第19話 運搬
……朝か。
昨日は結局二回戦までしかできず、疲れて眠ってしまった。
朝までっていうのは体力が続かないもんだな。
「おはようございますにゃ、コーマ様」
声のする方向を見ると、昨晩沢山愛し合ったエリーが俺に優しく微笑みかけてきていた。
「おはよう、エリー」
布団の隙間からわずかにエリーの体が見える。
昨日も一昨日もこの体と……。
「昨日二回しかできなかったし、今からもう一回いいか?」
「えー……特別ですにゃ?」
◇◆◇◆◇
あーー、爽快な朝だ。
昨日のことなんてもうどうでもいい。
またエリーを一晩中指名するために今日も稼ごう。
エリーの借金を俺が全て肩代わりしてエリーを身受けするっていうのも良いな!
昨日の金額くらい稼いでいればすぐに返せるだろ。
ギルドへ向かって歩いていると、ギルドのすぐ横のいつもの集合場所にフェリシアがいた。
「もう!コーマ、遅いよ!いつまで寝てたの!?」
「ああ、悪い……。
パーティは解散じゃないのか?」
「レオンとセレナが抜けただけでしょ?
私も抜けるなんて言ってないよ」
そりゃフェリシアは言ってなかったけど……。
「フェリシアもレオン達と外壁工事の仕事に戻るもんだと思ってたから……」
俺がそう言うとフェリシアが睨んできた。
「昨日あんな感じだったのに、私がレオン達と一緒に仕事できると思う?」
「いやっ、まあ、そうだな……」
あんなにキッパリと振られたらなあ。
しかも俺やユフィの前で。
「私はもうそんなことは忘れたいの。分かる?」
「ああ……うん」
「だからもう昨日の話はしないで。
それと他にも私が忘れたそうなことがあったらそれも話題に出さないで」
「あっ、ああ……」
フェリシアってこんなに自分の考えを言うタイプだったっけ。
お喋りだとは思ってたけど。
告白か……、
前世で俺が告白した時は次の日クラスのみんなが知っていて笑い物にされたっけ。
あの時は誰にも触れてほしくなかった。
それは今のフェリシアも同じなんだろう。
うん、昨日のことはもう絶対に口に出さないようにしよう。
他のフェリシアが忘れたそうなこと……は分からないけど、とりあえずレオンとセレナの話題は出さないようにしよう。
「じゃあ今日も張り切って仕事しよー!」
フェリシアと一緒にギルドに入ると、時間が遅いせいか列はできておらず、すんなりとユフィの受付に来れた。
「コーマさんは本日から星5の仕事を受けられますね。
星5の仕事は主に商隊の護衛と物資の運搬の2種類があります。
どちらも商品を運ぶ仕事ですが、商隊の護衛の場合は人数が必要ですので、お二人のみでお仕事をする場合は物資の運搬のみご紹介可能です」
護衛と運搬って駆け出し冒険者の仕事じゃないのか?
星5って冒険者の最高位だよな?
そんなつまらない仕事なの?
もっと国家の一大事とか、一つの街を滅した強敵の退治とか、そういうのじゃないの?
