首は横に落ちた。


「ひっ!」

「こいつ魔法使いだ!逃げろ!」


 魔法で一人殺して見せたら逃げるのもゴブリンと同じだな。

 っていうか今、後ろからフェリシアの悲鳴が聞こえなかったか?

 沢山ゴブリンを殺してきておいて今更なんで悲鳴上げてんだよ。


 前後で道を塞いでいた盗賊はそれぞれ前後に逃げて行った。

 全滅させるのは無理か。

 前に逃げていったやつだけでも殺すか。


 ◇◆◇◆◇


 4つの死体を引きずりながら元の荷車の場所に戻ると、フェリシアは俺がさっき追いかけ始めたときと全く同じ体勢で固まっていた。

 太ももの肉くらい切り分けといてくれよ……って思ったが人間の太ももの肉なんてギルドは買い取ってくれないか。


「まさか、みんな殺したの?」

「当然だろ。今までもそうだっただろ?」

「今までって……ゴブリンと人間は違うよ!」

「違わないだろ。

 どっちも生き物だし言葉も通じる。

 何が違うんだよ」

「言葉は……コーマはそうかもしれないけど。

 でも、人間は人間。

 私たちと同じ人間なんだよ!」

「だが、俺を殺そうとしてきたんだぞ」

「最初の人はそうかもしれないけど、他の人は違うでしょ!」

「同じグループだろ。

 今までだって直接攻撃してきていないやつも沢山殺してきた」

「だから、それはゴブリンでしょ!」

「うるせえな」

「うっ……」


 少し睨んだだけで怯むなよ。

 俺を殺そうとしない限りは殺しはしねえよ。


 死体を放置するわけにはいかないし、埋めなきゃいけないか。

 ここらへんの地面は固いんだよな。

 少し離れたところに木が見える。

 面倒だが、そこまで持っていってそこに埋めるか。


 フェリシアは……使い物にならないが荷物番くらいできるだろ。


「こいつらを埋めてくるからお前はここで荷物を見張ってろ」

「えっ、埋めるって……」


 ◇◆◇◆◇


 盗賊を埋めてから元の場所に戻って来た。


「コーマ、埋めるって……」

「いつも通り埋めた」

「いつも通りって……。

 そう……」


 なんだその反応は。

 いつも通り穴に入れてミンチにしただけだろ。


 ふと気がつくと、いつの間にか周囲が暗くなり始めていた。


「そろそろ野営の準備をしないとだな」

「えっ、ここで?」

「ああ、そのつもりだが」

「流石にもう少し進んだところにしない?」


 確かに、ここだとまた盗賊に襲われる可能性があるか。

 いくら強さはゴブリンと同じくらいとはいえ、また埋めに行くのが面倒だ。


「そうだな」


 ◇◆◇◆◇


 盗賊に襲われてから4日。

 ようやくベルハイムに到着した。

 道中、もう盗賊に襲われることは無かったが、ゴブリンには何度か襲われた。

 フェリシアは盗賊とは戦わなかったくせに、ゴブリンとは戦っていた。

 違いが分からん。


「買取の査定が終わりました」


 今は持ってきた装備をギルドで査定してもらっていたところだ。

 9日も掛かったんだ。

 それなりに貰わないと割に合わん。


「今回の査定額は40000ゼニーでした。

 ここから輸出税などの交通税、荷車のレンタル料を引きまして29000ゼニーになります。

 また、お貸しした金額の返済分を差し引きまして、報酬は4000ゼニーです」


 4000ゼニーだけ!?

 しかも、この報酬は半分ずつ分ける上に、初回登録料の返済分も引かれるから俺の手元には1800ゼニーしか残らない。

 これじゃあ道中の食費の分を引いたらほとんど残らない。


「すこし少ないかもしれませんが、今回は初回ですのでお貸しできる金額は少なく、また荷車しかお貸しできませんでした。

 次回以降はお貸しできる金額が増え、またさらに増えれば船やそれを引く牛をお貸しできます。

 報酬も徐々に増えていきますから、今回は何卒ご容赦ください」


 その文句は前世でもう聞き飽きた。

 9日かけて1800ゼニーだけとか、これならゴブリンの村を潰していた方が良かった。


「コーマ、ちょっといい?」


 フェリシアに袖を引っ張られた。


「ああ」


 フェリシアがギルドの入口の方へと歩き出した。

 付いてこいってことか?


 ギルドの外へ出ると、少し冷たい風が吹き付けてきた。

 段々と気温が下がってきたし、そろそろ冬になるのか?


「私ね、冒険者を辞めようと思う」

「どうしたんだ、急に?」

「ううん、ここ最近ずっと考えてたんだ。

 私はこの先もずっと冒険者としてやっていけるのかって。

 私にはコーマみたいなすごい力とか無いし」


 何をいまさら。

 俺より力が劣っているのなんて魔法講習のときからずっとそうだろ。


「それでね、今回の仕事で思い知ったんだ。

 私には冒険者は向いてないって」

「そうか……」


 まあ、今回の仕事でフェリシアは荷車を押す以外は役に立ってなかったし。

 盗賊とは戦わなかったし、ゴブリンだって俺一人で殲滅できた。

 なんなら報酬を山分けにしないといけない分、いない方が良かったかもしれない。

 もしそうだったら3600ゼニー。

 これならギリギリ納得しなくもない金額だ。


「もし私がいなくなっても、コーマなら一人でやっていけると思う」

「まあ、そうだな」

「うん……。

 それでね、私冒険者を辞めた後はギルドの職員になろうと思うんだ。

 だから、関わり方はちょっと変わるけど、これからもよろしくね」

「ああ、分かった」

「それじゃあ、これからも頑張ってね。

 今までありがとう」

「ああ」


 話が終わり、その場を後にする。

 明日からは一人か……。

 まあ、その分報酬が増えるからいいか。


 さて、そんなことよりもエリーだ!

 金はすこし少ないが、9日ぶりに沢山遊ぶぞ!!


 ◇◆◇◆◇


 酒場へと行き、エリーを探す。

 ホールには……いないか。


 少し待っていると、階段からエリーが降りてきた。


「コーマ様!お久しぶりですにゃ!」

「ああ。とりあえずいつもの頼む」

「はい、少々お待ちくださいにゃん」


 エリーがお尻を横に少し揺らしながらキッチンへと歩いていく。

 この世界は猫耳も尻尾も無いからなあ……。

 尻尾がゆらゆらと横に揺れるのを想像しながらエリーを見送る。


 トラメリアの二人も良かったが、やっぱりエリーの方が良いな。

 今夜が楽しみだ。


 ◇◆◇◆◇


 飯を食べ終え、満腹になった。

 腹が満たされたら次は……。


「なあ、エリー。今日も朝までいいか?」


 そう言いながら1500ゼニーを差し出す。


「申し訳ございません。

 先日も申し上げた通り、私は借金額が多く、その金額で朝までは……」


 そういえば、前は5000ゼニー払ったんだったか。

 今の俺にそこまでの金は無い。

 っていうか、朝までは駄目ってことは……。


「エリー、もしかして俺以外にも相手しているのか?」

「はい。そうですが……」


 は?なんだそれ。

 俺が身請けしてやろうと思っていたが、俺以外の男も相手にしていたのか?

 俺の女は俺以外を相手にしちゃいけないに決まってるだろ。

 そんなの、俺の女になる資格はない。


「えっと、どういたしましょうか?」


 ああ、くそっ……。

 まあ、とりあえず今夜はこの女でいいか。


「上に行くぞ」

「はっ、はい!」

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新はの2026年2月6日の予定です。

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