「私は安定しない星4の仕事よりも運搬の仕事の方が確実だし良いと思うんだけど、どう?」
ゴブリンの村を壊滅させたときの報酬は良かったが、他のゴブリンの村の場所が分からないしな。
セレナがいたら見つけるのはまだ簡単だったんだが……。
まあ、もういない奴のことを考えても仕方がない。
「俺も運搬でいい」
「じゃあ決まりだね!」
「運搬の仕事はトラメリアで鉄製の武器や防具を仕入れ、ベルハイムまで持ってきていただく、数日かかる仕事です」
トラメリアか……。
まだそれほど時間が経っていないのに懐かしい。
トラメリアの商品をベルハイムに持ってくるって、ようは交易か。
交易なら手ぶらでトラメリアに行くのは損だな。
「トラメリアで何かを買ってベルハイムで売るのはいいのか?」
「もし買取手にお心当たりがあれば構いませんが、ギルドでそのような紹介はできかねます」
使えないな。
まあどうせ何回も往復することになるだろうし、自分で見つけるか。
そうしたらギルドに中抜きされることもなく、利益は全部自分のものだ。
「ベルハイムまで持ってきていただいた際、ギルドでは買取という扱いになります。
トラメリア産の鉄の製品ならなんでも買取りしますが、その値段は時々によって異なります。
現在は短剣やレイピアなどの武器の購入額が高めに設定されています。
また同じトラメリア産でも品質にばらつきがございます。
こちらの基本額に品質の評価額を加えた値段が最終的な買取額です」
そう言って、木の枠で囲われた小さな黒板みたいなものを見せてくれた。
これは……蝋?そこに文字が刻まれている。
値段だけなら直剣や鎧の方が高いが、多分仕入れ額も高いんだろうな。
「また、運搬の仕事を請け負ってくださる星5冒険者にはギルドからの融資がございます。
最初は少額ですが、売却数により金額は上昇していきます」
「ならできるだけ貸してくれ」
「では上限の25000ゼニーをお渡しいたします。
これはあくまで融資ですので、もし道中ゴブリン等に襲われるなどして商品を奪われてしまった場合は借金として残ってしまうのでお気をつけください」
なんか、奨学金の説明会みたいだな。
ユフィから25000ゼニー硬貨を1枚受け取り、ポケットに入れた。
「ギルドから船や荷車をお貸しできます。
初回ですし、運搬量も少ないでしょうからレンタル料金の低い荷車はいかがでしょうか?」
ああ、運搬か。
ラノベならアイテムボックスで楽できるんだが、そういう便利な魔法はないからな。
「じゃあそれを貸してくれ」
「かしこまりました。
レンタル料は100ゼニーです。
破損された場合は別途修理費用がかかりますのでご注意ください。
それでは荷車まで案内します」
ユフィに案内され、魔法講習を行っていたギルドの裏手に来た。
ここでは今日も魔法講習が行われている。
「こちらの荷車をご利用ください。
トラメリアまでの道のりは分かりますか?」
「ああ、前に通ってきたからな」
「トラメリアまでは距離があります。
何が起こってもいいように入念に準備をしてください。
ではお気をつけて」
「うん、ありがとね!ユフィ」
この荷車をずっと押しながらトラメリアまで歩いくのか。
これだけでも重そうだし、帰りはさらに鉄の商品が乗る……。
「ほらっ、コーマ!」
「えっ、なんだ?」
「ユフィはもうギルドに戻るんだよ。
ここまで色々手続きしてくれたんだからお礼を言わないと!」
「あっ、ああ……。ありがとう」
ユフィは職員としての仕事をしただけだろ。
礼なんて言う必要あるのか?
「いえ。お怪我されないようにしてお気をつけください」
ユフィがにこりと笑ってからギルドに戻っていった。
……ユフィの笑顔なんて久しぶりに見た気がする。
「さて、それじゃあ食料から買いに行こう!」
◇◆◇◆◇
1週間分の食料や着替え、荷車が壊れたとき用の修理用品を荷車に積んで街の外に出た。
これから通い慣れたゴブリンが出る森のそばを通りながらトラメリアがある西を目指す。
トラメリアに来たときは護衛の人がいたから安心していたが、今回は護衛はいない。
そんな緊張感の中、しかも荷車を押しながらなんて……。
「よしっ、じゃあユフィから教えてもらった遷移魔法の使い方を試してみるよ!」
……フェリシアは不安とか無いのか?
「どんな使い方なんだ?」
「えーっと……。ってコーマには見てもらった方が早いね」
そう言ってフェリシアが魔素を荷車の後ろと地面の間を繋げた。
「んっ〜〜!」
フェリシアが唸ると同時に、荷車と地面の間に多くの魔素が送り込まれ、荷車が少し動いた。
なんか……ボトルジャッキ?
「はあ、結構魔素をこめないといけないね。コーマもやってみて」
フェリシアと同じように魔素を流すが、中々荷車が動かない。
どれだけ魔素を込めたらいいんだ?
荷車を壊すわけにもいかないし……。
少しずつ魔素の量を増やしていき、魔臓の魔素吸収量を最大まで上げてようやく動き出した。
「おお!流石コーマだね。私よりも沢山動いてる!」
荷車を動かすことはできたが、こんなのずっとやってられないぞ。
掃除機を強で使ってたらすぐにバッテリーが切れるのと同じ。
魔臓の消耗が大き過ぎる。
ウィンドシックルみたいな単発だったら慣れているが、こんな風に継続して使い続けるのはまだ慣れてないんだ。
「ユフィに聞いたんだけどね、これが遷移魔法の練習にちょうどいいんだって。
街道はゴブリンが出てくるから魔臓を消耗し切るわけにはいかないけど、少しずつ練習しながらトラメリアを目指さない?」
えぇ……辛いからやりたくないんだけど。
いや、俺の経験10倍のスキルならすぐに辛くなくなるか?
どうせ時間がかかるし、何かやりながらの方がいいか。
「ああ、練習しよう」
「うん!じゃあ、一人は荷車の前で普通に引いて、もう一人は後ろで遷移魔法を使いながら押そう!
最初は私が前で引くから、魔臓が消耗しきる前に言ってね」
そう言ってフェリシアが荷車の前の方へ行き、荷車を引き始めた。
遷移魔法の練習……って荷車が動いてるんだけど!
いや、フェリシアが引いてるんだから当たり前なんだけど。
こんなに動いていたらさっきみたいにやるのは無理だろ。
「ちょっと、フェリシア、ストップ!」
「えっ、どうしたの?」
「フェリシアが進むペースが速くて練習どころじゃない」
「あっ、そっか。
って言っても進まないわけにもいかないし……。ゆっくり進んでみる?」
「ああ」
「じゃあ、少しずつ進むね」
そう言ってまた荷車が動き出した。
これくらいならなんとか合わせられそうだ。
「おっ……慣れてきたら言ってね。少しずつペース上げるから」
後ろから押される感覚があったんだろうな。
動いてる荷車に合わせてボトルジャッキを合わせて押し、押し切ったらボトルジャッキを作り直してまた押す。
この繰り返しだ。
……なんか無駄が多い気がする。
普通に手から魔素を出して直接押せばいいんじゃないか?
うん、ちょっと力を入れないといけないけど、普通に押せる。
なんだったんだ、あの方法。
「急に押され始めたけど、もう慣れたの?」
「ああ、普通に手から魔素を出して押してるんだ」
「うん……?えっと、じゃあ普通に歩くね?」
「ああ、構わない」
◇◆◇◆◇
魔臓が疲れてきたな。
段々と魔素の量が減ってきた。
「フェリシア!そろそろ代わってくれ!」
「うん、分かったよー!」
フェリシアと代わり荷車の前に行き、荷車を引き始める。
「ちょっ、ちょっとコーマ待って!
私も練習したいからゆっくり進んで!」
「ああ、地面から押さないで手から押せば楽だよ」
「手からってどういうこと?」
「だから、普通にこうやって押すだけだよ」
「……それだと手で押すのと変わらないでしょ?」
「いや、遷移魔法は使ってるし」
「でも、足で踏ん張るでしょ?それだと荷車が重くなったときに大変だよ」
確かに荷車を押すとき力を入れてたけど。
なんだよ、せっかく簡単な方法を思いついたのに。
「私はさっきの方法でやるからゆっくり歩いてね」
「チッ……ああ、わかったよ」
はあ、面倒くさいな。
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次回の更新はの2026年1月23日の予定です。




